第八十七話
強制的に休暇を取らされた。
ナノマシンで治しすぎたせいで体の免疫力が落ちてるらしい。
半月遊んでろだって。
あと骨折治療はくっつけるとこまではやった。
治療まで二時間くらいかかったのがまずいらしい。
足が潰れたせいで筋肉とか骨の成分が体に逆流したんだって。
突然死の可能性があるんだって!
そのせいでセンサーだらけだよ!!!
ちょっと複数の臓器に異常が出てるらしい。
動いてもいいんだけどケビンの監視つきである。
現在ケビンには決まったシフトはない。
元はレーダー周りのオペレーターだったんだけど、現在は降格されて雑用係だ。
いまはオペレーター半分、調理場の配膳と雑用半分である。
そこに俺の監視が加わったわけである。
はっはっは!
……俺こいつに殺されかけてるんだけど!!!
とはいえ俺の部屋にはメリッサも入り浸っている。(いまは訓練中で外してる)
安全は確保されてると言えるだろう。
そんな俺ではあるが、生活は特に困ってない。
両手は折れてないし足も……。
立ってみる。ウイーンとリハビリ用歩行サポート器が音を上げる。
こういうのがあるから骨さえくっつけてしまえば歩けるんだよね。
痛みの方も強力な薬あるし。
ただしこの手の薬は妖精さんのアホに無理矢理投与されてから軽くトラウマだ。
本当に眠れないくらい痛いときだけ使おうと思う。
「寝てなよ。なにか買ってこようか? 遠慮なく言って」
ケビンが心配そうに言った。
「動けるか確認しただけ。それよりさー、暇だから筋トレしていい?」
「だめに決まってんだろ!!! 寝てて!」
えー……暇だ。
帝国の無料放送も同じニュースばかりであきた。
ほぼほぼプロパガンダだ。
ネットでは冷静さを取り戻した市民が政府をボロカスに叩いている。
それでも帝国政府はプロパガンダをやめない。
かといって言論統制もしない。
適度にガス抜きさせて犯罪予告だけは摘発してる状態だ。
こういうとこは有能だし上手いんだよね。文官の皆様。
「ちょりーっす」
メリッサが入ってくる。
「隊長、聞いてよ~。隊長が動けないから生存率上げるために地獄の訓練だってさ~。俺は楽しいけど男子がバテちゃってさ~。うん? どうしたん? 立ちあがって。ほら座りなよ」
「お、おう」
俺はベッドに座る。
メリッサは折りたたみ椅子を出して座る。
「みんなどうしてた?」
「やる気に満ちてたよ。そりゃ帝都から実家が遠い連中は不安だろうけど。でも隊長は約束守ろうとしてるし率先して体張ってるし。みんな隊長に死なれたら困るって共通認識があるよね。次のリーダーは約束守る義務なんてないし」
「ひどい理由で支持されてる!」
「リーダーなんてそんなもんじゃない?」
ま、そんなものか。
男子どもとは暑苦しい友情を育んできたわけじゃないからな。
むしろ仲良くなったのはゾーク襲撃事件からだ。
それでも支持してくれるのだからありがたいと思うことにする。
「嫁ちゃんは?」
「あー……あのさ、大事件になったから会議中」
「カロン男爵が鬼だったから?」
「うん、それもあるけど……新たなスパイが問題だよね。正体もわからない工作員が惑星一つ潰したわけだし。帝国やらトマス殿下やらに連絡つけてるみたい」
ここまでやっても頭を素通りされるウォルター義兄さん。
話にならないのがわかってるからな。
「帝国は?」
「うちらが調査しろってさ」
話にならんな。
「ヴェロニカちゃんが言うにはウォルター殿下を有利にするためにうちらに手柄を立てさせたくないんだって」
「官僚機構の私物化かよ!!!」
ウォルターだめじゃん!
いや周りが勝手にやって情報が入ってないかもしれないけど。
いや……それでもダメだわ。
「それでどうすんのよ?」
「なにも」
なにもしないのぉッ!?
「なぜに?」
「だって隊長回復してないし。隊長が回復するまで武器弾薬の生産かな」
「俺いないとだめぇ?」
「うんダメ。隊長抜きだと最悪全滅覚悟しないと」
メリッサの話を聞いてケビンは微妙な表情してる。
「うちはそれが弱点だよね。ゾークの天敵を配置して他はサポートにまわる。それしかやりようがないんだけど」
腹案も、もはやエッジたちを育てる計画しか思いつかない。
根本の部分で俺たちはダメなのだ。
なんて真面目な話をしてたら、ケビンがお菓子を出してくれた。
自販機で売ってるスナック菓子だ。
さらにケビンは冷蔵庫からジュースを出して渡してくれた。
「あざっす」
ケビンは気がきく。
「ん、ありがと」
メリッサも雑に礼を口にした。
この距離感が楽である。
タイマーが鳴る。
「ちょうどよかった」
ベッド脇の手が届く範囲に置いた栄養バーを取る。
炭水化物とタンパク質と油、三大栄養素にミネラルにと。
これを指定時間に摂取する。
ナノマシンに修復材料をチャージするのだ。
パサパサなのでジュースと一緒に摂取。
今はいくら食べても許される。
ただ栄養不足は許されない。
「ケビンはどう思う?」
いきなりケビンに話題を振ってみた。
「わからないよ。自分が元通りになる方法だってわからないのに」
元通りは無理じゃないかな。
医師に無理と言われたのは知ってる。
たぶんゾークもそこまで考えてないと思う。
どう考えても使い捨て要員だもの。
その後、たわいのない話をして解散。
メリッサもケビンも帰った。
俺は一人で横になる。
やることがない……。
大野のおっさんも忙しいし、サイラス義兄さんも忙しそうだし。
士官学校の連中はVRゲームすらできないほど忙しい。
暇なの俺だけじゃないかな。
窓の外を見る。
寄港してる大野のコロニーの照明で星はよく見えない。
しかも寝るには時間がはやい。
困った。
するとチャイムが鳴ってドアが開く。
「へーい」
適当に返事すると女子が入ってきた。
レンかなと思ったら大野の娘さんだった。
たしか京子だっけ?
「大尉殿! ご挨拶に参りました! 現地入隊した大野京子です! よろしくお願いします!」
「挨拶できてえらい……」
近衛隊基準でも合格もらえそうな元気な挨拶だった。
大野の娘は髪をツインテールにした少女だった。
少し年下かな?
「大尉殿にはさっそくこれを見て頂きたく……」
「なになに……?」
ファイルが送られてきたので開く。
設計図だ。
パーツの型番なども記載されてて造形プリンター用のファイルになってる。
「わたくしは父の戦艦を設計しました! メカニックには自信があります!」
おおう、レールガンの威力すごかった。
俺に当たらないのが素晴らしい。
「で、これはなに?」
「格闘仕様の大尉殿専用機です!」
帝国よりも先に設計したってことぉ?




