第八十二話
一時間ほど読んでノートに概要を書いていく。
うちの領地、あとで裁判官雇おう。
基本的知識が追いついてない。
「婿殿、そろそろ決まったか?」
嫁が指で机を叩きながら言った。
やめてそうやってプレッシャー与えてくるの。
「だいたいは」
「ほう、大野どう思う?」
「レオ殿は領主としての経験が浅いと思われます。どんなひどい案でも我々が補佐すればよろしいかと。さすれば良い経験をお積みになられるでしょう」
うっわー嫌味。
でも今回の目的は俺に経験を積ますことなのね。
【どうせろくな判決出せねえんだからはよしろガキ!】
という意味である。
そこまで期待されてないとは。
「えーっと、海賊行為に関しては全員死刑」
「ほう、思ったより苛烈じゃの、婿殿。てっきり手心を加えると思ったぞ」
自分が他人に異様に甘いのは自覚してる。
ケビンもなあなあで許しちゃったし。
皇帝も死ね死ね言いながら直接殺せなかったし。
だから今回ちゃんと考えたんだって!
「ただし、死刑には執行猶予5年をつける。実質的な被害は扉だけのショボい犯罪だからね。宇宙航法違反の方は最高刑の懲役10年マックスで。手慣れてて初犯じゃねえと思われるからこっちには執行猶予なし。懲役、つまり強制労働は軍役を優先で。最悪ゾークの盾として使う。殺人やら逃亡やらは即時死刑執行で。あとは大野男爵にお願いします」
よかった。
帝国法では死刑にも執行猶予つけられて。
「はいジャッジ」
そう言うと嫁は目を丸くしていた。
大野も驚いてる。
「なによ?」
「……もっと甘々の理想主義のゴミみたいな案を出してくると思ってたわい。それなりにいい線ついてきたの」
「嫁ちゃんの中で俺はどういう評価なのよ」
「ケビンを殺さないし、自分の女にするわけでもない。極めて能力高いのに優しいのと優柔不断を勘違いしてる残念なやつじゃが?」
「最愛の嫁の言葉の刃で俺瀕死」
「おいおい、若いの。殿下は【優しいお前のことが大好き】って言ってるんだよ。大好きだから育てようってげぶら!」
大野の脇腹に嫁のエルボーが突き刺さった。
わかるか。
嫁ちゃんは照れたときが最高に危険なのだ。
「うっさいわ!!! 自分の婿が好きでなにが悪い!!! からかうな!!!」
ふんっとスねてしまった。
「まーまーまーまー奥さん聞きました? 婿を好きでなにが悪いですって!」
「大野さん、そろそろやめたげて。嫁ちゃん歯ぎしりしはじめたから。キレる寸前だから」
猛獣みたいな顔になってる。
もうやめたげて!
あとで八つ当たりされるの俺よ!
「へーい、でもよ、今回は見直したぜ。さすが英雄レオ・カミシロだ」
途端に嫁が「ふふん」と上機嫌になった。
良い嫁である。
「それで海賊船はどうするのじゃ?」
「いらねえでしょ。あんなの」
「じゃな。大野はどうじゃ?」
「船はありがたいですな」
海賊船は大野のものに。
だっていらねえもん。
さて報告書を作る前に供述を再度確認。
俺たちが惑星シャーアンバーに行ったところで宇宙嵐が来た。
チャンスだと思ったそうで。
まさか宇宙嵐の前に帰ってくるとは思わなかったようだ。
軍の動きを見てるあたり手慣れてる。
証拠ないけど。
これから彼らがゾークの餌になるかはわからないけど、軍で働いて真人間になってくれればと思う。
幼年学校時代の俺らの数倍殴られるだろうけど。
……盗み癖って治らないんだよね。
報告書を出して裁判も終了。
ホテルに戻る。
宇宙嵐は続き、重力は不安定なままだった。
ホテルでは学生たちがゲームセンターで遊んでる。
片付け終わったらやることなさすぎて暇なようだ。
「おっと侯爵閣下が帰って来たぞ」
男子が声をかけてくる。
「嫌味やめろ」
「へへっ、すまねえ。でもよー、レオの直感の精度が恐ろしいことになってるよな? 大丈夫か?」
「え? どういうこと?」
俺が疑問符を浮かべてるとケビンがやって来て説明してくれる。
「超能力だよ。いくら常時発動っていってもそれだけ強力な力なんだから精神力の消費激しいでしょ? 疲れてない?」
「え? いや、ぜんぜん。メシ山盛りで食えば次の日に疲れ残らないレベルだけど」
「どれだけスタミナあるのよ!」
「だって使おうとして使える能力じゃないし! スタミナ消費ゼロなんじゃね?」
「いやいやいやいや、ないから! それだけ強力な能力で消費ゼロはないから!?」
「えー……」
強力かな?
【ゾクッ】とか【ぼやーん】ってするだけよ。
あとは自分で判断してるだけだし。
「超能力なんて燃費が悪くて役に立たないから重視されないんだって。もし役に立てば士官学校はとっくに超能力者優遇枠があるよ!」
「へー」
完全に他人事である。
だって最近まで自分が超能力者だって知らなかったし。
ジェスターだってのもね。
そもそも俺が切り札って説は絶対に信用してない。
強くねえっての。
毎回ギリギリだろが!
「まあいいか。レオくんはその調子でいた方がよさそうだし」
「それよりさ、君らケビンと仲良すぎじゃない?」
胸ばかり見てるけど。
すると男子どもが血走った目でつぶやいた。
「おっぱいさえあれば……」
「正気に戻れ。やつの中身は男だ」
「だが俺らに優しくしてくれる女子なんてケビンしかいねえだろ!」
「そもそもお前らがブス決定戦とかやってたのが悪いんだろが!!! 女子に謝れ!」
「うるせー!!! このモテ野郎が!!!」
それでこの姫プか……。
ケビンは男子どもとゲームをして楽しんでた。
男子どもは鼻の下を伸ばしてる。
それでいいのかお前ら。
女子たちはクソ男子どもに優しくされるくらいならケビンに押しつけちゃえと案外好意的だ。
ケビンは女子の間でも孤立はしてなさそうだ。
男子どもとは断絶してるけどな。
なお女子たちが俺に言い寄ることはない。
あるかなとちょっと期待したがない。
それは嫁ちゃんの人気の高さだ。
今や女子代表の貫禄がある。
こうして我々は宇宙嵐が過ぎ去るまで待機していたのである。
……あれ? 俺と嫁は仕事に追われてない?
ぜんぜん休んでないんだけど。




