第六百五十三話
さーて、それぞれが幼稚園児の群れを世話する保育士さんみたいになってきた。
イソノがどれだけ優秀だったか我々は思い知ったのである。
そりゃクロノス王国の外務大臣だけあるわ。
さてそんな俺であるが、出るからにはとカトリ先生と稽古してた。
メリッサとリコちも混じってる。
「行くぞ!」
カトリ先生が例の木刀で斬りかかってくる。
木刀は当てるだけ。よけながらいなす。
「逃げんな!」
「まともに打ち合ってられませんっての!」
体の中心を取られないように三角形を意識してステップワーク。
すり足だとか言われるけど例外はたくさんあるのだ。
「ぐ、運足まで上手になりやがって!」
毎日練習してるもんね!
斜めに回り込めた瞬間、胴に一撃を入れる。
カトリ先生は一歩引いて、ガンッと俺の一撃を剣で落とす。
ですよね~!
落とした一撃をそのまま予備動作にしてカトリ先生が突きを放つ。
ですよね~!
正確に喉を突いてきた。
だから体を横に傾けてギリギリのところでよける。
おっと、俺の後頭部まで貫く突きでやんの!
つまりカトリ先生が少し前に来るから、そのまま突撃。
カトリ先生の顔面に突き刺すつもりで下から肘を振り上げる。
死ねやコラ!
「喰らうかよ!」
カトリ先生が自分の内側から手刀を放つ。
あ、そういうことする!
木刀放り投げて頭をガードしながらウィービング。
手刀をくぐり抜けてボディーブロー!
「あ、てめ! 剣術って言っただろが!」
そう言いながらカトリ先生も木刀放り投げてサイドに回り、腕で俺の後頭部にギロチンを振り下ろす。
俺はギロチンをよけて地面に手をついてカトリ先生の胴に足を絡ませる。
カニばさみじゃい!
ガシ!
はい?
それはジャイアントスイングの体勢だった。
カトリ先生の人間やめた体幹が俺のカニばさみを阻んだのだ。
「死ね!」
ジャイアントスイング!
ぐるぐる回される。
「みぎゃあああああああああああああああッ!!!」
そしてぽいっとな!
ゴミみたいに投げられた。
俺はゴロゴロと受け身を取って立ち上がりバンザイ!
「効かないんもん……」
カトリ先生の飛び蹴りが俺めがけて飛んできてた!
もうね!
ヘタによけるとここからラッシュが来る。
前に出て受け止めて。
「あ、てめ! それ師匠にやる技か?」
「死ねえええええええええええええええ!」
後方にスープレックス!
頭から落とす。
当然殺すつもりだ。
カトリ先生に手加減などできるはずがない。
だけどさすがカトリ先生。
ぬるっと受け身を取りやがった。
猫かな?
そのまま俺は蹴られて距離を取る。
「先生! 自分は! 休憩したいであります!」
「俺もだ!」
はい休憩。
見学しに来てたシャーロットたちがザワザワしてる。
「なによ?」
「クロノス王はいつもこんな稽古してるのか?」
「いつもより優しいよね?」
メリッサとリコちが笑う。
「うん、ワイヤーで作ったウルミ振り回さないしね」
「真剣じゃないし。徒手も目つぶしも金的もなかったしね」
「……えーっと、近衛隊。カトリ先生に稽古をつけてもらえ」
よっしゃ!
犠牲者が増える!
俺は休めるぞ!
ニヤッと笑うと一礼して道場に入ってくるものがいた。
「遅れました」
エディである。
仕事してて遅れたようだ。
「お、いいところに来たな。うちの師範だ。エディ、近衛隊に実戦形式で稽古つけてあげなさい」
「はい!」
「あらやだ。アザできちゃったわ……」
ヨヨヨヨヨヨ……と泣いたふり。
「はい治療用ナノマシン」
リコちが錠剤くれた。
「ガッデム!」
嫁たちは厳しかった。
「じゃ、うちらも稽古するか」
「はーい」
メリッサがそう言うとリコちは剣と盾を取る。
「いいねえ。戦いづらい!」
「いくよ!」
異種格闘戦というより二大怪獣の激闘が行われる。
どちらも古流。
激しく打ち合う。
そんなことよりも俺の頭の中は昼飯なに作ろうか考えていた。
肉食いたい。
チンジャオロースでも作るか……。
ステーキでもいいんだけどバカ男子ども野菜食わねえからな……。
エディとローザリア帝国が稽古をしてるのが見えた。
いやー、安全な稽古っていいよね。
でもシャーロットはそういう現場の声を知らないのだろう。
俺たちの稽古のレベルを見てひたすら焦ってた。
うーんこれは近衛隊かわいそうだ。フォローしてやるか。
「シャーロット、ここまで激しくやる必要ないぞ。実際の戦場は中距離での撃ち合いなんだからな」
ごく当たり前の話である。
戦場の花形は戦艦。
やはりミサイルこそが正義なのだ。
「うちの王様は銃当たらないけどな」
なんでエディくん余計なこと言うかな!
「そうそう。レオくんミサイルもよけるし」
リコちまで。
「うちの旦那、人型戦闘機一機で戦艦撃沈できるしね」
メリッサも!
「近衛隊! クロノスにいるうちに研鑽するのだ!」
「いやだからぁ、当たり前の戦略を高精度にする方がコスパいいから!」
「戦闘型の道化に一矢報いる程度には腕を上げるのじゃ!」
「俺、戦闘型だっけ?」
するとエディが「アホだなこいつ」って顔をする。
「お前が戦闘型じゃなければ誰が戦闘型だよ」
「きゅ?」
おめめキラキラ。
「かわいい顔してごまかすな! つうかムカつくなその顔!」
そんなやりとりをしてると男子どもが次々やって来る。
「おはようございます!」
「さーって稽古稽古」
「レオー、今日の飯なに?」
「ちょ、いきなり飯の話かよ! ……チンジャオロース」
「よしがんばろう!」
「まだニーナさんの了解取ってねえし」
「大丈夫だろ。ニーナさんもこっち向かってたし……ほら」
「こんにちわー」
薙刀を持ったニーナさんがやって来る。
「ニーナ、レオがお昼チンジャオロースでいいかって?」
「いいよ~。野菜多めね」
野菜多め?
なにか様子がおかしい。
「なんかあったの?」
「太ったの……」
「あ、うん、ごめん」
「えっと椎茸は……」
男子どもが木刀投げてくる。
「危ねえだろが!」
「椎茸入れたら承知せんからな!」
ここでもメシの争いが。
そうタマネギと椎茸は入れる派と入れない派が争いを……。
って冷静に考えたら俺は両方入れない派だったわ。
「ピーマンだけは入れるからな!」
「竹の子増量で!」
「へいよ!」
こんな穏やかかつ仕事に忙殺される日々。
そしてスポーツ大会当日がやってきたのである。
あ、駅の広場でカレーフェスもやりたい。
あ、はい。承認っと。




