第八十九話
10日ほど経過すると痛い部分もなくなった。
死ぬような怪我でも治してしまう技術に乾杯!
信じられない量の栄養が必要だけどね!
両足全修復と考えて18キロの経口摂取が必要と。
ロス分考えると30キロ近くか……。
気合で食べても達成できるはずもなく。
……かなり痩せた。
嫁ちゃんは会議が難航。
行き先が決まらない。
帝都にいるウォルター殿下と愉快な文官たちが邪魔してるみたい。
意地でも嫁ちゃんに手柄をあげさせたくないらしい。
それ勝てる戦争にすら負けるフラグだから!
そう考えると行政権握ってるのは最強に近いのな。
行政が腐敗して文官個人の利益追求しだすと国が滅びるけど。
歴史の中で数々の軍がクーデター起こした気持ちがわかる。
もしかすると定期的に文官を粛正する政治の方が優秀なのかもしれない。
「ムキー!!! ムカつくのじゃ!!!」
そこはいつもの会議室。
嫁が猿になって暴れる。
俺たちは次に行く場所が決まってないのだ。
「でもさー、始末したいんだったらトマス義兄さんの助っ人に行かせればいいのにね」
「勝てないと思ってるのはトマスと我らだけじゃ。ウォルターは勝てると思ってる。今ごろ戦後に足引っ張る方法を考えてるわい」
「ものすげえ小者臭がするんだけど」
「意思疎通ができない化け物との戦争がなければ小者でもよかったんじゃがな……いや、その場合殺さねばならないか……」
物騒だな。
だが冷静に考えると隙あらば近親相姦狙ってた親父のコピーだ。
俺が嫁の立場でもぶち殺すわ。
嫁に手を触れたら反射的にぶん殴るだろう。
殴らない自信がない。
「で、どうすんのよ?」
「考えておる! 実はなトマスの行軍した方へ向かって星を解放していこうかと思ってるのだが……命令違反にならないような抜け穴を探してるのじゃ」
うーん?
なんか顔が浮かんだ。
「ちょっと待って」
「なんじゃい」
通話を試みる。
相手は軍で異例の出世を果たした弁護士のレイモンドさんだ。
レイモンドさんはすぐに出てくれた。
「やあ、久しぶり。大尉になったんだっておめでとう」
「レイモンドさんはお変わりありませんか?」
「いやさ~……これ本当は機密なんだけど……トマス殿下のサポートについてた准将が先ほど殉職された。それで僕が准将だって! 僕より上がみんな亡くなっちゃったの!」
「めちゃくちゃ出世しまくってるじゃないですか! おめでとうございます!」
「めでたくないよ! 法律屋が准将なんて悪夢そのものだね。とうとう裏方のトップだって!」
「レイモンドさんの上司は?」
上級大佐だっけ。
軍の法律屋のトップだ。
軍の偉い人も数が多すぎて階級が細分化されてるんだよね。
「亡くなったよ。帝都の襲撃で行方不明だったんだけど瓦礫の中から遺体が発見されてね。逃げようとして亡くなったものだから派閥ごと存在しなかったことに……」
処刑かな?
なんか軍も地獄みたいになってるな。
「さすがに家格が見合わないからこれ以上出世しないだろうけどね。戦争さえ終わればお役御免かな。それまで我慢するよ」
「そんな大変なところ心の底から悪いと思ってるんですが……」
「え? なにやだ怖い」
「文官に邪魔されて待機させられてるんですよ。なにか法律の抜け穴がないかなと」
「なんだそんなことか。それなら僕が命令出そうか? これでも弁護士で准将だし。文官との戦いは得意だからね」
「うおおおお! あざっす! 嫁ちゃんレイモンドさんが命令出してくれるって! どこ行く?」
嫁ちゃんが目を輝かせた。
「そうじゃな……。文官に気づかれたくないな。レイモンドよ、トマスの後片付けを命じてくれ。トマスの進軍した航路上のデブリの回収をせよと」
「回収中に偶然惑星を解放しちゃったってことにするわけね。うん、わかった。こちらでなるべく情報を出さないようにするよ。殿下、それにレオくん、僕らの仲間もね、帝都を奪還してくれた恩を返したいって思ってるんだ。できる限り協力するよ。僕らは弱いから戦力にはならないけどね」
「あざっす!!!」
「そうだね。こちらも書類練るから三日くらい待ってて」
それは救いの一手だった。
もしかするとトマスに追いつくことだって可能かもしれない。
レイドモンドさんは「じゃあね」と言うと通話を終了した。
「持つべきものは優秀な弁護士でしたな」
「妾は婿殿の豪運に驚かされたぞ」
「ジェスターの能力……さすがにそれはないか」
「カカカ! では妾はトマス兄様に連絡しておく」
「盗聴されてない? 大丈夫?」
「大丈夫な手があるのじゃ。まかせよ」
というわけで嫁ちゃんと別れて自室に行く。
部屋ではメリッサにレンにクレアにケビンまでいた。
暇なのかなぜかお菓子を作ってる。
「あ、帰ってきた。オーブンレンジ借りたよ」
俺の部屋は少しだけ広いのでオーブンつきの電子レンジがある。
士官の部屋なんで本来は会議してて食事を取り損ねたときに使う用途なんだろうけど。
だもんで暇な女子たちが借りに来る。
俺は性癖公開してしまった男。
今さら女子に見られて困るものなどない!!!
かかって来いや!
「はい賄賂」
クレアがクッキーをくれた。
「あざっす」
四角いクッキーを口に入れる。
おいしい。
「うまい!」
「仕事ないと暇すぎてさー、クレアに料理習ってたんよ。はい試作品」
メリッサが照れながらクッキーを渡してきた。
「ありがたや、ありがたや。うみゃい!」
「あはは! 料理もやってみるもんだね!」
「旦那様。私のも」
「ありがたや。うみゃいっす!!!」
「えへへー」
最後にケビン。
「あげる」
ここでお約束の黒焦げクッキーが来るかと思ったら、完成度が高いのが来た。
前から思ってたけどケビンってそもそも男だったのが間違いだったんじゃ……。
「あざっす! 完成度高えな!」
「前にお菓子屋さんでアルバイトしてたからね!」
うん?
時系列がおかしい。
士官学校ではお菓子屋さんのアルバイトなんてできないはずだ。
「うん? アルバイト?」
「あ、学校入る前ね。コロニーじゃ自分の食い扶持を稼ぐのが当たり前だったんだ」
「お、おう……」
さすがにどん引きである。
あとで嫁ちゃんに相談しよう。
俺って恵まれてたんだな……。
本当にそう思う。
その後、近々出発日が決まりそうだって話をした。
うん、方針が決まると気が引き締まるのであった。
なおクッキーであるが、女子に近衛隊に大学校&院生に一般兵にと配って終了。
男子? 己の所業を後悔するがいい。




