第七十三話
ドッキングステーションでいつメンとお出迎え。
現われたのはワイルド親父こと大野男爵であった。
で、嫁にと娘を差し出された。
「えっと……京子です。よろしくお願いします。旦那様?」
嫁ちゃん……フォローして。
「正妻のヴェロニカじゃ! よろしくな!」
ズコーッ!!!
「違えよ! そこは断るとこじゃねえの!?」
「妾は最初で最後の女であればどうでもいい。貴族の婚姻外交は基本中の基本。来る者拒まずじゃ」
「愛は!? そこに愛は!?」
「愛があるから婿殿の出世道を最適化してるのじゃ。喜べ」
ひーん!
どんどん悪名だけが一人歩きしていく!!!
だ、誰が銀河最凶のNTR兵器じゃい!!!
「ガハハハハハ! アンタらおもしれえな!」
そう言って笑う大野男爵は俺たちの側であった。
士官学校なんかに行くのはたとえ名家あっても長子ではない。
この世界、相続は家督相続制で家督相続者の一人占めなんだよね。
その代わり家督を相続した子どもは兄弟姉妹の面倒を見る必要がある。
野郎なら兄姉の家来か帝都で就職。
女性なら嫁に出される。
なので士官学校なんか行かされるのは末っ子の運命である。
末っ子でも勉学の方向に優秀なら上位大学ねらいの進学校だろう。
つまり士官学校にいる連中はお貴族様でも庶民とあまり変わらないのである。
大野男爵の気安さは【俺たち側】の人間であることを印象づけた。
たぶん士官学校出身者じゃないかな。
「おー、気づいたみたいだな。俺は士官学校出身だ。大学校までは行ってねえけどな」
「えっと……なぜ?」
士官学校は給料もらえるからよほどじゃないと辞めない。
他に行くところねえし。
「兄貴たちが風土病で死んじまってよ。クロレラ処理してたんだが体が弱かったんだろうな。クローンもできなかった」
原因がわかってない病気で死んだ場合はクローンを作れない。
感染した状態で復元する可能性があるからだ。
ゾンビ化する寄生虫とかな。
過去にそれで全滅した惑星がいくつもあるからだ。
「それはお気の毒に」
「はっはっは! 気にすんなって。もう十年以上前の話だ」
大野が笑う。
つまりだ。大野男爵はクロレラ(正確には違う微生物)処理をされた改造人間というわけだ。
人間が生きて行く環境にない惑星ではよくある処置だ。
太陽光だけでタンパク質を合成できたり、逆に紫外線から身を守ったり。
配合で様々な効果が期待できる。
だが偏見は根強く、あまり良い行いと思われてない。
この偏見、大元はジェスターだと思う。
大野は率いてきた幹部を紹介してくれた。
領民代表に労働者代表にと。
「シャーアンバー男爵領の代表、ジーンです」
女性だった。
シャーアンバー男爵領の代表?
男爵本人じゃなくて?
「シャーアンバーは討ち死にした」
「大野さん解説アリガト」
今度は顔に傷のある男性。
たぶん軍人。
「カロン男爵領代表、セレストです」
こっちも男爵は殉職か。
帝都襲撃から考えると、いきなり襲撃されて領主一家全滅だろうな。
「大野さん、どうすんのよこれ?」
「なるようにしかならんだろ」
「大野さんの軍は今どんな状態なの?」
「おう、漁師と配送業中心で戦艦の操縦はかろうじてできるって感じだな。地上戦は苦手だがほとんどが人型重機の免許持ちだ。鉄骨持たせりゃカニとは戦える。人型戦闘機乗りはいないって感じだな」
「……ピゲット少佐。シミュレーターでの訓練お願いッス」
「了解した」
今、一般軍人とエッジにやらせている人型戦闘機のシミュレーションである。
少し増えたくらいなら大丈夫だろう。
「で、どこに向かうよ? 言っとくが俺はトマス殿下のとこ追い出されたからな。ふざけんなクソ貴族ども!!!」
「あんたも貴族じゃ!!!」
思わずツッコんでしまった。
この態度じゃ文官が支配するトマス軍を追い出されるのもしかたないかも?
「レオ、あんたならわかるだろ?」
「わかるけどさー!!!」
俺も出自は侯爵家だけど感覚的には平民だもんな。
おっと、これからの話だった。
「この辺の星域から惑星を解放してく。優先順位は距離。近いとこから解放ね。戦略的な必要性が出たらそっちって感じで」
「思ったより計画性がねえな」
「指令を出してるゾークがどこにいるかわからないからね。ゾークの方も人間と知略を競う気はないみたいだし」
それしかできないんだけどね。
とはいえ、士官学校の連中のほとんどは帝都民。
残りも今回トマスが目指してる宙域だ。
残りはケビンみたいなゾークがあまりいない宙域出身者。
安心してる連中も多い。
惑星サンクチュアリに着く前に全滅とかは……さすがにないと思う。
というわけで嫁問題はうやむやにして大野男爵と別れた。
ゾークの攻撃を受けてる惑星を目指す。
俺はレンと偵察ドローンの映像を確認する。
一番近いのが惑星シャーアンバー。
故シャーアンバー男爵の領地だ。
士官学校の連中にはこの惑星出身者はいない。
本来なら領民全滅として焼き払って終わりにするところだが救難信号があった。
ドローンで偵察する。
惑星シャーアンバーは砂の惑星だった。
夏は日中50℃近くの気温で、夜になると5℃近くまで下がる。
冬になると20℃からマイナス5℃を行ったり来たり。
戦闘服の体温調整機能がなければ耐えられないと思う。
さらに動物は危険で。
猛毒サソリに有毒植物は当たり前。
砂漠に生息するビルほどの巨大ゴカイがすべてを飲み込み、同じ大きさの巨大なエイが砂を泳ぐ。
砂を泳ぐ島クラスの大きさの鯨もいるらしい。
……一定より大きな魚って怖くない?
そして死亡率高め。
さすが改造手術が前提の惑星。
なかなかエグい。
エッジの惑星より数段ひどいぞ。
地下鉄あたりにこもって戦ってるのかと思ったら、地下鉄なんてありゃしねえ。
坑道かな?
「旦那様。採石場があるようです」
レン……妙な背徳感あるね【旦那様】呼び。
クセになるわ。
採石場はかなり大きな施設だった。
「救助要請信号確認。採石場内部のようです」
「了解」
さーて、自然環境が全力で殺しに来る惑星。
どうやって攻略しようかな。




