羅刹
夜。
灯りを落とした部屋。
迅は机に肘をつき、右手を見つめていた。
刻まれた紋章は、静かだ。
黒鉄の言葉が胸に残る。
――支配ではない。対等だ。
迅は息を吸う。
「……おい」
沈黙。
「聞こえてるんだろ」
反応はない。
「おい、鬼」
紋章は動かない。
迅は机に手を置く。
「出てこい」
静寂。
一拍。
「話がある」
その瞬間。
「うるさい」
低く、鋭い声。
空間が歪む。
視界が闇に沈む。
黒い空間。
何もない。
ただ、遠くに“影”。
巨大な輪郭。
角らしき歪み。
姿は現れない。
ぼんやりとした闇の塊。
迅は息を整え、睨む。
「なぜあの時、俺に力を貸した」
「……気まぐれだ」
「違うな」
影がわずかに揺らぐ。
「おまえのことを教えてくれ」
圧が増す。
「俺は、お前と対等になりたい」
静寂。
そして。
「――はははははははは!」
嘲るような爆笑。
闇が震える。
「対等?」
「舐めるな。人間ごときが」
「身の程を知れ」
迅は踏みとどまる。
拳を握る。
「なら」
「俺は、お前の目的に協力する」
影が止まる。
「だから、お前も俺に協力しろ」
「これは等価交換だ」
再び、爆笑。
あからさまに馬鹿にするように。
「あんな悪魔に負ける雑魚が、よくも口を叩く」
影がわずかに近づく。
「爆笑させてくれた礼に、力を貸してやる」
空間が軋む。
「制御してみせろ」
現実。
紋章が――
赤く、凶暴に発光する。
血のような色が部屋を染める。
ドクン。
ドクン。
低い声。
「我が名は――羅刹」
光が収束する。
迅は膝をついたまま、荒く息を吐く。
「……羅刹」
赤い残光が、わずかに揺れた。




