第八十八話
次の日、とりあえず筋アシストなしで歩けるようになった。
まだ靴が履けないくらい腫れてる。
この状態でも歩いた方がいいんだって!
まだ歩くと神経に響くけど我慢我慢。
なのでクレアのお見舞いに行く。
クレアは肋骨数本と鎖骨を骨折した。
ケビンもついてくる。
服は士官学校の芋ジャージにサンダル。
松葉杖をつきながらクレアの部屋に行く。
「大丈夫? 痛くない?」
ケビンが心配そうだ。
「薬が効いてるから問題ないって」
強がったが結構痛い。
ナノマシンで回復したのに痛みが抜けない。
短期間で使いすぎたからかも。
えっちらおっちら歩いてクレアの部屋についた。
入り口のインターホンを鳴らすとドアが開く。
「よ、体はどう?」
「私よりレオの方が重傷でしょ!? なに歩いてるのよ!?」
「いんやー歩いた方がいいんだって。なあケビン」
「うん、血行よくするために適度な運動が必要なんだって」
「ナノマシンじゃダメなの?」
「はっはっは! 修復しすぎて免疫に拒否反応出た……半月仕事するなって。それとクラッシュ症候群の疑いでしばらくセンサー付き」
「無理しすぎなのよ! ……私もだけど」
「なんかあったん?」
「ヴェロニカちゃんに射撃手を降りるように言われたとこ。いつか死ぬからって。……泣きそうな顔で心配してたよ」
「ああ、うん、はい。……反省します」
ちょっと今回はヤバかったかなって。
本気で火力も防御力も足りない。
足だけじゃなくて全身ぺちゃんこになりそうだったもんな。
「射撃手降りたらブリッジ勤務かプラント勤務かな……。うちの実家がね、園芸農家が多い惑星でね。ブルーベリーとかイチジクの苗を作ってるのよ。この船のプラントにある果樹もうちの惑星のなんだ」
宇宙船内で野菜や果樹の生産をするようになってから、園芸農家の需要は高まった。
そりゃもう恐ろしい勢いで。
だって必須だもん。
ないと死ぬ設備である。
品種改良をされまくって四季なりで豊産性のものばかりだ。
「そこのお姫様だっけ?」
そういや伯爵の娘って書類に書いてあったな。
「やめてよ。そんなんじゃないから! わたし養子なんだ。あ、育ててくれた両親はいい人よ。でも継承権でもめるじゃない。だから私は家名がないんだ」
そんな重いバックストーリーがあったのか!
「差別されてるとかじゃないのよ。両親は私が将来危険に巻き込まれないようにしてくれてるってわかってる……でもさ、たまに自分がなにものかわからなくなるんだ。私は誰なんだろうって」
クローンになる前から悩んでたのか……。
「……だから士官学校入学したんだ。軍なら自分が誰かわかるんじゃないかって。……お給料も出るしね。いつまでも両親の世話になってるわけにはいかないしね」
するとケビンも話す。
「うちはさ、コロニーなんだけどさ。お金なくて行ける学校が士官学校しかなかったんだ」
「ごめん……甘やかされた田舎領主の末っ子が実家への仕送り目的で士官学校はいっちゃって……」
俺が決死の思いで口に出すと二人が笑った。
「みんな同じじゃないか!」
「そうだね。同じだね!」
ケラケラとケビンとクレアが笑った。
クレアが元気そうでよかった。
で、クレアと別れて廊下に出るとピゲット少佐がいた。
「ちょっといいか」
「大丈夫ッス。えっとケビンは」
「一緒に来てくれ」
ピゲット少佐について行くとそこは会議室だった。
中には嫁と京子がいた。
「えーっとこのメンツだと……新型機の話?」
「そうじゃな。まずはこれを見てくれ」
会議室のモニターに画像が映る。
今回ぶち壊した専用機である。
顔面がない。
「ダメージの蓄積がひどすぎて分解修理することになってな。こっちが分解したパーツの画像じゃ」
今度はパーツの写真。
胸部が分解されてパーツが並んでいた。
「これを見るのじゃ」
画像にはよくわからない装置が映っていた。
というかほとんどの部品がわからない。
500年前の装置だから今の製品と互換性がない。
見たことないのはそのせいだろう。
「なにこれ?」
ケビンも興味津々だ。
古い機械の分解ってなぜか男の子の本能を刺激するよね。
「わからんのだ」
「え?」
「わからんのだ。そこで有識者に話を聞いた」
「有識者って?」
「呼ばれて飛び出て妖精さんでしたー!!!」
やはり妖精さんだった。
相変わらずウザい。
「この装置はジェスターオーバードライブですね」
「嫌な予感しかしねえのだが!」
名前がすでに不穏である。
「これはジェスターの効力を味方全員に及ぼす装置です。簡単に説明すると味方が強くなりやすくなります」
味方の経験値増加だと!!!
完全にジャンル間違えたアビリティじゃねえか!!!
結局ジェスターはSLG向きなのな。
蓋を開ければただの脳筋なのに。
「……では新しい機体にも組み込もうか」
「詳しいデータシート送りますね」
「うむ頼む。では次、これとこれだが……」
つまり……ジェスター専用機のほとんどが謎技術だったわけである。
現代に繋がらない技術ってやつだった。
わりとあるんだよね。
いらなくなって再現できない技術。
「というわけで、ジェスターの超能力関連は据え置きして他は一から組み直す。京子は妖精さんと相談しながら詳細設計してくれ」
「了解です。ぐふふふふ」
京子は嬉しそうだった。
この娘……マッドがつく方のサイエンティストだ!!!
「ところで大尉殿、プライベートでは【旦那様】と【ご主人様】のどちらがいいでありますか!」
「どっちも拒否する! つか旦那様はやめれ! レンとキャラが被る。つうか嫁ちゃん! 嫁増やすのやめて!」
「別にいいではないか。一人や二人増えるくらい。それにのう、大野は爵位は男爵だがこの地方の有力者だ。今後を考えれば味方にすべきだぞ」
「政治的思惑先行のハーレムなんて嫌じゃああああああああああッ!」
「政治的思惑が先行しないハーレムなど存在するものか!!!」
「現実を突きつけるのやめてー!!!」
男の子の夢を返して!!!
「え? 私、大尉のことわりと好きですよ」
京子はケラケラ笑った。




