第六百三十八話
そのときパーシオン軍は混乱していた。
妖精さんが暇つぶしに潜入させたAI蜘蛛型ドローンで実況するね!
「ボケが! 総書記のカスが逃げたってどういうこっじゃ!」
たぶん文官というか官僚の偉い人が怒鳴った。
「ワシもわからんのじゃ、兄さん! あんカスゥッ! クロノス王にビビって逃げ腐った!」
えっと変な翻訳だな。
処理速度の低い蜘蛛型ドローン通しての音声のリアルタイム変換は難しいのかな?
フィルター「ラターニア語」。
「いわゆる国家主席がランナウェイであることのものでしょうか?」
「私いわゆる個人が考えることのものであるところでは国家主席はクロノス王の権威に臆してランナウェイからのファーラウェイ」
わからんわ!
わざと理解できないように翻訳してるだろ!
もー、銀河帝国語に変換!
「ふぉっふぉっふぉ、麻呂が……」
却下。
わかる言葉にしろ。
な、ぶち殺すぞ。
クロノス語。
さっきの続きから。
「兄貴ぃッ! ワシらどうすりゃいいんじゃあああああああああッ!」
「サブゥ、こうなったらクロノスに降伏するしかねえ」
どうしよう。
登場人物に適当な名前が振られてるせいで話が頭に入ってこない。
「で、でも兄貴ぃッ! クロノスに降伏したらゼン神族会になんて言えばいいか!?」
「もう知らんわ! あんな役立たず! うちの組は抜けさせてもらうわ!」
……おう、ベラベラ確信っぽいことしゃべりはじめたぞ。
「おう、クロノスと手打ちじゃ!」
いや和平とか言われても。
「だ、だけど兄ぃッ!」
「じゃがのー! もうクロノスは移動要塞の建設に乗り出した。あんな作られたら首都惑星ごと消滅じゃ!」
え?
「いいかサブぅ、超弩級ってのは主砲のことじゃ、わかるな。惑星ごと抹殺する兵器じゃ。その技術をクロノスは持ってるんじゃ! ラターニアのミサイル一斉射撃どころじゃねえ、この銀河の戦争を変えるほどの兵器じゃ。ゲームチェンジャーってやつじゃ」
そうなのぉ?
なんかハイパーデスブラスターって書いてあったけど。
「そ、そんなの撃たれたら……ワシら皆殺しじゃ……」
「だから降伏して舎弟になるんじゃ!」
「で、でも総書記がいないんですぜ!」
「だからいまのうちの全責任を総書記に押しつけるんじゃ! なにもかも総書記が悪い! わかったな!」
「あ、兄ぃ! わかりやした!」
……おうふ。
カワゴン、もうどうすればいいかわからないよ。
で、クレアと妖精さんにこの結果を送信してふて寝。
きなこちゃんと寝てると途中でたたき起こされる。
「兄貴起きろ!」
一番乱暴なのが来た。
タチアナである。
顔面をペシペシ叩かれる。
「へーい」
「きなこちゃん、兄貴借りるぞ」
「にゃーん♪」
きなこはタチアナに甘い。
妹だと思われてるようだ。
「つうわけで兄貴行くぞ」
「へーい」
サンダルに履き替えてぺたぺた歩いて食堂に向かう。
食堂ではいつものように幹部連中がいた。
「ようレオ、お前の言ったとおりパーシオンが降伏してきたぞ」
「総書記が全部悪いって言ってた?」
「あー、悪の総書記を追い出したから許してって」
「弱っ! 大国の意地とかないの!?」
すると嫁ちゃんがティーカップ片手に冷静に答えた。
「プライドを捨てて益を取る。そして国家元首すらトカゲの尻尾切りでしかない。なかなかできることではないぞ。歴史ある大国だけあるな。何枚も舌があるようじゃ。婿殿みなら……いや婿殿は見習わなくていいぞ。これ以上化け物になられても困るからの」
なにそれー!
「茶番で治めるのも才能ということじゃ!」
「でも嫁ちゃんの悪口言ったし……」
愛する嫁ちゃんへの『売女』発言はいまだに根に持ってる。
許すつもりはない。
「総書記の首で勘弁してやればよかろう。そもそも妾は怒っておらぬ」
「なんで?」
「はるか格下のものがなにを騒ごうが関係ない」
そりゃそうか。
なんだかなー。
さーてパーシオンくんは征服してからが面倒なタイプとみた。
パーシオンくんは総書記に大統領に首相もいる国である。
基本的に独裁国家で国民経済は配給制。
生産活動は計画経済で営業窓口がレプシトールだった。
当然、人権などという概念はなく、国家からの搾取構造をガン無視して物資を作りまくる。
企業国家で無頼系資本主義のレプシトールがそれを増長させまくったわけである。
で、この二国は大国にのし上がったが、レプシトールの不良債権問題とパーシオンの独裁のツケで俺が少し突いたら滅んだ。
……というわけである。
滅亡のカウントダウンは何十年も前から出てたんだけど、ゾンビみたいになんとかしてたわけ。
俺がきっかけではあるが、俺が悪いわけじゃない。
滅ぶべくして滅んだわけ。
結局、経済って資本主義オーソドックススタイルが最強なのね。
両国はストロングスタイルすぎたのよ……。
で、なにが面倒かって、そもそも統治機構が行政の仕事をなにもやってないレプシトールくんならまともに仕事するだけで国民が喜んでくれるのね。
でも『行政が手取り足取り、ゆりかごから墓場まで。ただし使い捨て』なパーシオンくんは資本主義に国民が耐えられないわけよ。
むろん搾取するだけ搾取して放置するパターンも考えられるけど、海賊になるだけだしな~。
国軍がまるごと海賊になるとか考えただけで恐怖だ。
だいたいさー、カタログスペック的にはクッソ大国なのよ。パーシオンくんってさ。
国土というか征服してる星の多さエグいもん。
なんて渋い顔してたら嫁ちゃんがほほ笑んだ。
なにその顔。
「婿殿気づいたか?」
「なになに?」
「婿殿は今日、銀河帝国より広い支配領域を確保したのじゃ」
そのときため込んだストレスが限界突破。
一気に血圧が上がり、ブシュッと鼻血が出た。
「だ、旦那さま! ほらチーン」
レンがふきふきしてくれて、チーン。
「あ、あたい……恐ろしくて手が震えてきたわ……」
「あはははは! 恐ろしかろう。それが皇帝の視点じゃ」
「待って、皇国はやめて。本当に王様やめられなくなるから! 嫁ちゃんの婿でいさせて!」
「あはははは! 悩め悩め!」
「い、嫌じゃ! 皇帝なんかになりとうない!」
俺のくっころ叫びが銀河にこだました。
こうして俺はろくに戦わず大国二つを飲み込み、銀河の覇王へとのし上がってしまったのである……。
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