第七十五話
ジェスター専用機に乗って外に出る。
砂漠じゃローラーダッシュは砂がつまって使えない。
スキー板みたいなアタッチメントを取り付ける。
こんなのでも戦車と同じ無限軌道だ。
砂漠や悪路もスイスイである。
作戦は簡単だ。
一番回避が上手な俺が外に出る。
地上にある採石場の管理室へ死ぬ気で走ってバリアーを起動する。
その後ゆっくり探索だ。
作戦もへったくれもねえ!!!
いつも通りだぞ!!!
「本当は婿殿に依存した作戦は嫌なんじゃがの……一番安全なのじゃ。頼む!」
嫁にそう言われちゃしかたがない。
サクッと行ってくるぜ。
俺は外に飛び出した。
さてこの無限軌道のスキー板。
【なんで普段から使わないの?】って思うかもしれない。
理由は実にシンプルだ。
コケるのだ。
バイクなんかより簡単にコケるのだ!
悪路や砂漠だとコケる確率がさらに跳ね上がる。
なぜか俺はコケないが……。なぜだ?
そんな疑問を挟みつつ俺は砂漠を走る。
走ってるとキュピーンと来たので回避。
「なんで曲がるの……うわああああ!」
砂から巨大オニイソメが現われた。
クレアの複座から悲鳴が上がる。
この機体だと一口でパクりだろう。
にしても危険をキュピーンで回避する俺、すでに人外に踏み入れた感がある。
よく見るとオニイソメは牙でゾークのカニちゃんをくわえていた。
ありゃま。カニちゃん、ここじゃただの餌か。
この生き物を帝都に放せばって……ねえわ。人口半分にしても無理だわ。
今度はエイが飛んでくる。
エイの大群が飛ぶ中を無限軌道スキーで走って行く。
エイは俺に興味なさそうだ。
囓ってみようともしなかった。
単純に硬いから嫌なんだろうな。
「きれい……」
クレアがつぶやいた。
きれいなんだよねえ。
帝都みたいなガチガチに人工物だらけに慣れてると特にそう思う。
惑星カミシロみたいに中途半端な開発とかは論外だ。
本当に手つかずの自然である。
ただむき出しの自然だから外来種の人間は死ぬけどね。
採石場はクソ広い。
普通はこうなんだよ!!!
実家がダメダメなだけで!!!
採石場の管理室が見えてきた。
それと同時に砂の波が押し寄せる。
「砂なのに波あるんだ……」
「砂に見えるけど水分を含んだ流体で……ってそうじゃない! どうするの!?」
「滑る」
俺は砂の波を滑っていく。
サーフィン気分でひゃっほーい!
スキー板だけど。
上まで到達したのでジャンプ。
オニイソメが飛び出してきたのを華麗に避ける。
へいへーい。
そのまま下に滑っていく。
「こ、この状況を楽しんでる……」
いや単にヤケなだけです。
だって、自然環境が過酷すぎてもはや笑うしかないじゃん。
滑ってると今度は砂からサソリが降ってくる。
そのサソリが俺たちの方へ走ってくる。
こりゃ狙われてるなと思った。
だから毒針で刺そうとしてくるのを寸前で避けて脇を通り抜ける。
「へいへーい! サソリちゃん見てるー!」
陰キャが動けないと誰が言った!!!
こちとら動ける陰キャだぞ!!!
「コラ、あおらない!」
「はーい」
管理室に着いた。
小屋ではない。
結構ガチガチの倉庫みたいな建物だ。
クレアと人型戦闘機から降りてバリアーの再起動に挑む。
「ヒューズがないのはホラゲ~♪」
「レオ……本気でやめて」
怒られた。
発電機の電源を入れる。
問題なし。
次にバリアーのシステムっと……。
なんだ?
ソフトウェアでロックされてて開かない。
鍵を探すも物理キー、ソフトウェアキーともになし。
これどうやって外すんだ?
どう考えても元に戻せないようにしてる。
こういうときは妖精さんだろう。
「妖精さん、どうにかできない?」
そう聞くとなぜか体育座りで指で床をツンツンする妖精さんが現われた。
うざい。
「レオくん、最近遊んでくれませんでした。妖精さんはたいへん悲しく思ってます」
このAI……いじけてやがるぞ!
あ、こいつ涙でネズミ描き始めやがった。
【雪舟、涙で鼠を描く】かよ。うぜえ!!!
妖精さんって小ネタがわかりにくいよな!
とツッコミ入れつつも日頃の自分の行動を思い返してみた。
そういや準備で忙しくて妖精さんとVRゲームすらやってない。
「暇暇暇暇暇暇暇暇暇ぁ~!!!」
そりゃ妖精さんは平時に使うAIじゃねえからな。
俺が出撃してるときにしか使わない。
暇なときは女子と遊んでるらしいが……そういやこいつの日常生活よく知らんな。
「もっとゲームしようよ~!!! レオくんのゲームをあおり散らかすのが日課だったのに~!!!」
「悪質すぎる!!!」
「スナイプして最下位にするのが楽しかたのに~」
「貴様だったのか!!! 貴様ぁ!!! よくも何度も何度もヘッドショットしてくれたなあ!!!」
お前だったのか!!!
なんかやけに死ぬと思ってたわ!!!
「だってレオくんの泣き顔見たかったんだもん!!!」
「てめえゴラァッ!!!」
「二人とも! 遊ばない!!!」
「はーい」
クレアに怒られて妖精さんが作業開始。
「なんかブロックされてたから解除しましたよ~」
バリアが展開する。
砂の中の生物が我先にと逃げ出していく。
対生物用か……。
たしかにそうなるわな。
「ふー……これで一安心」
ため息をついて一休み。
と思ってたのに管理室の中のスピーカーから声がした。
「馬鹿野郎!!! バリアの電源入れるんじゃねえ!!!」
おっさんの声だ。
誰だ? 中の人だろうか。
どうやら施設の通信は有線で行われてるようだ。
そういや無線使えないんだよな。
こちらも据え付けのマイクをオンにする。
「こちら皇女ヴェロニカ艦隊。救出に来ました」
「だー! 軍人か! カニどもが来ちまうだろ!!! バリアーの電源落とせ!!!」
「え?」
何言ってんだ。
バリアー入れないと後続部隊来れねえだろ。
だけど事態は一変する。
「レオ! 見て!!!」
クレアが叫んだ。
ドローンで外を見るとカニの群れがこっちにやって来ていた。




