第八十一話
なぜか俺の発言はコロニー中に光の速さで駆け回った。
士官学校の連中だけならまだわかるんだけど、なぜか近衛隊やら大学校の連中、コロニーの兵士まで完全武装の用意をしていた。
近衛隊なんかは本当に焦って弾薬を集めてる。
俺はいつものようにエッジたちと重機係。
人型重機で弾薬の積み込みやらコロニー外壁素材のバリケードを置いたりしていた。
重力軽すぎるんで床に固定する。
「あのさー、いつもみたいに自信がないんだって」
俺は一緒に作業してたクレアにぼやいた。
「それでもレオは未来予知系のエスパーでしょ。根拠なんて【レオが嫌な予感がした】だけで充分よ」
「でもさー、こう、暗殺されそうになるときとかゾークが来たときは……もっと、こう、刺すような殺気がね」
「どう違うのよ」
「なんか、もわーんとしててさ」
「太陽フレアのせいじゃない?」
「そうなのかな~? 自信ないよ」
なんだかなー。
すると館内通信が入る。
【約一時間後に電磁波が小康します。重力が正常状態に戻りますのでご注意ください】
「へーい」
タイマーをセットする。
直前にもアナウンスあるんだろうけど念のためにね。
その後、30分くらい作業すると館内アナウンスがあった。
【兵士は配置についてください】
「クレア行こうか」
「うん」
士官学校のジャージから戦闘服に着替えて配置につく。
いつメンにケビンも加えたパーティーである。
人型戦闘機はコロニーを破壊する可能性がある。
ゾークが確認できてから使う予定だ。
なので最初は生身で。
俺だけ人型重機で挑む。
……少し納得できない。
呆れてるとケビンに怒られる。
「そんな顔しない! しかたないじゃない。レオは人型重機の操縦一番上手いんだからさ!」
人型重機に機関銃を持たせる。
補助アームに盾代わりの外壁素材の板を持たせる。
「いや、こうさ、普通の戦闘機で出撃とかさ」
「戦闘機じゃ太陽フレア来たら戻って来れないよ」
ここで待ち構えるしか選択肢はないのか。
じゃあ仕事するか。
「ケビンはレーダーと他の部隊への通信役な」
「了解」
どんくさいケビンに怪我されたら困る。
それにケビンって裏方やらせたら優秀なんだよね。
「妖精さんいる?」
「はいはーい!」
「ケビンと連携してくれる?」
「はーい! それでー、レオくんさー、なんか変なんですよねえ」
「なにが? ゾークでも発見した?」
「ゾークもさすがにこの星域の戦略的価値はないと思ってるはずですよ~。追加で兵力割くとは思えないんですよね~。でも……」
「なによ」
「なんか来てるんですよね。大量に」
「ああん?」
別な意味で嫌な予感がした。
レーダー室で端末とにらめっこしてたレンから通信が入る。
「敵影補足! 映像を送ります!」
なんだろうか。
そこに映っていたのは戦艦だった。
いや戦艦ってのはちょっと無理があるか。
民間船に武器を取り付けた一団が見えた。
「……海賊だ」
太陽フレアの中、無理して渡ってきたのはなんと宇宙海賊だった。
命知らずってよりアホなのだと思う。
だって超大型戦艦が安全のため飛ばない選択してるのに、これ。
それに俺たち軍が常駐しているところにわざわざやって来たのだ。
メリッサの目が輝いた。
「俺、海賊と一度戦ってみたかったんだ!」
クレアと俺は一気にやる気をなくした。
「寝よ寝よ」
「そうね、部屋で寝ようっと」
「え、なんでそんなに余裕あるの? 海賊はコロニーの天敵でしょ」
わかってないのはケビンだけ。
「いやだってさー、嫁ちゃんいるのに俺らの出番ないわ」
嫁のあだ名は【海賊狩り】。
実の父親の嫁にされたくないばかりに片っ端から海賊を撃沈した女である。
海賊相手なら俺なんかより経験値は遙かに上である。
「あ、いくつか流されてます」
電磁波の影響か操舵システムに異常が出たようだ。
いくつかの船が流されていく。
「あれ回収するの?」
結局救助するはめになるんだろうけどさぁ。
もう放って置いていいんじゃないかな!
「うっわー……」
メリッサまでどん引きである。
ただ俺たちにはいい教訓になった。
【宇宙嵐のときは出港しない】
ああなるぞっと。
いくつかの船がようやくコロニーにたどり着いた。
監視カメラで見てたら丸ノコ出して扉を切り刻みはじめた。
スピーカーから大野の声がした。
「あー! もう! 扉壊すんじゃねえ! ええい、開けるぞ! 戦闘用意」
油圧の扉が開く。
「ぎゃはははは! 命が惜しけりゃ……」
海賊が笑いながら入ってきた。
そして彼らが見たもの、それは完全武装した軍の姿だった。
「嘘だろ……」
俺も嘘だと思いたい。
投降してすぐに全員逮捕。
流されたアホもドローンで回収。
救助用のドローンが電磁波で数台ダメになったのが腹立たしい。
で、ここからが問題だった。
【ヴェロニカ皇女、カミシロ侯爵、大野男爵、会議室にお越しください】
「は? なんで俺?」
するとレンが教えてくれる。
「旦那様は侯爵家の当主ですから」
「なぜに? いや、なんの会議?」
「裁判ですよ」
うーん?
どういうこと?
会議室に行くと嫁とおっさんがいた。
「婿殿来たな」
「なによ裁判って?」
「婿殿……弁護士志望じゃろ? 知らんのか?」
「知らないよ。まだ習ってないもん」
正直言うが、目の前の課題をこなすだけでいっぱいいっぱいである。
法律は多少目を通したが、全体の学習の仕方を知らないレベルである。
なお、重機の免許取るときの学科試験の法規は得意だった。えっへん!
「最近まで当主になる予定がなかったからな。しかたないか……海賊を捕まえたら裁判をするのじゃ!」
「帝都か裁判所のある惑星に連れて行くんじゃなくて?」
「そんな暇ないのじゃ! だから領主の権限で裁判を開くのじゃ」
「なんで俺? 大野のおっさんがやればいいじゃん」
「貴族家の当主だからじゃ。妾も皇族の義務で裁判に参加する」
「サイラス義兄さんは?」
「今はまだ表に出したくない」
なるほどね。
「で、なにすればいいの?」
「刑を決めよ。ほれ六法全書」
判例がついてる六法全書が端末にインストールされた。
開くとAIが今回の事件に関する部分がピックアップした。
「うーん、なるほどね」
判例も読んでいく。
で、読んでてわかった。
これ……今決めるの無理じゃね?




