第七十一話
トマスが優先してくれたのか物資集めはあっと言う間に終わり出港許可も出た。
俺たちが戦場出てる間にウォルターが【俺今日から皇帝ね】ってやりそうな気がする。
嫁に聞いたら
「文官が許しても軍と貴族が許さん。放っておけ」
と言われた。
そりゃそうか。
宇宙港で貨物の積み込み作業をする。
フォークリフトに玉掛けができる俺とエッジとココは大活躍である。
他の連中は空港の警備にかり出されている。
ホテルでさんざんやったのでお手の物……とまでは言えないけどアルバイトよりは動けている。
今回、嫁の船は最新式の超大型戦艦に変更になった。
スタッフも近衛隊だけじゃ足りないため、宇宙海兵隊から志願兵を集めた。
面構えがヤクザなので信頼できると思う。
さらに帝国から命じられて士官学校の大学部の学生も働くことになった。
経験値つませてくれと。
役に立たないわけがない。
戦闘機や戦車乗りが増えて困ることはない。
……俺たち輸送機までの免許しか持ってないもん。
なお、俺たち学生の人型戦闘機のシミュレータースコアを見て皆どん引きしてた。
「え? 学内平均スコア? エースパイロットクラスやん!」
「え? 対空砲を盾で受けながら大気圏突入? 普通死ぬじゃん……」
「え? なんで実弾兵器扱うのそんなに上手なの? できなきゃ死ぬ? え?」
士官学校大学部の学生を小突く下士官になりそうで怖い。
助かったのは農学系の院生がいたことだろう。
これでレベルの高い水耕栽培施設の管理ができる。
食料生産工場も稼働できるだろう。
(死人が出るので俺たちは触らせてもらえない。大学校レベルの施設だ)
食事に困ることはないだろう。
準備を終えて予定の出発時間を待つ。
「こうして見ると非戦闘員が重要なのじゃな」
「戦闘してる時間よりも生活に割く時間の方が多いからね」
艦長である嫁は感心してた。
出発時刻は夜になった。
現在宇宙港は復興物資をかき集めている。
さらに人の出入りも激しい。
もう住めないと逃げるもの、逆にこちらの方が安全と帝都に来るもの。
それは個人の自由と言える。
だけどここで逃げた者の信用が回復することはないだろう。
という状態なので警備の手が足りない。
積み込みが終わったら俺とエッジ、それにココも警備にまわる。
実際、反体制派なんかも混じっててカオスな状況だ。
皇室反対はいいのだが空気読め。
今はそれどころじゃねえだろ。
エッジが反体制派になって革命起こすルートも存在するけどさあ……。
軍人目線だと迷惑なだけである。
そういうのはゾークに勝ってから存分にやれ!
俺が誘導棒で交通誘導してると爺さんが絡んでくる。
「いいか! この官憲の手先が!!!」
殴りてえ……。
俺が胸倉をつかまれてるのを見た近衛隊が焦りまくる。
「や、やめろ! 婿殿殺すな!!!」
俺を何だと思ってやがんだよ。
爺さんは近衛隊に外へつまみ出される。
もう限界であった。
……うん、こういうときはプロに頼もう。
通話っと。
「どうしたんだいレオくん?」
おっさんの声がした。
「ランシッド伯爵。さっきからテロリスト逮捕しまくりなんですけど! 公安から人寄こしてくれませんか?」
「え? 今どこにいるの?」
「空港ッス。さっきから武器は持ち込むわ。クソ混んでるところで反体制デモやろうとするわ。通行の邪魔しまくってビラ配りするわで作業の邪魔なんすよ」
「ああ、クソ! 聞いてない! わかった! 今から人寄こすから! 殿下とピゲット少佐に話し通しておいて!」
「へーい」
今度は嫁ちゃんに通話。
「なんじゃい婿殿」
「公安に人寄こすように頼んだから。もう現場は限界だよ!」
「わかった。ピゲットには妾から言っておく」
護送車数台とともに公安がやってきた。
警察はすでに交通誘導して暴れたのは数人逮捕したけどそれが限界らしい。
公務執行妨害は乱発できないんだって。
なので公安の政治犯の専門家たちがバンバン逮捕していく。
そこから鎮圧までは時間がかからなかった。
なぜ出航するだけでここまで苦労せにゃならんのだ!!!
夜には俺たちは疲れ果てていた。
ピゲット少佐も疲れた顔になっていた。
今回役に立たなかった大学校の学生に出港後の夜勤はまかせようと思う。
船に乗り込んで出港。
幸いなことに食料プラントとかは準備できていた。
俺は「なんかよくわからない仕事をしてる三番目」くらいの顔をしてブリッジにいた。
「出港!!!」
嫁の合図で軍艦が飛び立つ。
あーよかった。
ようやく軍の仕事ができたよ!!!
目指すは首都星から少し行ったところにある大型コロニーだ。
そこで大野男爵と合流する予定だ。
大野男爵……怖そうなイメージだ。
ヤクザ顔なら信頼できる。
というのは冗談で、戦闘経験者はすぐにわかる。
……ま、大野男爵のことは会ったとき考えればいいや。
「嫁ちゃん、俺寝ちゃうけどいい?」
「ああ。婿殿は昼間さんざん働いたからな。あとはやっておく。さっさと寝るのじゃ」
俺は部屋に行く。
部屋は夫婦の部屋ではない。
とはいえ書類上士官になってしまったので個室が与えられた。
今回は艦長じゃないけどね。
恐ろしいのは最終的に中尉どころか大尉になってしまった。
士官が死にすぎたせいで調整が入ったみたいだ。
成り上がるのはいいのだが、戦闘力以外の実力が伴ってない!!! 怖いわ!!!
さて今回の部屋割りだが、ケビンでもめた。
ケビンは軍をクビにならなかった。
減給処分で終了。
で、ケビンは野郎の六人部屋を希望したが通るはずがない。
女子の二人部屋に決まったのだが、今度は誰にするかでもめた。
【さすがに元男と一緒はやだな】派。この人たちはまとも。
【コスプレさせて遊んでいいならいいよ】派。少し狂気混じりになってきた。
【むしろウェルカム。結果の責任は取らないよ。デュフフ】派。はいアウト。
結局、【別に気にしねえよ】派のメリッサと同室になった。
むしろ俺が六人部屋に行って個室をケビンに渡せばよかったと思うのよ。
なんだけど、俺の暗殺防止のため却下だって。
うーん難しい。
どうでもいいことに悩みながら眠りにつく。
窓の外では帝都近くの惑星が見えていた。




