覚悟
地下通路を駆け上がる。
背後では、岩が砕ける音と、獣じみた咆哮が響いている。
華は先頭で村人を誘導し、隊員たちが支える。
迅も走っている。
だが――
胸の奥が、ざわつく。
なんで俺は逃げてるんだ?
足が鈍る。
これじゃ、力を手に入れても何も変わってないじゃないか。
みんなを守るんだろ?
一歩、止まる。
「何してんの!」
華の声が飛ぶ。
「早く行くよ!」
迅は振り返る。
「……ごめん、華さん」
静かに言う。
「俺、やっぱりアイツと戦うよ」
華の表情が固まる。
「みんなを守るって誓ったんだ」
迅の目は揺れていない。
「華さんはこのままみんなを連れて離脱して」
「俺は必ず隊長を助ける」
覚悟を決めた目。
華は唇を噛む。
「……じんくん」
一瞬、迷い。
だが、副隊長としての判断。
「分かった」
「必ず助けを呼んでくるから」
「死なないでね」
迅は小さく笑う。
「ありがとう」
踵を返す。
地下へ。
⸻
轟音。
瓦礫が砕け散る。
守剛が、悪魔に首を掴まれていた。
宙に持ち上げられている。
中級悪魔の腕が軋む。
トドメを刺そうと、爪が振り上がる。
「――っ!」
迅が飛び込む。
刀を振り抜く。
悪魔の腕に斬撃が走る。
守剛が落ちる。
迅が支える。
「隊長、大丈夫ですか!」
守剛は荒い息を吐く。
「……逃げろと言っただろ」
迅は歯を食いしばる。
「もう、逃げてばっかで何も出来ないのはごめんです!」
一歩前に出る。
悪魔と対峙する。
「こいつは俺が――」
一瞬、言い直す。
「いや、俺と羅刹で倒します!」
「羅刹!」
紋章が、灼ける。
赤い光が爆ぜる。
ドクン。
ドクン。
右手が燃える。
掌から、剣が引き抜かれる。
赤黒い刃。
迅の額に、角がわずかに突き出る。
片目が、赤く染まる。
髪が逆立ち、空気が震える。
悪魔が咆哮する。
迅は踏み込む。
一閃。
刃が中級悪魔の胸を裂く。
初めて――
傷が入る。
悪魔が、呻いた。
地下の空気が張り詰める。
迅の呼吸は荒い。
だが、目は揺れていない。
戦いは、ここからだ。




