修行
玄は木刀を下ろした。
しばらく迅を見つめ、懐から一枚の札を取り出す。
黒い紋様が刻まれた札だった。
「次の修行はこれだ」
迅が眉をひそめる。
「……それは?」
玄は答えず、札を庭の地面に落とした。
「特別な札だ」
「鬼契約者の修行で使う」
札が地面に触れた瞬間、紋様が淡く光る。
玄が続ける。
「これを使うと――」
「お前の鬼の性質を写した実体が出る」
迅の目が細くなる。
「鬼の……実体」
玄が頷く。
「正確には鬼の性格だ」
「戦い方、癖、力の使い方」
「全部な」
少し間を置く。
「そしてそいつは」
「お前を殺す気で襲ってくる」
迅の口元がわずかに上がる。
玄が腕を組む。
「それを倒す」
「それが今回の修行だ」
札が強く光る。
地面から影が立ち上がり、ゆっくりと形を作っていく。
角。
牙。
そして――
迅と同じ姿。
だが瞳だけが赤く光っていた。
玄が静かに言う。
「自分を倒せ」
⸻
同じ頃。
訓練場。
烈が蓮の前に札を放り投げた。
「相手はお前だ」
蓮が札を拾う。
「なんすかこれ?」
烈が腕を組む。
「鬼の性格を写す札だ」
「そいつを倒せ」
「それが出来ねぇ奴は四割なんて一生無理だ」
蓮がにやりと笑う。
「面白いじゃないすか」
札が光る。
氷の気配が広がる。
蓮と同じ姿の影が現れる。
烈が言う。
「さぁ、やれ」
⸻
別の訓練場。
玲の前に翠が札を置いた。
「これが今回の修行」
玲が札を見る。
「これは……」
翠が静かに言う。
「鬼の性格を具現化する札」
「つまり――」
「もう一人のあなた」
札が光る。
水の気配が広がる。
玲と同じ姿の影が立ち上がる。
翠が微笑む。
「自分より強いと思いなさい」
玲が静かに構える。
翠が続ける。
「それが一番近いから」
⸻
三人の修行が、同時に始まった。




