契
衝撃が走る。
黒鉄の体が地面を転がる。
巨影の腕が、ゆっくりと持ち上がる。
終わる。
迅の足は震えていた。
喉が乾き、視界が揺れる。
それでも、逃げない。
地面に落ちていた訓練用の剣を掴む。
軽い。
頼りない。
だが、握る。
走る。
「うあああああ!!」
斬りかかる。
金属音。
刃が闇に弾かれる。
衝撃。
迅の体が吹き飛ぶ。
地面を転がり、息が詰まる。
立つ。
また走る。
斬る。
弾かれる。
叩きつけられる。
肺が焼ける。
視界が赤く染まる。
それでも立つ。
「……まだだ」
巨影が首を傾ける。
虫でも見るような視線。
やがて興味を失ったように、黒鉄へと向き直る。
腕が振り上がる。
その瞬間。
迅の意識が沈む。
暗い。
底の見えない闇。
声が響く。
『なぜそこまでする』
迅は息を荒げる。
「もう目の前で誰かを失うのはいやなんだ」
静寂。
『いずれ皆死ぬ。強くても守れないものもある』
迅は歯を食いしばる。
「……わかってる」
沈黙。
重い。
『……愚かだ』
間。
何も起きない。
そして。
『その覚悟、試してやる』
熱が走る。
手の甲が焼けるように痛む。
刻印が浮かぶ。
迅は手を伸ばす。
闇の中から、刀を引き抜く。
その瞬間。
右目が赤く染まる。
瞳孔が細まり、犬歯が伸びる。
額の片側。
皮膚を押し破るように、半分だけ角が現れる。
未完成。
巨影の一撃が振り下ろされる。
迅は刀を構える。
受け止める。
地面が割れる。
腕が軋む。
だが踏み込む。
一閃。
闇を裂く。
巨影の胸に、初めて傷が走る。
黒い血が散る。
巨影が一歩退く。
だが、倒れない。
視界が暗くなる。
角が消える。
力が抜ける。
刀が地面に落ちる。
迅は崩れ落ちた。
意識が闇に沈む。
(第三話 終)




