第九十五話
戦艦内の訓練場に行くと学生どもとヒューマのおっさんがいた。
俺は作業着から着替えてたので遅かったようだ。
時間はギリギリなのでセーフセーフ。
黙って後ろに並ぶ。
時間ぴったりにヒューマのおっさんが口を開いた。
几帳面だなヒューマのおっさん。
「あー、士官候補生になにを教えていいかわからないが。とりあえず基本をやるぞ」
ですよねー。
「まずは服装だ」
あれか?
バッジが曲がってるとかか。
これなら大丈夫だ。
俺たちはその辺だけはできてる。
ピゲットに叩き込まれてる。
「前一列、不合格。部屋からポータブルシールド取ってこい」
はい?
ポータブルシールドは展開型の……要するにバリアーだ。
拳銃なら三発くらい。
ライフルなら高出力モードで一発は耐えられる。
帝国軍の標準装備でビーム兵器相手ならお守りに持っておきたい武器だ。
でもゾーク相手じゃ役に立たない。
ゴリゴリの物理攻撃だからな。
「ポータブルシールドは常に携帯しろ。たとえばだ、敵を引きつけた味方にグレネードを投げるなどの戦略が可能だ」
はい?
いま頭がおかしい……アタオカオブアタオカな発言が出たが。
「もともと現場で使われた手だ。この手で我ら海賊はゾークとなんとか戦えてる」
人権無視の極みである。
というかシールドあっても死なない保障ねえぞ。
わりと死ぬぞそれ。
ゾークに効くのか?
「安心しろ。グレネードはただの起爆用だ。周りに爆薬を置いている。死人も驚くほど少ない」
それ何人か死んでるってことだよね?
「他も持ってなければシールド取ってこい!」
男子がダッシュして取りに行く。
女子はなんとなく持っていた子が多数。
なお暗殺にビビリ散らかしてる俺は常に携帯してる模様。
……逃げ損ねた。
「……なんでいる?」
ヒューマのオッサンが俺に気づいた。
「学生なので」
「いやいやいや大尉でしょ? 士官でしょ?」
「帝都奪還の報酬みたいですよ。実態は名ばかりですけど」
実は給料も上がった。
だが俺のポジションは前線だ。
誰も俺へ大尉相当の働きは求めてない。
「それでも俺の訓練いらないでしょ!」
「えー……」
「とにかく後ろで見学しててください!」
なぜか丁寧語で見学を命じられたので隅っこで体育座り。
いじけることにする。
男子がシールド取ってくると訓練開始。
最初から持ってくるように言えばいいのに。
常に持てって言いたいだけか。
鉄拳制裁でもやるのかなと思ったら、そんなことはなく話がはじまる。
「シールドの使い方だ。斧でも剣でもいい武器を抜け」
さすがに武器を持たない間抜けはいない。
だいたいが支給品のソードである。
「二、三発喰らうつもりで突撃。以上だ」
やはり……。
基本脳筋である。
いじわるな男子がしたり顔で聞く。
「軍曹殿! 質問があります。大尉殿はビームを見てから避けますが、どうお考えでしょうか?」
俺を出すな!
このバカチン!!!
「えーっと、大尉殿。少しやってみてください」
困ったヒューマが俺に言った。
質問した男子の前に立つ。
やれやれだぜ?
「日頃の恨み……じゃなくて大尉殿胸をお貸しください!」
「本音! 本音が漏れてるから!!!」
「では行きます! ものども出会え出会え!!!」
と言った瞬間、男子が一斉に俺の前に立つ。
そのまま男子どもが一斉に射撃した。
「あ、てめえら! そういうことするん!!!」
俺はビームを避けていく。
「うるせえ! てめえに一泡吹かせるにはこれしかねえんだよ!!!」
するとメリッサが大喜びした。
「あはははははは!!! 俺も飛び入りな!!!」
メリッサが刀を抜いて男子に突撃した。
さすがに最低出力、スタンモードの攻撃だ。
喰らっても死なねえけどさ。
それでもやるか普通。
アホが!!!
「くそ! なんで光を避けられるんだよ!!!」
「ぶぁーか!!! 目線で軌道予測してんだよ!!!」
避けまくって一人に接近。
後ろに回って人質に取る。
「オラオラオラオラ! オラ撃ってみろよ!!! ヒャッハー!!!」
「ぐ、正義の一撃を受けろ!!!」
「嫉妬を正義って言い張るな!!!」
「うるせえ! いいな! 撃つぞ!!!」
すると俺が人質にしてた男子が怒鳴る。
「俺ごと撃てぇッ!!!」
バカなのかな!?
あいつらは人質ごと撃ってくる。
俺は人質を解放してやつらの方に蹴飛ばす。
男子はビームの餌食だ。
といってもスタンしただけだけど。
するとメリッサが俺の背後から高速で現われる。
「にゃはははははははー!!!」
次々と峰打ちしていく。
メリッサさん……俺のこと盾役だと思ってるでしょ?
あとは一方的な戦いだった。
剣なんて抜かせない。
俺の剣でボコボコである。
峰打ちモードでボッカンボッカンぶん殴っていく。
全員ボコボコにして終了。
「か……神は死んだ……」
「るせえ!」
アホがつぶやくとヒューマが講評に入る。
「というのが悪い例だ。銃に頼るからこうなる。カニと戦うときも同じだ。盾持って突撃したほうが安全だ」
「ですが軍曹どの! ビームを避けるような変態と戦うにどうすれば……」
「複数で囲んで数の暴力で潰しましょう。焦らず相手の動ける範囲を狭めながら追い込んでタックルして動きを止めます。はい集合、集団戦の基本をやります。大尉殿とそこの女子は休んで!」
「へーい」
俺はメリッサと隅に座る。
ヒューマのオッサンってまともだな……。
内容も普通だぞ。
ただ俺たちに欠けてるとこだよな。
実戦で憶えたことを訓練で答え合わせしてくれるのって重要だわ。
男子どもが集団戦の訓練をする。
あれ?
俺やらなくていいの?
メリッサの方をみる。
「隊長はそのまんまでいいと思う。自分の役割わかってるし。突撃して相手の陣形引っかき回す。それでいいんじゃない」
ひでえ話である。
さてこのように訓練とアルバイトの日々がはじまった。
で、飯くらいしか娯楽のない日々が何日も続きようやくコロニーのガワが完成したのである。




