第八話
道化師。
超能力者の大半が攻撃職のウィザードか回復職のクレリックの才能が開花する。
どちらも専門職だけあってとても強力なクラスだ。
そんな中、発生率数万分の一。
レア中のレアなクラスだ。
事故で発生するやつだ。
古き良きRPGの文法に従うと【大器晩成型】。
要するに中盤までゴミカス。
むしろ運営の嫌がらせ説が濃厚だ。
上位クラスの【賢者】になりさえすれば……たしかに最強ではある。
だけどそれまでが苦痛すぎる。
序盤は、まあ戦える。
すべてのクラスのすべての超能力が使えるからな。
ただし威力はゴミ!
すぐにサポート枠になる。
とはいえ治療も支援もゴミ。
中盤のつらさは筆舌に尽くしがたい。
肉体強化もゴミ。
攻撃もゴミ。
治療もゴミ。
支援もゴミ。
あまりにもゴミすぎてアップデートで近接戦闘だけ上昇改変されたらしいよ。
たしかに戦闘以外のフィールド上で使う能力はアホみたいに豪華。
異常な運の良さでドロップアイテムが豪華だったり。
だが「それ攻略に有利?」と言われると黙るしかない。
ドロップアイテムに頼るくらいなら戦闘力一点豪華主義でゾーク殺しまくって報奨金稼いだ方がいいし。
がんばれば商人ルートならある程度活躍できるが、「商人の固有スキルでもいいしな」という具合である。
ふむ、ゴミ。
発生したら即キャラ削除が攻略サイトに書かれているし、RTAですらも誰もやらないという地獄である。
賢者への道は剥き出しのガラスの刃で舗装されている。
そんなルートを目指すくらいなら筋力あげて海兵隊ルートがいいだろう。
超能力などなかったんや!!!
死ね!!!
俺が絶望していると嫁が走ってきた。
「む、婿殿!!! ジェスターじゃと!!!」
同時に通知が来たようだ。
「く、黒の災厄じゃ……」
「なんすかそれ?」
「500年前に帝国領の三分の一を滅ぼしたと言われる災厄じゃ!!! その原因はジェスターの能力者じゃ!!!」
「え? もしかして俺処刑ッスか?」
「いいや、今はそうならない。だが恐ろしく珍しいクラスじゃ。500年ぶりの発見じゃろう」
そりゃそうだ。
ジェスターなんぞ育てようってのはよほど暇を持て余したやつだからな。
イライラ枠だぞ!
俺は筋力と敏捷性に全振りしようと思う。
帝国の三分の一を滅ぼしたなんてありえねえわ。
RTA勢ですら見放したクラスやぞ!!!
「婿殿! ジェスターには……強力な現実改変能力があるんじゃ!」
「なにそれ初耳!!!」
怖すぎる事実がいまここに!!!
「ジェスターの恐ろしいところはそこなのじゃ。自分の意思とは関係なく世界そのものを再構築する。もちろん限界はあるが……妾が近くの宙域にいたのももしかしたら……」
「俺の能力ぅ!」
どうりで運がよかったわけだ。
ステータスとか戦闘とかに反映されない部分が異常に強いタイプなのか!
いや……待てよ。
もしかしてそれ、アレか?
「敵が増えるやつか」
固有超能力の一つだ。
効果は敵が増える。
ヘイトが自分に向くとかそういう戦略的な効果はない。
ただ増える。
経験値が増える?
ドロップアイテムが少し良くなるだけさ。
シナリオクリアした方がマシである。
やだ、死ぬ確率が上がるだけ!
このタイミングで入れる保険ないですか!!!
「あのさ……たぶんジェスターはそんな強くな……」
「ふ、ふはははははははは!!! 婿殿!」
「ひゃい!!!」
「皇位を目指すぞ」
「やめてー!!!」
地獄みたいになるからやめてー!!!
皇帝になる前に俺死ぬから!!!
ジェスターはマジでくそ弱いからやめてー!!!
