第六十八話
リムジンから夜景を眺める。
行き先はコンラッド公爵の主催の夜会だそうだ。
なんでもコンラッド公爵の家はゾークの襲撃で破壊されたらしい。
なので帝都の海側にある高級リゾートホテルのイベントホールで行われる。
貴族社交ダンスクラブのパーティーが延期になったところをごり押しして入れたんだって。
昼間は貴族のおっさんたちで朝早くからゴルフをやって、終わったらパワーランチとかいうイラッとする名前の食事会だそうである。
なんかディティールが生々しいとかはいい。
俺たちには関係ない。
コンラッド公爵家は外務省のトップから五番目くらいらしい。
トップから五番目の権力っていうのは【外務省内では好き勝手できるけど外への影響は少ない】くらいの偉さとのことである。
部下や出入り業者に【閣下】と呼ばせて喜んでる小者とのことである。
で、それはいい。
問題は……だ。
「なんでドレス着てんの?」
俺が聞くとケビンが虚無の表情になった。
「……入らなかったんだよ礼服が」
「ほう、太ったか?」
「胸だよ胸! 胸がぜんぜん入らなかったんだ!!!」
ケビンは「ばいーん」「きゅ」「どごーん」を強調したドレスだった。
それでいて下品にならないのはデザインというものが如何に奥深いものなのか、その答えを見てるようだった。
なお顔を赤らめてるのやめてほしい。
ケビンくんさあ、キミ魅力特化型だろ。
ゾークはこの路線でがんばれば戦争せずに人類滅ぼせたんじゃないかなと思う。
敵の人間への理解が浅すぎる。
ケビンはもともと男子としては長い髪の毛をウィッグで延長してた。
元野郎だとは誰も思わないだろう。
これから起こるケビンの取り合いという地獄が楽しみになってきた。
中に入る。
武器を持ってる近衛隊は外で待機。
俺は嫁をエスコートする。
クレアたちは俺たちの後ろに付き添う。
会場には汚いおっさんどもとその子弟子女がいた。
ソロ参加もポツポツ。
「ヴェロニカ殿下のお成りです。拍手でお出迎えください」
拍手で出迎えられる。
嫁は堂々と前に出て司会者からマイクをもらう。
「ここ数日大きな事件で疲弊していたところじゃ。皆の心遣い大変有り難く思う。皆も楽しんでくれ」
それだけ言って司会者にマイクを返す。
さて料理料理っと。
料理は立食形式。
なんだかエビが多い。
なぜだ?
「婿殿が宮殿で【ロブスター食べたかった】って言ったのを誰か聞いていたのだろうな。エビが好物だと思われたようじゃ」
「……なにそれ怖い!」
「俺は肉食うぜ!」
メリッサは肉に突撃。
するが異変を感じて帰ってくる。
「こ、故郷の料理が並んでる……俺の事調べたのか! 怖ッ! 怖ッ!!!」
メリッサの故郷はいわゆる日本の文化圏だ。
刺身などが並んでる。
「メリッサ、本マグロの大トロらしいぞ。食べれば? あんまり人気ないから食べ放題だぞ」
「量食うもんじゃねえだろ……」
そりゃそうか。
「レオくん、レオくん、母の故郷の料理まであります……」
レンが驚いていた。
おいしい大トカゲの肉とのことだ。
鶏肉みたいだけど濃厚な味らしい。
……俺らのこと調べ上げてきてやがる。
「クレアの故郷の料理は?」
「うちは園芸農家が多い惑星なんだけど……見て、あのイチジク。園芸品種でスーパーじゃ扱ってない商品だわ。キャラメルいちご味でおいしいのよ」
「どうやって手に入れたんよ?」
「たぶん公爵かそのお仲間が栽培してたんでしょ。ほら見てあのバナナ。あれも園芸品種」
怖ッ!
ここまで調べてるとか怖ッ!!!
「ケビンは」
「実家はコロニーだから帝都と同じだよ。基本冷凍食品」
うちの農協の品はないな。
インゲンとピーマンはないな!
人間の恐ろしさが少し理解できた。
料理の味がわからなくなった。
でもロブスターを食う。
メリッサとレンに郷土料理を食べさせてもらう。
クレアが解説を交えながら果物を持ってくる。
楽しい。
嫁も楽しそうだ。
軽く食事を取ると貴族がやって来る。
まずは嫁。
嫁は偉そうな爺さんに誘われジジイグループで話ししてた。
俺も行こうかと思ったらいいって。
すると今度は俺と同じく勲章ジャラジャラ組が話しかけてくる。
「レオ殿、今日はよくおいでくださいました。私は公安のランシッド伯爵と申します。お噂はかねがね……」
公安!!!
俺なんか疑われてる!?
「ははは、そう構えないでください。少しお話を聞きたいだけです」
急に胃が痛くなってきた。
「メリッサ! 君も来い!」
「俺もぉ? あ、隊長。レニーおじさんは大丈夫だよ」
「知り合い?」
「うん、親父の上司」
「そういう関係!?」
「はっはっは。いつもメリッサがお世話になってるようだね」
「いえ……何度も共に死線を乗りこえましたのでお互い様かなと。ええっと、それで何かご用ですか?」
「はっはっは。いやね、軍部の弁護士のレイモンドが面白い子がいるって聞いたんでね」
レイモンドさんとも繋がっていたのか!!!
「はあ」
「うん、本題を話そうか。その君の愛人の一人に人型ゾークがいるね?」
「それは違う!」
愛人なんかじゃねえ!!!
絶対違うからな!!!
「うんうん、わかるよ。恋人がゾークだなんてショックだよね。私もレオくんの恋人を調べるマネはしたくないんだけど……これも任務でねえ……」
「だから違うって!!!」
恋人じゃねえっての!!!
「いいからいいから。傾向が知りたいだけで悪いようにはしないから」
ぜんぜん伝わらない。
説明できる自信がないぞ。
とにかく、断じて恋人ではない!
「おじさん、レオが焦りすぎて語彙力なくなってるから。それに本人に聞いてみたら?」
「ああ、そうか。えっとどこに?」
「あそこで野郎に囲まれてるおっぱい」
「こら! 女の子がそんな乱暴なこと……なにあのおっぱい?」
「すげーよな。見ろよ、男どもが入れ食いだぜ」
ケビンは男たちに囲まれていた。
男どもの視線はおっぱい8割、ケツ2割と言ったところだろう。
「あの子、少し前まで男だったんだよね?」
「うん、男時代知ってるよ」
「なんであんなに色気あんの!?」
「たまたまかな? ゾークがあんまり人間理解しないでテキトーに作った一族みたいよ」
「傾国レベルじゃないか」
「ねー。うちのバカ男子どもも少しずつおかしくなってきてるんだよね」
「うっわ……おじさんちょっと報告してくるわ。メリッサ! 困ってるみたいだから助けてあげて」
「へーい」
今回ばかりはどん引きである。




