第六百三十話
パーシオン領土の切り取りに成功した。
なので新しく引いたパーシオンとの境界を巡回させる。
リソース的に哨戒に大名行列させるわけにもいかない。少数で行う。
発見したら交戦せずに報告して逃げるように伝えておく。
そしたらすぐに戦闘部隊が来る。
それで逃げていくなら深追いしない。
領域侵犯ピンポンダッシュにいちいち反応してられないからだ。
こういうのの塩梅って難しいんだよね。
国内向けに領域侵犯ピンポンダッシュ勢を片っ端から沈めるってのも手段としてはアリだ。
沈めたらニュース速報で「~回目のパーシオンとの戦争に勝利しました!」って流すの。
それも一つの手段ではある。
だけどこれやると国民が「パーシオンは悪いやつなんだ。やっつけてやろう!」ってなるのが怖い。
そうなると全面戦争不可避になる。
俺の意思は関係ない。
わけがわかってない人まで含めて国民の意思で全面戦争になるのだ。
そういう空気感だとクロノスの方が行動制限されてしまう。
持ちカードが「パーシオンぶち殺す」しかなくなるのよ。
包丁片手に「仲良くしようぜ」って笑顔で接して、パーシオンのカードを制限していく方がいい。
それで「クロノスぶち殺す」しかなくなったら、パーシオンが一番不利なタイミングで横っ面を殴る。
馬乗りになってボコボコにしたら停戦と講和と領土返還を提案するのが一番楽だ。
あれよ。ヤンキーの喧嘩と同じ。
一番有利なタイミングでボコボコにして舎弟にすればいい。
あとはいつもと同じ。
商売でがんじがらめにして「ムカつくけど大事なお客様」枠になればいい。
レプシトールが保護国になったいま、それをできるだけの経済力がクロノスにはある。
これクロノスの方だって同じなのよ。
日々の糧をパーシオンとの貿易で得てたら恨みがあっても「あきらめるしかねえか……」ってなる。
あとは教育で「悲しい過去があっても仲良くしましょう(包丁片手に)」って教えればいい。
これ本当にだいじなこと。
……あ、そうか。この手段を選べる身分になったのか。
もうクロノスは単体でラターニアや太極国と肩を並べる大国なのか。
感動してると食堂に誰かが入ってきた。
メリッサである。
「うーっす隊長」
「メリッサどうしたん?」
「訓練終わって暇になったから遊びに来た。かまって!」
クロノスで『武妃』の称号を持つメリッサは館花流をクロノス兵に教えてる。
クロノスにも伝統武術的なものがあるんだけど、直近で戦闘経験がある流派となるとごく少数である。
クロノス軍の近接戦闘術くらいか。
なので近接戦闘だいしゅき勢のメリッサが館花流を教えてるわけである。
参加は任意だが、むしろ枠を設けた予約抽選制にしないといけないくらい人が集まってる。
メリッサの実家に人をよこしてもらうのも……ゾーク戦争で師範の多くが殉職したため限界があるのだ。
「そういやゾーク戦争のときカトリ先生ってなにしてたの?」
俺が聞くとメリッサが真剣な顔で教えてくれた。
「カトリ先生。自分で所有してる小さな惑星があるんだけど、そこで足止めされてたって。ちょうど子どもたちの競技会があった日に襲撃されて、道場生とチビども守るんで動けなかったみたい」
領主から惑星買って持ってたのね。
海賊くらいならカトリ先生一人でも倒せるけど、ゾーク相手じゃ刀だけで抵抗は無理か。
「刀だけで惑星奪還したんだって」
やっぱ人外だろ。
「あの辺の惑星持ってた領主の軍は全滅だって」
「考えるのやめよっと!」
デタラメすぎる!
そんなメリッサに聞く。
「そういやさ、メリッサさ、正妃にならなくてよかったの?」
「やだー! 正妃なんてやれるわけないじゃん! そういう面倒なのはクレアにまかせるわ」
たしかに事務処理に追われるメリッサとか想像できない。
「なるほど。ごめん」
「いいのいいの。適材適所」
「なんか作る?」
「タンパク質になりそうなやつ。できれば甘いの」
「おからドーナツでも作るか」
生地はすでにストックしてある。
揚げればできる。
生地を揚げはじめると……そろそろ来るな。
「おやつでありますか!」
ワンオーワンたちがやってきた。
高度なおやつセンサーで察知されたようだ。
「へいへい、いま作ってるぞい」
タチアナとシーユンも遅れてくる。
砂糖まぶしてっと……よし、チョコスプレーが大量にある。
かけてやろう。
「ほい、メリッサ。配ってやって」
「へーい」
メリッサが配膳してくれる。
すると他の連中も来る。
嫁ちゃんたちも来た。
来てないのはケビンとリコちか。
まだケビンはシフト中みたい。
指導医さんに聞いたら『恐ろしく使える研修医』なんだって。
そりゃ戦場でバリバリやってた看護師だからな……。
死ぬほど技術を仕込まれてるのだろう。
ケビンの分も作っておこうっと。
みんなのを作って持って行ってくれる女官さんにケビンのを渡す。
「みなさんもあとで食べて」
手作り気持ち悪いかもだけど、女官さんのも渡す。
あ、俺の料理は信用できる? あざっす!
はっはっは。
料理しまくったので考えがまとまった。
うん、パーシオンは放置プレーしよう。
パーシオン側がコミュニケーションとらない方針なんだから、こっちも無視無視。
不安になって接触してくるのを待とう。
喧嘩売ってきたらまた領土削る。
そのくらい塩対応で行こうと思う。
持ち時間が多いのはこっちの方なのである。
「また悪いこと考えてる?」
メリッサがニヤニヤする。
「悪い男は嫌い?」
「大好き」
するとガッシャンガッシャン音がしてきた。
リコちだ。
「レオくんたいへん!」
「どうしたん?」
「レプシトールから連絡があったの! レプシトールにあるパーシオン領事館が襲撃されて燃やされたって!」
は?
あわててニュースを見る。
パーシオンの領事館の中継が流れていた。
燃やされてる。
「犯人は?」
「それがね……パーシオン人みたい」
……頭痛くなってきた。
どうしてみんな次から次へとやらかすのぉッ!
「怪我人は?」
「軽傷者だけ。犯人はしかたなく射殺したって」
これはしかたない。
死にたくなければ領事館襲撃なんてしなければいい。
これで難癖つけてくるのは無理よ。
「か、カレンさんは……」
「会議が終わったら連絡するって」
「さ、西条くんは……」
「事態の沈静化のために出払ってる」
「なんでこうなるのー!」
「運命的なものじゃない?」
リコちがばっさり。
なぜじゃああああああああああああ!




