第八十話
次の日。
俺たちはまだコロニーにいた。
宇宙嵐だって。
恒星の活動でエネルギーが放出される。
電磁波とかいろいろなものが降り注ぐので外に出られない。
戦艦は対策されてるけど事故る可能性は否定できない。
なので出航延期である。
こればかりはしかたない。
コロニーも停電が予想されるらしい。
重力も不安定になるのでトレーニングすらできない。
なので一日休憩。
昨日宿泊したコロニーのホテルでもう数日。
ホテルはコロニーのロビーと違って異様に古かった。
ビジネスホテルなんだろうけどボロい。
そのくせ部屋はキレイだ。
なお嫁とサイラスは貴賓用の大きなホテルだ。
俺も高級ホテルに誘われたが断った。
みんなと同じ待遇じゃなきゃダメだ。
嫁とサイラス殿下、それに近衛隊が別なのは理解できる。
でも俺はダメだ。
嫁が貴賓なのであって、俺は貴賓ではない。
というわけで古いホテルのゲームコーナーにいる。
なお男爵領のコロニーであるが、うちの侯爵領と比べても都会である。
なんだろう。地方都市的な?
うちじゃホテルないもん。
なおアダルティなお店が多くあるので外出禁止である。
ゲームコーナーはわざわざ実物のレトロゲームを取りそろえている。
とりあえず来てみたが知ってるゲームがない。
うむ。
古いゲームだからしかたないよね。
狭くて台数も多くない。
古すぎて面白くないかも。
でも5分くらいは楽しめるかな。
……10分後。
「ヒャッハー!!!」
すっかりコイン落しにはまる。
いつの間にか男子どももやって来てエアホッケーをやっていた。
ガンシューティングも面白い。
俺を見てケビンがつぶやいた。
「アホだ……アホの集団がおる……」
「ケビン……アホになりきるのが人生楽しく生きるコツだ」
「レオはアホの時間の方が長いよね!」
メリッサはダンスゲームをやっている。
「昔のゲームって侮れねえな」
と各々が楽しんでると館内アナウンスが鳴った。
「太陽フレアの影響で重力制御が停止します。重力が不安定になり怪我をすることがあります。お気をつけください。睡眠時は安全帯をつけてください」
あん?
ぐるんといきなり天地が逆になった。
俺のメダルちゃんが天井に向かって落ちていく。
ゲーム筐体がエラーで停止していく。
「な、なに!?」
ふわっとケビンが浮いた。
幸い浮くだけすんだ。
完全に重力装置が停止してやがる。
メダルもゲームセンター内を漂っていた。
これでも俺たちはわりと冷静な方だった。
だって戦艦乗りだし。
室内無重力訓練は数回はやっている。
それにバイクや輸送船には重力装置ないしね。
ふと横を見たらメリッサがダンスゲームの安全帯に絡まっていた。
「メリッサ無事か?」
「隊長、なんか絡まっちゃってさー」
サクッと外してあげる。
メリッサってけっこうハズレ引くよね。
今度はケビン。
「ケビン生きてるか?」
するとケビンがもがいてる。
あー、そういうことか。
体型変わりすぎて泳げないのか。
おっぱいが三次元にぼよんぼよんしてる。
「お、泳げない!!!」
ケビンはジタバタ手足を動かしてる。
うん、可哀想だから助けてやろう。
くるくる回ってるので抱っこする。
「おーい、大丈夫か?」
「ぶはッ! なぜか泳げない!!!」
なぜかケビンは目をつぶって息を止めてた。
抱っこしたら息を吐いてから目を開ける。
「なぜ息を止めてた?」
「な、なんとなく……」
君……さてはどんくさいな……。
ケビンをメリッサの所に降ろす。
男子どもはなぜか俺のメダルをかき集めてた。
あとで「ヒャッハー! お前のメダルを使ってやるぜー!」ってネタをやろうと思ってるのは明白である。
なのであえて逆を行く。
「みんな、俺は館内見てくる。メダル使ってくれや」
「電源落ちてるわ!」
「はっはっは! 気にすんな! 使え!」
そう言ってホテルのロビーに向かって泳ぐ。
泳いでいくとクレアがいた。
エレベーターに服が挟まれて身動きが取れないようだ。
「おっす」
「あ、レオ」
「服引っ張るぜ」
「うん、ありがとう」
サクッと服を引っ張って出す。
「レンはどこ?」
「さっきそこの自販機で買い物してた」
自販機の所に泳いで行く。
すると空を飛ぶフライドチキンが見えた。
「がうがうがうがう!!!」
フライドチキンは渡さない!
一つ残らず回収する!
食い意地の張った肉食獣がいた。
「レン、無事か!?」
「フーッ!!! ……ふ、ふにゃーん!」
「いや今さら取り繕わなくていいから」
「……ふ、フライドチキンが浮いたのでつい我を忘れて」
「あー、うん、いいって。俺もよく我を忘れるから」
それは黒歴史が証明してる。
他の人はどうだろうか?
幸いホテルは貸し切りだ。
救助するのは従業員だけだろう。
泳いで行くと従業員はその辺の手すりに安全帯をつけていた。
普段からよくあることかもしれない。
さすがコロニー民。
……あれ?
ケビンってコロニー生まれじゃなかったっけ?
それにしちゃ……どんくさの民だったが。
やっぱり胸が急にデカくなると動けないのだろうか。
みんな大丈夫そうなのでゲームセンターに戻る。
レンやクレアもいた。
「うーっす。みんな無事か?」
「ええ一応ね」
クレアが答える。
ここで余計なある考えが脳裏をよぎった。
「あのさ……ここをゾークが……あはは、ねえな」
するとみんなが俺を見る。
なにそれの顔。
男子が野郎どもに呼びかけた。
「おいお前ら! レオが嫌な予感がするってよ!」
「な! それは大変だ!」
「戦闘用意……って装備どこだ!」
「モニター! モニターどこよ!?」
男子が狼狽しまくってる。
クレアは冷静に言った。
「偵察用ドローン取ってくる」
メリッサも。
「刀取ってくるわ」
レンは。
「使える通信端末探してきます!」
最後にケビンが。
「弾薬たしか持ち込んでたよね?」
……いや妄想だって。
そこまでビビるなよ。




