第六百二十七話
パーシオンくん。
人種的にはクロノス系と言われている。
見た目がだいぶ違うけどね。
クロノス人と比べると色素が薄い。
同じ系統の民族だとクロノスが一番銀河帝国人に近く、パーシオンが一番遠いかな。
銀河帝国人とクロノス系の違いは大きい。
見た目とかじゃなくて超能力者が他の種族よりも多いのだ。
ジェスターや妖精さんみたいな特殊な能力者も銀河帝国人だけに見られる特徴だ。
外界と隔絶された環境でみんなハッピーを目指した進化かも……いやまさかー……。
で、レプシトール人は特殊な進化系。
鬼神国はラターニア人の戦闘種ではないかと考えられる。
太極国人はクロノス人とラターニア人の両系統なのかな?
古代人系と言われたけど。
プローンや小国ビースト系は人類とは種が違うって感じだ。
水槽の中にタコの人はよくわからない。
遺伝子や動物学的な分類はまだ始まったばかりである。
こういうのは銀河帝国が一番得意なのよ。
でー、パーシオンくんは国内では「国民よ! いまこそ団結し、侵略者どもを火の海にするのだ!」と大騒ぎしてるが、外には一切出てこなくなった。
当然俺らはガン無視。
時間が経てば経つほど有利になるのは俺らの方である。
ということでパーシオンくんは無視して楽しい時間である。
タチアナはニーナさんに声楽を習っていたらしい。
軽音の連中にポップス系のボイスレッスンも受けてるんだけど、そっちじゃなくて聖女のお仕事用。
ニーナさんに聞いたら「上手よ♪」って言われた。
え、聞きたい。
「ということでタチアナコンサート!」
音響なんかは俺の個人マネーでプロ用機材を集めた。
ただし台はトマト缶の木箱。
げし!
タチアナに蹴られた。
冗談だって。
はい無駄にキラキラしたゲーミングお立ち台。
エンジニア系数人で嫌がらせのためだけに共同開発したやつ。
「あ?」
キレたタチアナが台を持ち上げようと……。
わかった!
やめるから壊すな!
もう!
「自分はそれ乗りたいであります!」
ワンオーワンが目を輝かせてる。
「こういうところだぞタチアナ! 理想の妹とはこういうものだぞ!」
「るっせーぶぁーか!」
ひどいわ。
いらなくなった照明の基盤外して光素子つけてワンボードマイコンで制御したのに……。
あ、うるせえバカ? 死ね?
俺泣いちゃうよ。いじけちゃうよ。いいの?
「うぜええええええええええええええええッ!」
さてタチアナの緊張がほぐれたところで歌の時間。
「はい、ここでゲストをお呼びしてます。ニーナさん!」
「え? え? え?」
なにも知らせなかったニーナさん登場。
「タチアナライブです。どうです生徒の晴れ姿」
「え? ちょっと待って、タチアナちゃん! 本気で歌っちゃダメ!」
タチアナがニヤッとした。
あ、まずった。
ドンッと雷が落ちたような音がした。
タチアナの声だとわかった瞬間、俺たちは過ちに気づいたのだ。
光の柱が立つ。
そうタチアナの聖女パワーはリアルガチの本物だった。
いやいままでだって屍食鬼を殺す力があるのはわかっていた。
だが本気の歌の威力はそんなものじゃなかった。
俺たちはひれ伏した。
だって建物が揺れてるんだもん!
ニーナさんも四つん這いになっていた。
「タチアナちゃんの本気はこんなものじゃないから! 私が教えてたのは制御方法!」
タチアナが歌ってるのはアヴェマリアだった。
たぶん。
俺の拙い音楽知識ではシューベルトなのかグノーなのかカッチー二なのかすらわからない。
とにかく災害レベルの大迫力だった。
建物が揺れまくる。
そしてなんか光の柱が立ってる。
「ぎ、ギブ! ギブアップ!」
タップタップタップ!
なお光るお立ち台は部屋の隅でバラバラになっていた。
「ぜえ、ぜえ、ぜえ……ごめんなさいは?」
「や、野郎ども! 土下座だ! 土下座するぞ!」
男子女子関係者は三列に並んで土下座。
「まいりました」
「うむ!」
すると嫁ちゃんが慌てて部屋に入ってくる。
「なななななな、なにがあった!? タチアナの歌聞きに来たら窓ガラスが粉々に!」
はい、その後はクロノスと嫁ちゃんの近衛騎士団に俺たちは捕縛された。
「ち、知らなかっただもん!」
と泣いて誤魔化そうとしたら男子全員身元引受人のカトリ先生に拳骨落とされた。
なお女子も嫁ちゃんとピゲットに怒られた。
王様ってなに?
光の柱出現のニュースを聞いてクロノス教の神官さんに、ラターニア外交部の人に、なぜかクロノスに駐在のゲーミング僧侶と神道枠で末松さんが呼ばれ、宗教中立地帯の神社でもう一度歌うことになった。
座敷童ちゃんがくるくる踊る。
そこに今度こそ本当にニーナさんと事前練習したタチアナが歌う。
今日のドレスは中立というていで和服だ。
宮廷女官風。十二一重は体力的に厳しいので似たデザインのヤツ。
タチアナが歌い出すと神籬ちゃんが発光した。
いつもの数倍の光を放つ。
俺たちは口をあんぐり開けてそれを見守っていた。
タチアナ……パワーアップしてる。
あと歌うまい……。
その光景はルーちゃんママのチームにより中継された。
それは肩こりが治ったなんてもんじゃない。
中継による超高範囲のものまねヒール。
生命力尽きるんじゃないかと心配したが、座敷童ちゃんと末松さんの解説では信仰心というか……ゾークネットワーク的なクロノス人の集合意識なのかな?
とにかくそういうものから力を得て見た人に分配したとのことである。
「あー……えーっと……要するに株主総会と配当?」
なぜかカトリ先生に無言で拳骨落とされた。
「黙ってろ。お前の言い方は身も蓋もねえんだよ」
「あ、はい」
おそらくこの場合はカトリ先生が全面的に正しい。
口に出して言うとその形になりそうだからお口チャック。
とにかく力を信者に還元したということだろう。
この映像は銀河帝国にも光の速さで伝わった。
こうして世紀末聖女伝説タチアナの歌は半ば伝説となるのである。
「婿殿……ジェスターってなんじゃろ?」
直後に疲れ切った顔の嫁ちゃんに言われた。
「俺が一番わかんにゃい」
ホントこれ。
結局、俺たちってなんだろうね?
能力が強力すぎる気がするのだが。




