第八十五話
おっさんの戦艦から輸送船で平地に降り立つ。
「うっわよく見たらジャングルだ!」
そこは森林だらけの惑星だった。
ドローンから見たらよくある居住可能型だと思ったが甘かった。
こりゃ思ったより凄い。
酸素が濃く、温度も湿度も高い。
こりゃ別の意味で暮らせない。
「温度も湿度も高けえな」
メリッサもぼやく。
こりゃ病気発生するわ。
カビ発生しまくりだ。
シャーアンバーもすごかったが、こっちも人間が住むには過酷だ。
でもクロレラ処置をしていれば居住可能なのだろう。
鬼の場所へ急ぐ。
なるべく平原というか開拓しようとして失敗したと思われる地帯を進む。
木に足をとられたくないな。
俺たちの進む先に鬼が立っていた。
「クレア、ここから殺る」
対物ライフルを立て、狙い絞る。
「照準補正します」
「隊長……容赦なさすぎ……ここは【待たせたな!】じゃないの?」
「あんなヤバそうなやつに舐めプなんてしねえよ」
卑怯でけっこう。
俺は戦争しに来てるんであって、武芸者の果たし合いをしに来たわけじゃない。
殺るチャンスがあれば容赦なくいく。
引き金に指をかけた瞬間、地面からカニがわいてきた。
だけど俺は微動だにしなかった。
メリッサとピゲットのおっさんにまかせる。
「ここはまかせろ!!! 行かせるかよ!!!」
メリッサが斬りかかった音が聞こえた。
「婿殿に手は出させん!!!」
ピゲットのおっさんの声が聞こえないかのように、俺は深く集中していた。
「照準補正完了!」
俺は対物ライフルを撃った。
だけどわかっていた。
鬼はこれを想定していた。
ニヤッと笑って弾を避けた。
おいおい、反射神経も同じレベルかよ。
対物ライフルを放り出し、チェーンソーを抜く。
「クソ! 一匹そっちに」
その声を聞こえた瞬間、俺はやってきたカニを真っ二つにしていた。
クレアも同じ速さだった。
ピゲットの横を通り抜けたカニを主砲で撃ち抜いた。
「私も化け物になってきたみたい……」
かなり前からクレアさんは化け物クラスに足を踏みこんでます。
「ここは俺たちにまかせて! レオはさっさと行って!!!」
メリッサがラスボス戦前みたいな空気を出した。
「死亡フラグやめい!!!」
「あはは! 死なないよ!」
俺は走って行く。
鬼が待っていた。
「まさか卑怯とは言わねえよな?」
ニイッと鬼が笑った。
「ヒキョウトハイワヌナ」
ただマネしただけなのか、それとも知性があったのか。
それはわからない。
だけどそれが開戦の合図だった。
鬼の得物は大きな鉈だった。
カニの外皮と同じような素材。
いやもっと重くて頑丈なやつを振りかぶった。
俺もチェーンソーを振り上げた。
激突した刃が火花を出した。
出力を上げ一気に……。
バツンと音がした。
チェーンが外れて飛んでいった。
一気にピンチ。
「ぐおおおおおおおおおおッ!!!」
鉈が振り下ろされた。
俺は必死に避ける。
「撃つよ!!!」
クレアの砲が火を噴いた。
だけど鬼の方もさすがの強敵。
すっと避けた。
できる!
攻撃は当たらなかったけど俺は攻撃の隙にナイフを抜いた。
さあ、面白くなってまいりました。
「テイコウシテモムダダ」
「それがそうでもないんだな」
帝国式短剣術。
CQCのど定番。
型稽古しかしたことねえけど。
でも速さはこっちの方が優れてる。
「ナイフの使い方は小手を……」
ブツブツ言いながらナイフの腹に人差し指を当てる。
こうすると指さした先に刃が来て狙いがつけやすくなる。
得物が短いから待ってると死ぬ!
先制攻撃。
俺は踏み出して腹めがけて刃を突き出した。
鬼は避けなかった。
刃が腹に突き刺さらず滑った。
体勢が崩れ片膝をついた。
カニの装甲か!
しかも厚い。
「アマイ」
鬼は勝ち誇っていた。
渾身の縦振りが俺の頭めがけて振り下ろされる。
と思うじゃん。
俺はナイフをアスピックグリップに持ち替え鬼の足、アキレス腱めがけて突き刺す。
こっちは通った!!!
やはりだ!
外骨格じゃない!
装甲貼り付けてるだけだ。
可動部分は隙間がある。
今度は鬼がバランスを崩した。
俺は起き上がり様に鬼の手首を斬りつけた。
小手狙いは基本よ!
だけど、だ。
再生力を計算に入れてなかった。
鬼は斬られた方の手を振りかぶっていた。
「は? 嘘だろ」
次の瞬間、とんでもない衝撃でコックピットが揺れた。
頭部をぶん殴られた。
その瞬間、メインカメラが死んだ。
ディスプレイにはなにも表示されなくなった。
次の衝撃で倒れたことがわかった。
「メインカメラ破損! ソナーカメラに切り替えます」
カメラが切り替わった。
荒い砂嵐にはのしかかる鬼が映っていた。
あ、これ知ってる。
見えなくてもできる!!!
俺は拳を振り上げる鬼の俺をつかんでる方の手を捕った。
ぐりんとねじり上げ外す。
「ナ、ナニ!」
今度は下から鬼の体に抱きつく。
片手にはナイフが握られていた。
首の後ろにナイフを突き刺す。
何度か刺すと暴れる力が弱まった。
俺は足で相手を持ち上げ後方に蹴る。
寝技的にはめちゃくちゃだけど成功した。
ナイフを突き刺したおかげだろう。
そのまま上に乗って膝で押さえつけながら急所を刺していく。
メリッサ……お前に習った武術……役に立ったわ。
くそまだ動いてやがる!
「キサマダケハ……コロス」
そう言うと鬼はコックピットがある壊れかけの頭部を殴りつけた。
ブチブチブチと音がした。
コックピットが歪んだ。
ぶちりと俺の足が潰れた。
だけど俺は戦い続けた。
腕を取って脇の下にナイフを突き刺す。
殴りながら何度も急所を突き刺した。
「おいレオ! 放り投げろ!」
大野のおっさんの声で俺は立ち上がり鬼を担ぎ上げる。
放り投げた瞬間、レールガンが撃ち込まれた。
俺も爆風に巻き込まれコケた……。
俺たちを救助したのはメリッサとピゲットだった。
今回俺はあまりの痛みに気絶すらできなかった。
気絶したのはクレアだ。
肋骨3本と鎖骨が折れた。
俺は両足の複雑骨折。
それ肩と腕は普通に骨折と。
あと首にひび入った。
病室で首を固定される。
メリッサがいた。
リンゴを剥いてくれるサービスはない。
というかナノマシンが治してくれるまで絶食。
「あのさー隊長。言うか迷ったんだけどさ」
「なんすか?」
別れを切り出されたら立ち直れない。
「あの鬼な、DNA照合したらカロン男爵だったって」
少し安心した次の瞬間……事態を理解した。
「どういうこと?」
「あの鬼……カロン男爵だった」
嘘だろ。




