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戦隊ヒーローと一般人(モブ)の恋物語

作者: フィン

昔に書いたお話。さくっと読めます。お茶のお供にしてください。

これは売れない小説家である私、敷島咲良と(架空の)担当編集者Sとの少し不思議な物語(日常)だ。


窓を見れば怪獣が闊歩している生活にも慣れたものだ。アレが一体なんなのか。どこから来たのかも、一般人である私には分からない。

そも、アレを怪獣と呼ぶことが正しいのか。

イノベーター。地球外生命体だという話も私は聞いた。地球外生命体が居るならば、宇宙の平和の使者も居れば良いのにと地球上で唯一の友たる飼い猫に愚痴る。

その猫も電子で肉体が構成された存在だが。一人言の数だけが増えていく。まともに誰かと会話したのは、さて何時が最後か───



カタカタ、キーボードを打つ手を止めた。私、敷島咲良は小説家だ。そう決めた。諸事情あって勤めていた会社を辞め。ガタガタになった心と身体を休めるという口実で長い、休暇。モラトリアムを過ごしている。


やりたいことをやりなさい。そう、病院の医師に言われたが。やりたいことを思い浮かべることすら出来ず。部屋の片隅に買うだけ買って読まれることなく積み上げられた書籍の山を見て。


昔、そういえば小説家を目指していたのだと思い出した。人に読ませる文章など何年も書いてはいない。それでも時間だけは売るほどにあって。なによりも小説を書くことは久しぶりにする文化的な活動だった。


そうして、初めて書いた小説はとんでもない駄文だったのだ。きっと小学生が書いた読書感想文の方がましな仕上がり。あまりの酷さに笑いが込み上げてくる。書き上げたらどこそこのコンクールに出そうかなと。


ふわふわと頭にあった希望は打ち砕かれてごみ袋に詰められた。その、初めて書いた小説は日の目を見ることなく仕舞い込まれて。作者である私にすら省みられない筈だった。一通のメールが私のスマートフォンに来るまでは。


『僕は貴女の書く小説のファンです。誤字脱字の修正。構成編集。なんでもします。だからあの怪獣を倒す正義の味方の物語を。僕のためにもう一度、書いてください。』


「うん、新手の詐欺メールかな。個人サイトを運営してたときにもあったよなぁ。あなたの小説を本にしませんかって。怪しい。どう考えても。」


でも、まあ。無くすものなんてなーんにもない人間だからなー。そいっと宛先のバグったメールに返信した。担当編集者に任ずる。

別の小説投稿サイトにも同じ話を投稿することだとか。作品の所有権は放棄しないこと。それからたぶん私の知り合いだろうが、笑わせてくれてありがとうと。


処女作の小説。怪獣を倒す正義の味方の物語を私が書いていたことをそのとき知っているのは一部の身内だけ。そしてこういう巫山戯けたことをする人間に心当たりもあった。それは弟だ。


プロのカメラマンで海外に居る弟はだだ滑りになったとしても人を笑わせることに心血を注ぐ。ただし、笑いのセンスは皆無という。秀でた一芸の代わりに他の才能を犠牲にしたタイプの人間だ。奴ならやる。


そういう訳でろくに働いてない頭で返信したメールは。そのまま忘却の彼方に行くはずだったのだが。翌日、またメールが届いた。


『え、あ。本当にメールが届いてた??うわ、恥ずかしい。僕のために書いて(キリッ)なんて。うわわ。ちょ、あー!!素面じゃなかったんです。スミマセン。ちょっとハイテンションになってまして!!いや、貴女の小説を読みたいのはガチですけど!推しに認知されてしまった!しかし、こんな機会はもう二度と巡って来ないだろうし!!(以下、長文が続く)』


弟、どうした。もしや頭でも打ったか。あとこのネタ、引っ張るのか。本当に笑いのセンスが死滅している。けれども重ねて言うが私には暇だけはあった。なによりも私が書いた作文以下の小説を弟だけは笑わなかった。


「仕方ないなー。弟の小芝居に付き合ってあげるか。時間だけはあるからね、おねーちゃんは。」


『怪獣を倒す正義の味方の話で良いんだね?良いよ、書いてみる。その代わりおねーちゃんの書いた小説の誤字脱字の修正頼んだぞー。自分じゃ見落とすんだよねぇ。なぜか十回以上見直しているのに。おのれ誤字ラめ。』




