第八十三話
惑星カロン。
大野のおっさんのご近所さんだ。
惑星大野で獲った魚をカロンで売って農産物を買う。
昔から続いている貿易の相手方である。
惑星シャーアンバーとは違い農業ができる程度の自然環境である。
ただ人間が生存できる土地が少なく……うん? なぜだ?
「ねえねえ嫁ちゃん。惑星カロンおかしくない? 農業できるのに人間が生存できる土地が少ないって?」
「よく気づいたな。大野に通信するぞ」
大野のおっさんは焦ってた。
「ま、待て! 俺は関わってない! 昔から惑星に入られるのを嫌がるんだよ! だから衛星上のステーションで取引するんだ」
「疑問に思わぬのか?」
「疑問に思っても何もできねえよ。俺は田舎の男爵だぞ。ただ貿易やってりゃ世間話くらいはするだろ。その流れで情報収集はしてたけどな。それに危ないものを俺たちに売りつけることもなかった」
「住民は? 住民代表のセレストはなんと言ってる?」
「なにも? カニが攻めてきたとしか」
「クソあやしくないッスか?」
思わずツッコんでしまった。
「あやしくてもプライベートには干渉しない。士官学校でも同じだろ? 自分に関係ないかぎりはな」
なんか違うような。
「犯罪だったらどうすんのよ?」
「なにも? 領主は自分の惑星を統治するのが仕事。他の家のことなんて知らねえ。そういうのは帝国のお仕事。田舎男爵になに期待してやがるんだ?」
そりゃそうか。
「ここで話し合ってもしょうがない。セレストを呼ぶのじゃ」
で、三人は会議室に集合した。
そこにセレストを呼んで尋問タイムである。
セレストは顔に傷のある元軍人と思われる男性だ。
おっさんがニヤッと悪い顔になる。
「セレストよお、俺になにか言うことあるよな?」
「あ……あの……その……」
嫁も悪い顔になった。
「皇族に逆らうのか? いい度胸じゃのう。最悪惑星破壊ミサイルを……」
これは脅しである。
惑星の破壊は周囲の惑星の重力が変わるので推奨されてない。
表面を焼き払うだけだ。
ゾーク相手ならやるかもしれないけど。
帝都惑星にコロニー落としたし。
「い、言います!!! ですからなにとぞ民の命は……」
「で、なによ?」
「その……信じてもらえないかもしれませんが……これをご覧ください」
セレストは端末からファイルを送ってくる。
報告書だ。
画像数枚と動画が添付されている。
なになに?
まずは報告書に目を通す。
【男性が女性に変化する感染症? について】
はい?
【原因特定できず】
はい?
【感染者は神と一体になると言い出して】
はいいいいいいッ?
慌てて画像を確認する。
女性だらけの惑星。
みんな美形ばかりだ。
ただ目つきがおかしい。
動画を見る。
女性たちが映ってる。
「ズルバッグ・アジンスキーだ」
タンクトップの女性だ。
やたら美形である。
ただサイズが全く合ってない。
デカすぎて胸がこぼれそうだ。
「おい! 早く治してくれよ! 俺は男なんだ!」
なんかめっちゃよく見る光景だ。
なんだろう。
すっげえ精神的に疲れる。
「婿殿……似たような例をごく最近見たな」
「うん……」
「なんだよそれ?」
ケビンの素性を知らない大野だけわかってなかった。
「えっと、もしかして女性になった野郎どもはやたら巨乳だったりしない?」
「え? どうしてわかるんですか!?」
おうふ、やはりケビン案件だ。
「ケビン呼ぼう」
無言のまま数分後、お胸を揺らしてケビンがやって来る。
あまりの厄介案件にエロい気分にだけはならない。
「なに? なんか用?」
「なあ……洗脳されてたときゾークのことどう思ってた?」
「創造主で神かな? ゾークのネットワークに接続して彼らの一部になるのが至高だって思ってた。今はそんなこと思ってないけど」
……やはりだ。
「あのな……気をたしかに聞いてほしい。人型ゾークの惑星が見つかった」
「……ま?」
ケビンが固まってる。
ケビンみたいなのが大量にいる惑星とか……。
いや待てよ。
俺行ったら殺されるじゃん。
「あれ……俺の天敵じゃね?」
「ピゲットを向かわせるか」
「なあ、さっきからなんの話だ? いいかげん説明してくれないか?」
口出すのを我慢してた大野が言った。
しかない説明してやるか。
「おっちゃん、こいつな元人型ゾークで野郎」
「そんな巨乳が野郎のはずねえだろ。つうか俺は豊胸手術に詳しいんだ。見ただけでわかる。天然ちゃんだ」
「と思うじゃん。巨乳になったのここ一ヵ月だし。その前は俺を殺そうとしたんだわ」
「なんで生きてるの?」
「同級生殺したら寝覚めが悪い」
「あんたも苦労してんだな……まさかレオに遭遇しちまうなんて」
なぜか大野がケビンに哀れみの声をかけた。
「ねえねえ、おっちゃん。なんで撃たれた俺の方が加害者みたいになってるの?」
「そりゃ……レオだし」
大野のおっさん……だんだん俺の傾向つかんで来やがったな。
一切の容赦がない。
「面白珍獣なお前が悪いんだろ!!!」
「酷くね!!!」
するとケビンが俺に聞く。
「それで僕はどうすればいいの?」
「人型ゾークの弱点教えてよ。他の惑星に逃げられちゃ困る。かと言って殺すわけにもいかないから捕まえないと」
「弱点……えーっと」
俺を指さした。
「ジェスター?」
「むしろジェスターの弱点じゃね?」
少女に来られたら性別年齢関係なくたいていの人間が油断すると思う。
「でもジェスター相手じゃなきゃ確実に殺せてたと思うよ。クローンはジェスターの因子受け継がないからいけると思ったんだけどね。反則だよね、その超能力」
「でも直接強い方がよくね?」
「直接強いより厄介だと思うけどね。策をすべて無効にしてくるし」
「もう焼き払っちまった方がよくね?」
大野の暴論。
するとずうっと考えてた嫁が口を開いた。
「ケビンの場合はノードを殺したら解放されたのじゃったか?」
「違うよ。間違えて男子がお酒を差し入れちゃってさー。飲んだら洗脳解けちゃった」
「えっと、それは脳に作用する食品を嗜好品にしてる頭のおかしい生き物の生態をゾークは知らなかったと」
「うん、そうだね」
「酒じゃ酒持って来い! ガスにしてばら撒くぞ!!!」
うわーお。
怒られそうな作戦だな、おい。




