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第九話

 俺たちは海に落下した。

 表面積を減らして折れてもいいように足から水に侵入。

 深い! 深いぃぃぃぃぃぃッ!!!

 止まったら息が続くうちに脱出を目指す。

 顔が出た。空気、空気、空気!

 思いっきり息を吸う。

 怪我はなし。

 足も折れてない。

 だが死ぬかと思った。

 冗談ではなく死ぬかと思った。


「レオ、生きてる?」


「死んだ」


 もうやだ!

 二度と戦闘服での大気圏突入なんかしない!!!

 その後、クレアと二人で死ぬほど苦労して陸地に到着。

 戦闘服重すぎだろが!!!

 で、陸地で一休み。


「し、死ぬ。マジで死ぬかと思った……」


「レオごめん」


「クレアが悪いわけじゃないよ。怪我がなくてよかった」


 俺たちがいるのは惑星19。

 かつて戦場だった惑星で、今では士官学校の訓練場という名の校庭だ。

 都市部の学校でグラウンドが別のとこにあるやつのような。

 要するに年に何回かは行くところだ。

 体育祭とか。

 ここには古い基地があって士官学校が管理している。

 管理人はいないがドローンが常駐している。

 通信設備があるはずだ。

 問題はどうやってそこまで行くかだ。

 俺はヘルメットを脱いで地面に置く。

 さわやかな風が火照った顔を冷やす。

 風呂入りてえ。

 幸いこの惑星には危険生物はいない。


「レオ、飲んで」


 クレアが浄水ユニットで海水を浄化したものを渡してくれる。


「あざっす」


 喉がカラカラだったのに気づいた。

 クレアは拡張現実のウィンドウをいじっていた。


「この近くに昔の基地があるみたい」


 校庭とは別の基地らしい。


「食料あるかな?」


「もしかすると車両があるかも」


 拡張現実の通知を見る。

 緊急事態は輸送艇に通知されてるはずだ。

 それなのに救助が遅い。

 なにかトラブルがあったかも。


「とりあえず現在の座標と目標地点の座標を教官に送っておくね」


「ナイスゥ」


「この惑星には危険生物はいないはずだけど……動けるうちに基地に急いだ方がいいかも」


「だな」


 異論はない。

 ただバイクがないのが痛い。

 俺の乗ったビークルは壊れる運命にあるのだろうか?

 整地されてない林をかき分け進んでいく。


「見て、バイク!」


 俺のバイクは木の上に乗っかっていた。

 ひしゃげてくの字に曲がってる。

 もう乗れないだろう。

 運が悪い。


「クレアのバイクは?」


「大気圏で爆発するの見た」


 本当に運が悪い。

 ジェスターの現実改変は関係ないと思いたい。

 俺こんなの望んでねえからな。


「今回の原因は学校側の準備不足だろうな」


「でも……ごめん」


「気にすんな。ピクニック気分で行こうぜ」


 軽く二時間ほど歩くと基地が見えてくる。

 本当に古い基地だ。


「ドローンがいる」


 クレアがつぶやいた。

 錆びた人型ドローンが基地を掃除していた。

 学校の敷地なので危険性はないはずだが……。

 見つかったら戦闘になるかもしれない。


「俺が行く」


 ドローンに近づく。

 戦闘機能はないと思うけど……。

 ドローンのカメラが赤くなった。

 なぜか青い光で俺をスキャンする。


「ジェスター……」


 割れまくった音声が聞こえた。

 ドローンがひざまずいた。

 どうやら危険性はないようだ。


「ドローン、士官学校と通信できるか?」


 反応が返ってこない。

 通信プロトコルの互換性がなさそうだ。

 大丈夫そうなのを確認してクレアもやって来る。


「その子大丈夫?」


「ああ無害だ。でも通信できない。通信プロトコルに互換性がないみたいだけど」


 床に座る。

 ドローンが管理してるせいで床はゴミ一つない。

 座ってる俺の横にドローンが立っていた。

 ずっと俺を見てる。


「どこかに来て欲しいんじゃない?」


「行けばいいのか」


 ピポッと音が鳴った。

 スピーカーと音声合成システムが壊れているようだ。

 それでもなに言ってるかわかる。

 わかったよ。

 俺が立つとドローンが先導する。

 ドローンは壁の前で止まった。


「ピポ」


 青い光でスキャンすると地下への階段が出現した。


「隠し部屋か」


 ちょっとわくわくしてきたぞ。

 階段を降りるとそこはガレージだった。


「嘘だろ……」


 ガレージに鎮座していたのはロボだった。

 溶接用の人型重機じゃない。

 もっと大きな戦闘用のものだ。


「そうだ! 500年前の独立戦争よ!」


「ああ、ジェスターが起こしたっていう」


「ジェスター?」


「いやなんでもない」


 そっちは秘密なのか。

 ドローンがピポピポ言ってる。

 こっちに来いということだろう。


「なんだよ」


 近づくと戦闘用ロボが起動して操縦席が開いた。

 乗れってことだな。

 俺はハシゴを登って胸の部分に乗車する。

 OSが起動する。

 コンソールが開く。

 物理キーでヘルプコマンドを打つ。


【ジェスター専用機。発進には認証が必要です。】


 なるほど。

 認証のコマンドを打つ。

 青い光が俺をスキャンする。


【認証しました。ようこそジェスター。】


 メインパイロットがジェスターじゃないと動かないのね。

 激弱クラスで認証すんな!

