初任務
昼。
校門前に停まった輸送車の横で、女が大きく手を振っていた。
「おっきたきた! こっちだよー!」
明るい声が、やけに響く。
迅が近づくと、女はにっと笑った。
長い黒髪が風に揺れる。
「副隊長の宇都宮 華。よろしくね」
軽く手を差し出し、それから車体を叩く。
「はい乗って乗って。隊長達は先に行ってるから!」
迅は一瞬だけ眉を動かす。
「先に……?」
「うん。現地確認。私たちは後続ね」
あっさりした口調だが、目は仕事の色をしている。
迅は何も言わず、車に乗り込んだ。
扉が閉まる。
輸送車が動き出す。
揺れる車内。
向かいに座った華は、興味深そうに迅を見ていた。
「ねえ」
少し身を乗り出す。
「君の鬼って、どのクラスだったの?」
迅は視線を落とす。
「……分からない」
華の目が丸くなる。
「分からないの?」
沈黙。
やがて、くすりと笑う。
「君、面白いね」
迅は否定もしない。
華は胸を張った。
「私は中鬼だよ」
さらりと言う。
「黒鉄さんから聞いてたかな?」
迅は首を横に振る。
華は構わず続ける。
「鬼とは毎日喋るし、ほとんど友達みたいな感じ」
その声音に虚勢はない。
「力もね、八割くらいは引き出せるよ」
八割。
迅の胸に、その数字が重く落ちる。
自分は、まだ制御すら不安定だ。
華は迅の沈黙に気づいたのか、肩をすくめる。
「でもさ」
「分からないってのも悪くないと思うよ」
「焦って無理やり聞き出すと、だいたい拗れるし」
輸送車が減速する。
遠くに見えてきたのは、黒く沈んだ街。
ラサール。
煙が薄く漂い、建物の輪郭は崩れている。
華は窓の外を見つめたまま、声を落とす。
「……静かだね」
車が止まる。
扉が開く。
焦げた匂いが流れ込む。
迅が地面に足をつける。
瓦礫。
割れた窓。
乾いた血の跡。
だが、死体はない。
華が軽く息を吐く。
「生き残り、いるといいけど」
明るい声はない。
副隊長の顔だ。
前方では、隊長達の姿が建物の影に見える。
迅は街の奥を見る。
風が吹き抜ける。
静かすぎる。
紋章は沈黙している。
だが、どこかで何かが待っている気配があった。
華が歩き出す。
「行こっか」
迅は一歩、ラサールへ踏み込む。
廃墟の街は、何も語らない。
だが、その沈黙こそが、不気味だった