「これは決定じゃ! 婿殿に断る道などない。嫌だったら妾を殺してみろ」
「それは断る。俺は命令とはいえ結婚した嫁を殺すような男じゃねえ」
「焦りすぎたようだな。なあに敵性生物との戦いで妾は嫌でも皇位に近づくであろう。期待してるぞ婿殿」
人生がバグり始めてきた。
「あ、そうそう。次の時間から降下訓練らしいぞ」
「はい?」
降下訓練。
本来なら学生生活で一度やるかやらないかの訓練だ。
降下艇という名のバイクで惑星に降下。
あとはキャンプして終了のイベントだ。
なぜそんな扱いなのか?
なぜなら生身での降下なんてとうに廃れた戦術だからだよ!
……そうか。対ゾークの戦略練り直しか。
その後、俺たちは輸送艇で宇宙区間へ。
教官が大声で言いやがった。
「降下艇に乗車。そのまま惑星19に降下せよ! 操作マニュアルは拡張現実で配布されている。目を通せ」
めちゃくちゃである。
降下艇。
宇宙空間から侵入するための二輪車。
要するにバイクである。
わかるな……見た目重視だ。
運営はわかっているのだ。
ユーザーが何を望むかを。
「レオ! お前はできるな!」
「なんすかその信頼感!?」
「おめえが幼年学校時代に降下艇無免許で運転して逮捕されたのは知ってんだよ!」
なにやってんだレオ!!!
バカなの!?
「レオ生徒行きます!」
「よし」
輸送艇が開く。
俺は降下艇にまたがると起動する。
【レオ・カミシロ。認証しました】
ドンッ!
勢いよく降下艇が発進した。
スラスターをふかし姿勢制御する。
【惑星の重力圏に入ります】
戦闘服が作り出すフィールドの外が加熱していく。
それとともに重力に捉えられたバイクと俺が加速していく。
装備は拳銃だけ。
降下場所近くの軍事キャンプと言う名の学校の校庭に武器があるようだ。
全て実弾兵器な。
完全にゾークとの戦いを見据えている。
戦闘服も最先端の物よりごつい。
物理耐性がついているものだろう。
あっと言う間に空が見えてきた。
ヘルメットが騒音を遮断してくれている。
今回耳は無事だ。
「レオ! 聞いてる!」
クレアからの通信が入った。
「どうした?」
「スラスターが停止したかも!」
嘘だろ!
レーダーの距離では近い。
俺は生唾を飲み込んだ。
ジェスターでも怖いもんは怖い!
だけど……。
「今行く!!!」
安全帯を手動で停止。
イジェクトレバーを引く。
俺はバイクから飛び立った。
戦闘服のスラスターが噴射し、ヘルメット内に警告音が鳴り響く。
【危険です】
うるせえ!!!
空を飛んで、いや落ちていく。
クレアはすぐ近くにいた。
俺はクレアのバイクまで飛んで行く。
姿勢制御があるとはいえ怖い。
クソ怖い!!!
だけどここは根性!
俺はクレアのバイクをつかむ。
「安全帯が解除できない!」
見るとクレアの体に安全帯が絡んでいた。
安全帯はエラーが出て手動で停止できない。
クソ! イジェクトレバーも動作しなかった。
ナイフを出し安全帯を切り離す。
そのままクレアを抱いてスラスター全開。
バイクから飛び立つ。
実は戦闘服での直接降下の経験はない。
だけどやるしかない。
「クレア! スラスター出力最大!」
「もうしてる!!!」
ガタガタと音がする。
だんだんとスピードが落ちてきた。
だけど地面が見えてくる。
スピードは安全圏から超過していた。
「うおおおおおおおおおおお!」
【危険です! 危険です! 危険です!】
「うるせえええええええええええッ!!!」
ふと水場が目に入った。
川か、海か。
俺はそちらに舵を切る。
「なにしてるの!?」
「水に落ちる!」
「それって大丈夫なの!?」
「わからん!!!」
「え、嘘……」
「行くぞ!」
「きゃあああああああああああッ!」
俺たちは水面に落ちていった。