 俺は外部スピーカーに切り替えた。


「クレア、どうやら動くみたいだ」


 マニュアルにざっと目を通す。

 この機体には乗車席があるようだ。


「席を開く」


 腹のハッチが開き、クレアが中に乗り込む。

 同乗者は一般人でもよさそう。


「実弾の砲台があったよ! えっとこれが照準で」


 どうやら複座型だったようだ。

 ビークルどころか戦闘用ロボ発見してしまった……。

 もうめちゃくちゃだよ! 俺の人生!!!

 しかも古いのに普通に動く!

 ガレージに続くゲートが開く。

 操縦は重機より簡単だった。

 さすがジェスター専用。

 まるで神経が繋がってるかのようだ。

 ロボで外に出る。

 するといきなり警報が鳴り響いた。


「な、なに? なにがあったの?」


 もうね、ここはこのセリフでしょ。


「来る」


 なお何が来るかは知らない模様。

 武器はどこに……と思った瞬間、右の脚部が開いてなにかが出てきた。

 取り出すと折りたたまれたそれが展開する。

 それはチェーンソーだった。

 工作用じゃない。

 このまがまがしさ。間違いない。戦闘用だ。

 対ゾーク用に設計されたもの……まさかー!!!

 笑っているとそれは起こった。

 地面から何かが現われた。

 巨大なカニ。ゾークだ。


「な、なに!?」


「そうか……やつらは最初からいたんだ……」


 やつらの進軍スピードは異常だった。

 それに無限わきするのも疑問だった。

 だけどその疑問は解消された。

 やつらはすでにあちこちにいたのだ。

 ただ眠りから醒めただけだったのだ。

 ゾークが襲いかかってきた。

 だが今回はこちらの方が大きい。

 恐怖は薄れた。

 俺はチェーンソーで斬りかかる。

 じゅおんっという音とともにゾークを一刀両断する。


「これがトリガーか……」


 一匹ぶち殺したと思ったら、すぐ後ろからゾークが突っ込んでくる。

 こちらはまだ操作のチュートリアル中だぞ!

 チェーンソーが間に合わない。


「わかった! いけえええええええッ!!!」


 クレアが叫ぶとドカンと腹部の砲台が火を噴いた。

 実弾の弾丸がゾークを粉砕する。

 俺はその隙にさらに奥にいたゾークに斬りかかる。

 チェーンソーが火花を上げゾークが真っ二つになった。

 これで最後か。


「クレア! キャンプに行くぞ! みんなが危ない!」


「うん!」


 俺はロボを走らせる。

 ローラーダッシュはない。

 俺、ローラーダッシュに嫌われてるのかな……。

 悲しい。

 キャンプが見えてくる。

 近衛隊のおっさんたちが人型重機で戦っているのが見えた。


「近衛隊! 学生を守るのじゃ!!! 絶対死ぬなよ!!!」


 嫁の声が聞こえた。

 その瞬間、俺は恐怖を忘れた。


「クレア、舌噛むな! 行くぞ!!!」


 俺は飛んだ。

 飛翔ユニットなんてない。

 ただ脚力だけで飛んだ。

 チェーンソーを振りかぶる。

 そのまま着地と同時にゾークをぶった斬った。


「撃ちます!」


 腹部のキャノン砲が火を噴く。

 操縦席まで揺れた。

 俺はそれでも暴れた。

 ゾークに肘をかち上げ、体勢が崩れたところに蹴りを入れる。


「婿殿か!!!」


 嫁の声が弾んだ。


「どうだ! この荒々しい戦い! これぞ妾の婿じゃ!!!」


 ありがとちゃん!!!

 チェーンソーの火花。

 それにオイルと火薬。

 機体が黒ずむ。

 俺はゾークのはさみをつかみ、その身にヒザ蹴りを入れる。

 着地した瞬間、クレアがキャノンを撃つ。

 俺の心臓は高鳴っていた。


「残弾ゼロ!」


 クレアの声で我に返った。

 ゾークの破片が散乱していた。

 最後の一匹がこちらに突っ込んできた。

 チェーンソーは……動かなかった。

 俺はチェーンソーを捨ててゾークにつかみかかる。


「死にさらせ!!!」


 ゾークを持ち上げる。

 関節のギアが悲鳴を上げた。

 俺は高らかにゾークを持ち上げる。

 そしてそのまま膝の上に落とした。

 めきめきと音がしてゾークが割れた。

 とうとうギアの異常でシステムがストップした。


「俺の勝ちだ」


 あの……運命さん。

 もっと手加減というか……。


「婿殿!!! 生きてるか! 痛いところはないか!?」


 嫁の声が聞こえた。

 疲れて声も出せねえ。

 専用機とか……ジェスターってなんなんだよ……。

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― 新着の感想 ―
腹キャノンとチェーンソーってめっちゃ尖った装備ですね… 前任者はどんな戦闘をしてたのやら
封印するしか無かったのか、あえて殲滅しなかったのか、気になりますねぇ。現実改編がゾークに通用するのも面白い。少なくとも、テスクチャーは同じようですね。
[一言] …クレアイベントミッション:『ゾークの謎の一つ』ミッションコンプリート…。
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