亀裂の入った空の下で特殊防護服を着た青年は携帯端末の画面を何度も確認し。ヤッター!!とその場でぴょこぴょこ跳ねた。その度にコールタールのような粘度のまっ黄色の液体が一緒に跳ねて青年の防護服。


特殊な繊維で編まれた身体にピッタリとフィットしたスーツを汚すが。そんなことは、気にならない。鮮やかなオパール色の髪にまでソレの血が跳んでしまったけれども。


青年は編集は任してくださいと返信して撤退するぞと声を掛けた仲間に。

ああ、いま行くとにこにこしながら答えた。


「敷島、なんか妙に機嫌が良くないか?」


「推しが尊くて生きるの楽しい。推します、一生推す。というか唐突な供給本当にありがとうございます。姉かぁ!何人兄弟かな!!自分のことをおねーちゃん呼び。青葉さん!俺の心臓いまうごいてるかな!?トキメキで止まってない!?生きてる!?」


「オレ、お前がそんな長文喋ってるの初めてみたんだけど???」


「オ゛。うわうわうわ本当に敷島サンから小説の草稿が送られてきた!マジか。マジだ!!こうしちゃいられない!!宿舎に帰って読まないと!」


「誰だよ、敷島のこと防衛隊の冷酷無比なキリングマシーンって呼んだヤツは。ただの限界オタクじゃねーか。すごく見覚えあるわ、あの早口。」


噛み合ってるようで噛み合ってない会話をしたオパール色の髪の青年は。一度、後ろを振り返った。人の背丈の五倍ほどある歪な姿をした生き物の死骸。青年たちはそれを怪獣と呼称した。


敷島サンの書く怪獣よりもうんと禍々しくて、すごく醜悪だとオパール色の髪をした青年、敷島サクラは無感動に怪獣を眺めたあと前を向く。そのときにはもうサクラの頭には怪獣のことなどなく。


早く送られてきた小説が読みたいという考えしかなかった。


翻るスーツの裾。そこには防衛庁の特務組織を示すワッペンがあった。


敷島サクラ。彼は侵略的地球外生命体に対する防衛組織『WBC 日本支部』の隊員であり。過去、三百年分のネットアーカイブにあったとある小説投稿サイトに掲載されていた小説にだだ嵌まり。


しかし、シリーズものでありながら。途中で更新が止まったそれの続きがどうしても読みたかったサクラは作者の過去に運営していた個人サイトを突き止め、そこからSNSに辿り着き。


様々な苦労の果てに作者個人のアドレスまで特定した。その過程で知り得た作者の情報は名前と容姿。そして作者である敷島咲良の書く物語だけだ。咲良当人ならば三百年先まで個人サイトが残っているとかちょっとした悪夢というか。


誰だ、ひとの個人サイトをネットアーカイブに捻こんだヤツはと突っ込んだだろう。きっと俺みたいな敷島サンのファンだなとサクラは思う。


敷島咲良は三百年前の人間。意味はないと分かっていながらメールを送った。届かないはずのメールは。けれども敷島咲良本人に届いた。奇跡だとサクラは笑った。常日頃から鉄面皮な彼がこれほどに笑ったのはきっと生まれて初めてのことだ。


何故ならサクラは培養槽で産まれて成長過程をすっ飛ばして十八歳の肉体年齢で生命活動を開始した身だからだ。


ただ、ただ怪獣を倒す為だけに産み落とされた。そんなサクラの唯一の楽しみがネットアーカイブの海にダイブすることで。


その過程で敷島咲良に出会った。サクラと同じ音の名前。知っていることは殆どない。それでも、サクラはいまの自分の状態を定義する言葉を歌うように口ずさむ。


「俺、敷島サンに恋してるんです。きっとこの恋は俺にとって最初で最後の恋だから。俺、敷島サンに逢いたいなぁ。無理だ無理だって思われてた宇宙に人類は行けたんだから、過去に行くことも不可能じゃないはず!」


きっと、敷島サンに逢いに行くから。待っていてとサクラは笑った。

貴女が、好きだって。西暦2322年の未来から愛を伝えに。必ず行くよ。


「諦めたりしない。地球の平和も、恋も。だって俺は正義の味方(ヒーロー)ですから!あ、いまの敷島サンの小説の主人公みたいだったかな?!どうしよう、すごく顔がにやける!!」


戦隊ヒーローと一般人(モブ)の恋物語

【直ぐに行くよ。過去でも、宇宙でも。貴女がそこにいるのなら!】 

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