第九十四話
大野のオッサンが来た。
大量の船で物資を運んでくる。
というか……あの巨大な物体はコロニーか?
周囲の船の邪魔だろがと。
「持ってきてやったぜ。中古でいいんだよな?」
「おう、ご苦労」
嫁が偉そうにふんぞり返る。
実際偉いからいいのか。
半分壊れたコロニーのコア部分を適当なところに置く。
コア部分なんて言ってるがここには最新テクノロジーの部品はなし。
最低限の電源ユニットがあるだけだ。
そこに他の船が持ってきたパーツを組み立てていけばいい。
ここはドローンにまかせる。
人力でやってたら百年経っても終わらない。
ドローンオペレーターはケビンとニーナ。
建築専攻の大学校生がサポートする。
逆じゃね?
普通、大学校のパイセンたちがメインでやるんじゃねえの?
だけど俺たちの方が実戦で経験積んでるから適任なんだって!
なので俺たち暇な男子どもも作業を手伝う。
人力じゃないとできない仕事もあるしね。
あの会談は大成功だったようだ。
なんでも部下の質を見て合否を決める場だったようだ。
「合格しなかったらどうするん?」
って嫁に聞いたら。
「意思決定から外す。反乱を起こすなら鎮圧する。それだけじゃ」
やだ怖い!
「鎮圧?」
「婿殿は我らが侵略したという自覚を持て」
「侵略だったの!?」
「当たり前じゃ! ここは帝国の支配を受けぬ自由都市じゃった。それを併合したのだから侵略じゃ。逆らえば処刑せねばならんし。言うことを聞くなら帝国市民のすべての権利を与えるがな。婿殿は悪い顔の一つもせよ!」
政治って怖い。
つまりリリィにはワルとして振舞って市民には聖人でいろってことね。
それが一番穏当と。
で、なにが合否を分けたか気になるじゃん。
だから聞いてみた。
「ところでなんで合格できたん? あの秘書さんチンピラだったじゃん」
「護衛の元軍曹だ。勝てぬのをわかっててリリィを助けに参ったわ。良き部下が命をかけるのじゃ合格じゃ」
「へー、あの強そうなおっちゃんが気に入ったんだ」
「婿殿が強そうなんてほめるのじゃ。相当な男なのじゃろ。できれば学生の訓練をしてほしいものだ」
「なんで?」
「我らの船は下士官が不足してるのじゃ! 緊急措置で大学校生を下士官に任命したが……経験が圧倒的に不足してる。婿殿も大尉としての働きを求められたら困るじゃろ」
「うん無理」
大尉として何をすればいいかわからないもの。
特に書類仕事が難しい。
妖精さんに泣きついてなんとかというレベルだ。
大尉やること多すぎるよ……。
とにかくあのオッサンがただ者じゃないのはわかった。
建築は続く。
ほとんどがドローンでの組み立てだ。
最終的には人間が仕上げ作業をする。
だけどその完成はずっと後でいい。
あらかた組み終わったら、というか組み立てプログラムを設定したら休暇。
焦ってもなにもできない。
ただよかったのはゾークどもはトマスの遠征にリソースを割かれていた。
ゾークどもに電撃戦をやる余裕はない。
戦略的な重要度が低い惑星への攻撃も少なくなっていた。
帝都だが空前の好景気にわいている。
復興に物資に需要に対する供給が足りてない。
ものすげえ大量消費をしたからな。
全力生産中で失業率はほぼゼロになっている。
うちの領地も金が入ってきてる。
サム兄は税金の無駄遣いには手を出さず、軍備増強と生産体制の拡充、それに教育に金を使った。
タイミングよく海賊が跋扈したので検挙に忙しい。
そのせいか他の領地に有償で軍を貸してくれと頼まれてるようだ。
戻ってきたら故郷だとわからない姿になってそうな気がする。
で、俺はというと……作業員のおっさんたちに交じって作業をしてた。
配線工事である。
……アルバイトである。
俺は士官なので現場作業の義務はない。
だけど暇だから!
暇すぎて仕事することにした。
大野のオッサンとこのホテルと違い遊ぶところもない。
というか本物のスラムなので学生のコロニー訪問が禁止になった。
えっちなお店への突撃を企んでた男子に電撃が走った。
「神は俺たちを見捨てたのか!」
シフトを終えた俺が作業服姿で戦艦内の食堂に行くと男子どもがわめいていた。
「今度こそえっちなお姉さんに優しくしてもらえると思ってたのに!!!」
アホだな。
俺はそう思いながらドカ飯を喰らう。
ちなみにエッジたちも実家へ仕送りするために働くことを選択した。
電気工事ができる俺と違うところに配置されたので時間が合わない。
物資搬入かもな。
あれけっこうキツいぞ……。
「なあレオ、お前からもコロニー訪問を許可するように言ってくれ!」
男子がやって来た。
「いやお前、【えっちなお店に行きたいから解禁してください!】ってのを嫁ちゃんにどう伝えればいいのよ?」
「また妻帯者しぐさだよ! そうやって働いて真面目なところをアピールしやがって!」
お前らが嫉妬でテキトーなことを並べてるのはわかってるぞ。
哀れ哀れ。
「真面目もクソも日給3万クレジットと諸手当つくんだから働くしかねえだろ」
30日働いたら手当つけて100万はもらえる。
20日でも70万はいく。
遊ぶ金目的でもやらない手はない。
今まで各種資格にぶち込んできた金をここで回収せねば!
「ぐ、俺だってかわいい嫁が欲しいよ~!!!」
男子どもここで号泣。
うぜえ。
「俺の話を丸ごとスルーしやがったな。そもそも夜のお仕事のお姉さんは嫁にならねえ」
大野のコロニーだったらまだわかる。
可能性は限りなく低いがゼロじゃない。
でも海賊の領地のお姉さんにガキが相手にされるわけねえだろ。
ケツの毛まで抜かれて終わるわ!
「なぜだ! 貴様ほどのムッツリスケベがなぜそこまで拒否する!!!」
「だって俺、妻帯者だし」
「きいいいいいいいいいいいッ! 悔しい!!! これが大人の余裕なのか!!!」
うるせえ。
すると戦艦内の放送が鳴った。
「士官学校の学生は30分後に集合! ヒューマ軍曹による特別訓練だ! アルバイトしてるものはシフトを優先せよ! 繰り返す、士官学校の学生は30分後に集合……」
ピゲットのおっさんはうれしそうだ。
ヒューマのオッサンも軍籍戻ったのかな?
……無理矢理戻したんだろうな。
有無も言わさず……。
「飯食ったら行くぞ~」
「うぇーい……」
アホどもは嫌そうな顔をしてた。




