第六十七話
報道が押し寄せる。
だけど俺は部屋で……怒られていた。
リンゴをむきながらクレアのお小言は続く。
「レオ、杭で足を固定したあとにジャンプサポート使っちゃダメってさんざん言われたよね?」
「いや、あれはわざと……」
「もっと悪い!!!」
足はボキボキに折れてた。
機体の落下ダメージは脚部や股関節で受け止めるようになっている。
つまり折れたら衝撃吸収するものはない。
だから固定アンカーとジャンプは同時に使ってはならない。
授業でめっちゃ言われた。
でもさ……やってしまったものはしょうがないよね。
そこで折れたのに気づかず外へ。
最後に銃撃をよけたのがトドメだったようだ。
でもナノマシンで半日後には動ける。
ナノマシン万歳!!!
嫁はゲラゲラ笑っていた。
「婿殿! トップニュースは婿殿だらけだぞ!」
本当にニュースは俺が戦車と戦ったり、銃をよけたりしてる場面ばかりだ。
直後ならわかるけど、半日後もこんな感じである。
もっと大事なニュースあるだろが!
麻呂の暗殺とか。
継承者争いとか。
だけど俺のニュースばかりだ。
やだわー。
「はいリンゴ」
クレアがリンゴをくれた。
口に入れるとさわやかな甘みが口中に広がる。
あとしみる痛みも。
口の中も切れた。
まだ直ってねえのな。
でもおいしい。
パイナップルじゃないのはクレアの優しさだと思う。
「はい、みんなも」
「はーい」
メリッサにレンにケビンもリンゴを食べる。
俺が買って置いといたお菓子も食べてる。
完全に遊びに来てる。
故事に【ギャルのたまり場になったら18禁展開】とある。
……おかしい。まだバキバキの童貞なのだが?
まあいい。焦る必要はない。
俺は既婚者だからな!
FA●ZAの道も一歩から。
カモンエロ!!!
嫁は横目でじろりと俺を見る。
「なんじゃ、そのエロい顔は……」
「17歳の男の子だからな。女の子を見ればこういう顔になるのよ」
するとレンが首をかしげる。
「そういや、愛人になろうとする人減りましたね」
「なにそれ聞いてない」
「え? えーっと殿下」
「うむ。あのな婿殿。ここ数日、婿殿のハーレム入り希望の女が殺到してたのじゃ」
「待って。募集かけてたの?」
「募集などかけるわけなかろう。貴族から打診があったのじゃ」
「えーっと……なんで?」
「今のうちにツバつけて手の平で転がすつもりじゃ。婿殿は田舎者だとなめられておるのじゃろうな」
「感じ悪ッ!!!」
俺がツッコミを入れると今度はメリッサが言った。
「俺たち見て自分なら勝てると思ったんじゃない?」
カチンという音が聞こえたような気がする。
気のせいだ! 気のせいだ! 気のせいだああああああああああッ!
「あんの連中……妾がチビで貧乳の幼女だと言いたいのか?」
「殿下が幼女なら俺はブスだし」
「私は陰キャ眼鏡か……」
「私は獣ですね……」
嫁が悪い顔をした。
「うん、よし、夜会行くぞ。パスしようと思ったが、喧嘩売られちゃしかたないの」
嫁は拡張現実から女官を呼び出した。
「殿下お呼びでしょうか?」
「おう、すまんな。夜会に出る。エステとスタイリストとメイクを呼んでくれ」
「ご予約は殿下だけで?」
「いや全員じゃ」
「いてら~」
パーティーで息抜きしてね。
俺は寝てるから。
人が多いとこなんてパスパス。
「何を言ってる婿殿。婿殿もじゃ」
ガッデム。
「あのなー、婿殿はちょっと目つきが悪いだけで正統派の美少年じゃぞ! さっさと治して行くのじゃ!!!」
「へーい」
というわけで治療が終わるとエステに行かされる。
ホテル内にあるのな!
女の子はわからないけど、野郎の場合は代謝を促進して一皮むく。
お薬を飲んで、光子シャワーで殺菌。
終わるとサロンで髪の毛切ってカラーリング。
オイルや火薬やビームのせいで、くすんだ色になってる髪を染め直す。
少し暗めのブラウン。
色が抜けると明るくなるらしい。
トリートメントして終了。
「セットしますね」
はっはっは。
こちらはセットなどわからぬのだよ。
鏡を見る。なんとなく美少年風に思える。
……気のせいだろう。
第三者から見れば陰キャのチー牛に違いない。
なぜか爪まで整えられて儀礼用の軍服に着替える。
「……俺のじゃなくね?」
生地が圧倒的に違う。
これもの凄くいい生地だぞ。
着替えると女官さんがなにか持ってくる。
「勲章をおつけします」
ん?
幼年学校の修了章と人型重機の講習記章しかないと思うけど。
あんなのつけて行ったら恥さらすぞ。
そう思ったら戦闘記章とか英雄記章とか見たことないヤツを盛り盛りでつけられる。
「えーっと……」
「殿下が帝国から授与されたのでつけるようにと」
式がいつできるかわからないから先にくれたってことかな?
よくわからんがつけておく。
勲章をつけて待合室に案内される。
そのまま待機。
いつもと違うのでゲームをする余裕もなし。
かなり待つとみんながやって来た。
「待ったか?」
嫁ちゃんが気合を入れてきた。
全力かつフル装備である。
「ふふふ、感想を言うことを許そう」
「いつもよりかわいいっすね」
「いつもかわいいのじゃ!」
「いやいや、いつもよりちゃんと似合うヤツじゃないですか」
いつもの悪の女幹部みたいな無理のあるエロドレスではない。
清楚系。
そっちの方が似合うじゃん。
「……うん」
メリッサはモデルさんみたいだった。
やっぱり化粧映えする顔だ。
「お、隊長。俺どうよ。惚れ直したか?」
「うん、写真撮っていい?」
「うんいいけど。何に使うの?」
「男子のバカどもに一斉送信してあおってやる。逃がした魚は大きいぞーいって」
「お、いいね! いくらでも撮ってくれ!」
写真を撮って一斉送信。
「ぶち殺す」と何件も返事があった。
俺大勝利。
次はレン。
かわいい系だ。
ケモ耳でかわいい系。
勝ち確の極みである。
もともとレンは差別されてるだけで美少女なのだ。
公爵家が本気出して美形遺伝子入れまくっただけある。
で、クレアさん。
かわいい系で来ると思ったら、大人びたドレス。
「なによ!」
「クレアさん……眼鏡だけは外さないでね……」
「殿下、このバカ殺していい?」
「だめじゃ、妾が子ども産むまで我慢せよ」
「ほめてるのだが!!!」
「一つも伝わらない!!!」
と最後にグダったが夜会に行くことになった。




