第六十九話
ケビンの周りに男が群がっている。
やはり野郎は男子中学生からアップデートすることは一生無理なのだろう。
どいつもこいつも胸とケツに目が行ってる。
ス●夫美形カスタムがケビンの手を取る。
「麗しい人。お名前をお聞かせください」
なお勲章をジャラジャラつけてるが、【幼年学校修了勲章】【軍事事務研修修了勲章】【義務警官修了勲章】などである。
俺たちから見れば【幼年学校で終了して軍から逃げたヤツだな】とわかる。
士官学校出たら義務警官になれないもん。
また成績不振で幼年学校から高等部である士官学校に進学できなかった場合でも軍に進めば【下士官訓練終了勲章】がもらえる。
アホの子だけど身内扱いのため当たりは柔らかい。(軍の幼年学校も士官学校も給料もらう立場のため経済的な問題でやめるものは存在しない)
つまり軍に入隊せず逃げたのは確定である。
要するに一番軽蔑されるヤツ。
経歴の汚点にしかならないというトラップである。
当然ケビンはそれをわかっている。
ものすごく軽蔑した顔をしてる。
「どうしたんだい子ネコちゃん」
ケビンはイラッとした顔してる。
放置しようかと思ったが助け船を出してやろう。
「ようケイト」
「あ、レオ!」
「レ……レオ! レオ・カミシロか!!!」
「うぃーっす」
なるべくNTRものに出てくるヤンキー感を出す。
「どんな女でも食うと言われるあの……」
別の男も驚く。
「見かけた女はハーレムに入れるという……」
別の野郎も。
「銀河最凶のNTR男!!!」
「ねえ、ちょっと待って。俺の噂どうなってるの?」
「くッ! 逃げろ! 相手はレオ・カミシロだ!!!」
「撤退しろ! 相手が悪すぎる!!!」
「女を! 女を隠せ!!!」
「だから俺の評判!!!」
野郎どもは散ってしまった。
後に残されたのは虚しさだけだった。
俺は心の復讐手帳に今の連中の顔をペタッと貼り付ける。
許さんぞ!!!
ケビンがほうっとため息をついた。
「正直助かったよレオ……まさか男に言い寄られるなんて……」
今までなかったもんな。
士官学校の男子はケビンに無策で突撃するレベルのバカはいない。
ケビンは元野郎だ。
だからケビンにアタックするとしても嫌がられないような作戦を考えてくるだろう。
だけど女性としていきなり貴族の巣に放り込まれてしまった。
今までの常識は通用しないだろう。
ケビンを救い出すと嫁が来た。
「おう待たせたな。うん? どうしたケビン」
「ナンパされてた」
ブチッと音が聞こえたような気がした。
「おっぱいか……?」
「え?」
「おっぱいなのか……?」
「え? どうしたの殿下?」
「なぜに妾よりお前の方がモテるのじゃー!!!」
嫁がおっぱいを鷲づかみにした。
「ちょ、ちょっと殿下! やめて……」
「わ、妾は婿殿にしかチヤホヤされたことないぞ!!! 胸か!? 胸が悪いのか!?」
「だから鷲づかみにしてないで!」
どうやら嫁のコンプレックスという地雷を踏んだようだ。
しかたない。
俺がフォローしよう。
「嫁ちゃんには俺がいるだろ……」
「婿殿……」
「……それに2割はケビンのケツを見てたよ」
脇腹に肘を入れられた。
結構痛い。
「あとで憶えておくのじゃ!!!」
イチャイチャしたところで司会者が慌てた様子でマイクを持った。
「ウォ、ウォルター殿下のお成りにございます!!!」
その言葉を聞いて会場は動揺した。
【嘘だろ……】って感じだ。
え? なんで?
「嫁ちゃん、なんでウォルター殿下が来るとみんな動揺するの?」
「この夜会はの、中立派の夜会なのじゃ」
中立派なんて言えば耳触りがいいけど実態は態度を決めかねてる連中だ。
中央に不満はあれど、生活は成り立ってるので冒険はしない。
政治にそれほど興味がない人たちだ。
ゆえに派閥と言うほどの連帯感はなく、仲間に取り込むのも難しい。
つまりやらかしてもダメージがないのだ。
だから嫁は俺たち夜会初心者の練習用にちょうどいいと思ったのだろう。
嫁ちゃん……わりと俺たちのこと気にしてくれてるよね。
で、そこにウォルターが来た。
長兄トマスは現在出征の準備で忙しい。
俺たちはさっさと帝都星から出たいのに出航許可が降りない。
なので戦争の準備だけしてる。
完全に暇なのはウォルターだけである。
ウォルターがやって来た。
ワイルド系の美形。
さすがハーレム産だけある。
嫁も美少女だもんな……。
「そもそも呼んでないはずじゃ」
「呼ばれてないのに来ちゃったの!?」
「うむ……」
なんの思惑があるのだろうか?
挨拶もせずにウォルター殿下がこちらにやって来る。
「やあ妹よ」
「これは兄上。お久しゅうございます」
「あはははは! 相変わらずだな! それよりもそこの男性を紹介してくれるかな?」
「ご紹介いたします。こちらは我が夫のレオ・カミシロにございます」
「まだ夫ではないだろ? うん?」
なに言ってんだこいつ。
ガッツリ籍入ってるぞ。
「そんな男捨てて俺の嫁になれ。父上の路線を継承し、帝国の威信を取り戻すぞ!」
ブチッと音がしたような気がした。
今度こそリアルガチのやつ。
一番踏んじゃいけないトラウマを土足で踏み荒らしやがった!!!
近親相姦の末生まれたという心の傷をえぐったのだ。
「お戯れを」
絶対零度の声。
「いいや戯れてない。聞いたぞ白い結婚だってな! なにがレオ・カミシロだ! ヴェロニカ、お前が拾ってきただけの兵士だろ!?」
アホだ……。
こいつ救いようのないアホだ……。
嫁ちゃんの顔も絶対零度だった。
その顔を見て、俺よりもメリッサやレンが怯えてた。
「兄上……我が夫は最高の男にございます」
嫁ちゃんが俺の腕をつかんだ。
「お義兄様。殿下に拾われたレオ・カミシロにございます」
「ほう、こちらの野良犬は自分の地位をわかっているではないか!」
完全に貴族たちは絶句していた。
この場で俺が殺すんじゃないかとすら思っているようだ。
むしろ俺は嗤った。
「ですがね、野良犬にも忠誠心とか愛情ってやつがありましてね。俺はあんたみたいのから嫁ちゃんを守るためにいるんですよ!」
「よう言った! 婿殿!!! それでこそ妾の夫じゃ!!! 興ざめじゃ! 帰るぞ!!!」
俺たちは踵を返す。
アホか!
完全に嫁を敵に回したぞ。
ついでに俺もだ。
「後悔するなよ! 俺が次の皇帝だ!!!」
ウォルターがそういった瞬間、嫁は振り返った。
「次の皇帝は妾じゃ」
それは宣戦布告だった。
嫁の明確な意思表明だった。




