業火一閃
終わらせる」
迅が踏み込む。
地下の空気が灼ける。
炎が剣を包み込み、赤く唸った。
中級悪魔が腕を振り上げる。
だが、遅い。
迅の視界は赤く澄み渡っている。
「――焔刃」
振り抜いた刃が、炎の軌跡を描く。
次の瞬間。
悪魔の胴が縦に裂けた。
内部へ流れ込んだ炎が爆ぜる。
咆哮が地下を震わせる。
やがて、その巨体は崩れ、灰となって消えた。
静寂。
焦げた匂いだけが残る。
迅は立っている。
剣を支えに、荒い呼吸を繰り返しながら。
炎が消える。
角が縮む。
赤く染まっていた片目が元に戻る。
迅は、かすかに笑った。
「……気絶してないぞ」
その瞬間。
天井の一部が、ぱきりと音を立てる。
小さな落石。
一つが、真っ直ぐ迅の頭へ。
鈍い衝撃。
視界が白く弾ける。
身体が崩れる。
前のめりに倒れ込む。
動かない。
地下は再び静まり返った。
意識の奥で。
「……ふん」
羅刹が、鼻で笑う。
そのとき、階段の奥から足音が響いた。
「隊長!」
華の声。
増援と共に駆け込んでくる。
焼け焦げた床、崩れた悪魔の残骸。
そして倒れている迅。
「……じんくん!」
華が駆け寄る。
守剛は無言で立ち尽くしていた。
悪魔は消えている。
だが迅は動かない。
華が息を呑む。
「生きてる……!」
すぐに増援へ指示を飛ばす。
迅の身体が運ばれていく。
地下は、静かだった。
⸻
消毒液の匂い。
白い天井。
迅はゆっくり瞼を開く。
頭が重い。
「やっと起きたか」
三条蘭が椅子に座っている。
腕を組み、こちらを見ている。
「また無茶したでしょ」
迅は天井を見たまま言う。
「……どんだけ寝てた?」
「今回は一日だけよ」
「そーか」
上体を起こす。
右手を見る。
紋章は静かだ。
「ちょっと外の空気吸ってくる」
扉へ向かう。
ノブに手をかける前に足が止まる。
「……ありがとう」
振り向かない。
蘭は何も言わない。
ただ、少しだけ笑った。
⸻
中庭。
風が抜ける。
迅はベンチに腰を下ろす。
青い空を見上げる。
右手を握る。
あの炎の感触だけが、まだ残っている。
足音。
「おい」
れん。
後ろに、れい。
「起きたんだな」
「ああ」
れんが言う。
「中級倒したって聞いたぞ」
迅は視線を逸らす。
「……運が良かった」
れいがすぐに言う。
「無茶しすぎよ」
れんが声を落とす。
「てか、聞いたか?」
二人が視線を向ける。
「鬼士隊、ほぼ壊滅したらしいぞ」
風が止まる。
「前回の遠征で、いきなり上級悪魔が出てきて」
一拍。
「副隊長以外、全滅だってよ」
沈黙。
迅はゆっくり立ち上がる。
その瞬間、校舎にチャイムが鳴る。
鋭い電子音。
『――全隊員、広場に集合』
黒鉄の低い声が響く。
『直ちに広場へ』
三人は顔を見合わせる。
中庭の空気が一変する。
迅は一歩踏み出す。
風が強く吹いた。
戦いは、まだ終わっていない。




