第九十八話
駅の内装はパチモン臭い日本ではなく普通だった。
シフト表なんかが貼ってあって作業用なんだなと思わせる。
プラットフォームから貨物車両に乗車する。
車両はレール式の古い型だけどメンテナンスがしっかりしてる。
トンネルを通るためか武器はついてない。
列車の内装はシンプル。
やはり従業員用なのでかざりがない。
デザインもへったくれもない内装だ。
あるのはシフト表と天気予報が交互に表示されるディスプレイくらいだろう。
運転席にはボタンが一つあるだけ。
乗客席との仕切りすらない。
メリッサが運転席のボタンを押す。
「自動運転だから寝てていいよ」
メリッサがドサッと乗客席に座った。
ドアが閉まる。
「どのくらいかかるんだ?」
「三十分もかからないよ」
トンネル内の移動なので外の景色はわからない。
省エネのためか走り始めると明かりが消えた。
しばらくすると目的地に着いた。
本当に貨物用なので搬出は簡単だった。
貨物車両を切り離すとそのままエレベーターに運ばれて行く。
「ドローンが仕分けまで自動でしてくれるよ。軍事車両で登録したからロビーに並べてくれると思う」
「最新式じゃん」
「うちは領民少ないからね、マンパワー足りない分はドローンで補うしかないの」
エレベーターで上へ。
エレベーターは台車を入れるためか病院サイズより広い。
まずは俺たちと近衛隊で上に行く。
男子どもは次だ。
上の階は殺風景だった。
でもよく見ると非常用のシャッターや武器ボックスも見える。
ここで戦えるようにしてるようだ。
トンチキな日本はそこになかった。
「この上が本物の城だね。城って言ってるけどお客さんに聞かれてもいいようにそう呼んでるだけで要塞だよ。人型戦闘機が10台かな。子爵領にしちゃ装備そろってると思う」
うちの侯爵領より金かかってる!!!
「といってもこの要塞を使うのは海賊が出たときくらいかな。年に一回もないけど。わざわざ侍の星に喧嘩売る暇人もほとんどいないしさ」
「そりゃそうか」
わざわざ武闘派の惑星を襲うメリットはない。
農協しかない我が侯爵領を襲撃するもの好きがいないのと同じだ。
「いちおう内線で呼びかけてみるわ。隊長は殿下に報告よろ」
「ういーっす」
嫁ちゃんに連絡。
「軍事基地に着いたよ~。GPSの座標送るね」
「おう、来たぞ……本当に山の中じゃの。なんじゃこの寺は。わざとらしい」
「イミテーションかな? 鉄道の入り口も大仏で隠されてたし」
「観光惑星は徹底してると聞くのう。特にここは公安の養成所とテーマパークが混在しとるからの」
「殿下! 生体反応あり!」
「お、レンでかした! 婿殿聞いたな。なにかおるらしいぞ」
「了解ッス」
メリッサの方は呼びかけに誰も応じなかった。
「親父と兄貴たち、死んでなきゃいいけど」
メリッサはまだ軽口を叩く余裕はあるようだった。
男子が来たので人型戦闘機に乗って探索。
中の通路に入ると戦闘のあとが見えた。
「パルスグレネードだね……あちゃー、隊長の戦いの記録すら見てねえな。効かねえって何度も言ったのに」
「こっちはパルスライフルだ。なんでどいつもこいつも言うこと聞かないかな」
もーさ、うちの侯爵家の信用の無さときたら。
クレア壁の傷を見て首をかしげる。
「でもこれ刀傷じゃない?」
なにか細い板がめり込んだみたいな傷跡が壁に残っている。
「んんんんんー? でもこれだと刀どうしで戦ってない?」
メリッサが不思議そうに眺めていた。
壁にはいくつもの刀傷がついていた。
「いやホントそういうのやめて」
「だよね……」
クレアも露骨に嫌そうな顔をしてた。
それはすぐにやって来た。
「子爵領所属機発見! 照会します!」
クレアがドローンで通路の奥を探索すると千鳥足の人型戦闘機がウロウロしていた。
「照会完了。コウ・スガヤ機」
「……スガヤ師範だ。師範の一人でテーマパークのショー担当の部長やってるんだ。ねえ、呼びかけていい?」
「あー……どう思うクレア?」
呼びかけてみたいが……。
あまりいい結末が見えない。
「私だってわからないよ! ピゲット少佐、ご判断をお願いします」
「……呼びかけてみよう。同士討ちするよりはマシだ」
ピゲットもいつものキレがない。
相当悩んだと思われる。
メリッサが呼びかける。
「スガヤのおじさん! メリッサだよ!!! いまどうなってるの!?」
その瞬間、人型戦闘機がブルッと震えた。
まずい!!!
俺は盾を持ってメリッサの機体の前に出る。
ワイヤーみたいなものが飛んできた。
違う、肉だ!
触手だ!
ガンッと盾にぶち当たった。
触手は逸れて天井に突き刺さった。
ヤバ!
威力が高けえ!!!
「おじさん!!!」
メリッサが信じられないスピードで走る。
完全にリミッターが外れてた。
新たな触手がメリッサに迫る。
「うおおおおおおおおおおお!」
メリッサが小さく跳んだ。
そのまま壁の側面に足をつきそのまま壁走りした。
「ふんッ!!!」
スパーンッと音がした。
メリッサは敵の機体の頭部を切断した。
ごろんと頭部が床に転がる。
間髪入れず胴を突き刺し、引き抜くと上段に構え振り下ろした。
「でえええええええええええいッ!!!」
一刀両断だった。
機体から肉がこぼれ落ちていく。
両断された機体がごろんと転がった。
メリッサがつぶやいた。
「違う」
「なにが?」
メリッサが一番しんどいのに聞き返してしまった。
「これはスガヤのおじさんじゃない。スガヤのおじさんはこんな弱くない!」
ピゲットがフォローに入る。
「メリッサ、気持ちはわかる。だが所属機のIDが……」
「違う! 俺にはわかる! 子どもの頃から何度も試合した相手なんだ! スガヤのおじさんはパワータイプ。触手持ってるなら遠くから壁引っかけてぶん投げてくる! それに斬ったときも軽かった!」
「寄生体ってこと?」
「たぶん。親父たち奥で戦ってるよ! みんな生きてる! 隊長! はやく行こう!!!」
「急ぐぞ!!!」
希望が見えてきたぞ。




