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第六百二十二話

「ムリぽよ……」


 俺はつぶやいた。

 レプシトール側からの突然の要求がクロノスを震撼させた。

 レプシトールの経済崩壊から今まで「クロノスの植民地にしないでゴザル」とさんざん併合要求を突っぱねてきた。

 そしたらさー、「レオ王の血縁者をレプシトール王として迎え入れたい」と言われた。

 いや無理よ。

 誰が好き好んで王になるんよ。こんな破綻国家。

 つうかお前ら、まだ総選挙中だろが!

 選挙終わってから言え!

 でもレプシトールの言い分もわかるんだよね。

 破綻したはいいけど、このまま放っておかれるくらいならクロノスに臣従しちゃえって発想になるのは。

 レプシトール人はメタ認知が苦手だからこちらの事情は何一つ考えてないと思う。

 たぶんレプシトール人はどこからかサイラス義兄さんのことを聞きつけたんじゃないかな。

 銀河帝国前皇帝暗殺事件の犯人ってとこまでは気づいてないだろうけど。

 気づいてたら爆弾抱えるようなものだから避けるはずだし。

 いきなり現われた皇族ってとこまでは情報得てるんだと思う。

 うーん……サイラス義兄さんか。

 いやサイラス義兄さんは信用できるんだけど、その子孫が「我こそが正当なる銀河帝国皇帝である!」とか言い出しかねないんだよね。

 もしくはトマス義兄さんか。

 ちょっと連絡するか……。


「お久しぶりです。トマス義兄さん」


「レオ陛下。お久しぶりです」


「やめてくださいよ。俺とトマス義兄さんの仲じゃないですか」


「そうだな……。それでなにかあったのかい?」


「レプシトールがサイラス義兄さんに気づきました」


「……わかった。裏切者がいるな」


「この程度なら許容範囲なんですけどね。別にこちらは責任持ってくれるならクロノス王やめてもいいいですし」


 俺は嫁ちゃんの婿殿でいいわけ。

 俺は専業主夫ばっち来いなのである。


「恐ろしいことを口走るな。外宇宙の王など君にしかできんよ」


「えー……俺よりできる人は多いと思う」


 俺は立てた計画のだいたい半分は失敗してるわけだし。


「またまた謙遜を。最悪レプシトールはクロノスに併合してしまえばいい」


「それはいやー! 拡大したくない!」


「レオはそういう運命にあると思うよ。総選挙の結果が楽しみだね」


 ひでえ!

 なんて思いながらトマスと通信を終える。

 トマスと話すと自分が頭よくなったような気がしてくる。

 もちろん錯覚だけどね。

 問題はレプシトールである。

 レプシトールなんてまだ総選挙やってるけど、クロノス併合党が七割近い支持率だし。

 そういやそろそろ投票日か。

 いやだなー。

 胃がキリキリしてくる。

 きなこをもふってエネルギー充填しよう。

 クロノスの王宮の食堂を横切る。

 すると赤いユニフォームを着たシーユンがいた。

 まずい!

 シーユンのお兄ちゃんたち太極国の近衛もみんな赤いユニフォームを着てる!

 俺は見られないように廊下の隅に移動。

 クレアと嫁ちゃんに連絡する。


「シーユンと太極国の連中が赤いユニフォーム着てる」


「なんてことじゃ……ええい! クレア、食堂に近寄らぬようにせよ!」


「ヴェロニカちゃんわかった」


 野球の試合が始まった。

 俺は這って逃げる。

 今日は野球の中継日だったか!


「かっとばせ!」


「ぎゃあああああああああああああッ! このド下手くそ!」


 はじまった……。

 太極国は野球ガチ勢だらけなのだ。

 今日は座敷童ちゃんの神社でお昼食べようっと。

 王宮の俺たちのたまり場じゃない方の厨房に行く。


「陛下。どうされました?」


 料理長に挨拶される。

 料理長はご飯作ってくれる凄い人だ。

 昼メシと夜食だけは自分で作らせてもらってるけどね。


「太極国の野球中継があって……」


 そう言うと料理長も「それは災難な」と同情してくれた。


「いまお作りします」


「いいよいいよ。レンジと給湯器だけ貸して」


 カップラーメンにお湯を注いで、冷凍の弁当をチンする。

 さあ一人で昼食……と思ったら行列ができた。

 イソノやクレアだけじゃない。

 士官学校同期たちがいた。

 みんな……食堂入れなかったのね。


「俺、神社行くけど」


「わかった。みんな~。レオが神社で食べるって」


「うーっす!」


 すると侍従さんが光の速さで来た。


「座席ご用意いたしました」


「ご苦労おかけしました」


 ホントごめんね……。

 うちのシーユン……野球のとき人格変わるのよ……。


「どわあああああああああああ!」


 って悲鳴が聞こえてきた。

 たぶんホームラン打たれた悲鳴だな。

 神社にレジャーシートが敷かれていた。

 座敷童ちゃんが寝っ転がってゴロゴロしてた。


「はーい座敷童ちゃん。ご飯食べていい」


 イイヨー。

 って感じだったので座ってラーメンを食べる。

 ずずずずずずず……。

 うーん、たまに食べると死ぬほど美味しいな。


「料理長さんがパンくれたよ」


 レンとクレアがカートを押してきた。

 自分のことしか考えてなかったわ。

 ということで士官学校同期でピクニック気分で昼食。

 いつの間にかワンオーワンとタチアナも来てた。

 長い冬も終わり、レプシトールの民主的な総選挙も終わる。

 今まで銀河を支配してた鬱展開は霧散してた。

 少なくとも……いまだけはね。

 パンはクロノス風の餡子みたいなのが入ってるやつ。

 外側が油で揚げてあって美味しい。

 肉入りもあるのか。

 あとで料理長さんに礼を言っておこう。

 レプシトールの選挙がどうなるか。

 パーシオンとの戦争の行方は。

 考えることは多い。

 だが真っ先に考えねばならないのは……。


「レオ……野球流行りすぎたね」


「……うん」


 野球ガチ勢問題かもしれない。

 まさかシーユンがあそこまで猛獣みたいになるなんて。

 いや太極国の名家出身者ばかりだから「出てけ!」とか言わないのよ。

 ただ強制的に太極国のチームの応援させられるだけで。

 チームの応援歌を歌わないといけない雰囲気になるだけで。

 俺たちの文化の破壊力よ……。

 文化汚染による遅効毒だと認識してたんだけど、そんなものじゃなかった。

 ありゃ元に戻れないほどの変化を与える劇物だわ……。

 もう後戻りできないんだけどね。

 そう俺たちは誰も見たことのない未来へと。

 新しい秩序の世界へ突き進んでいたのだった。

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― 新着の感想 ―
熱狂のしかたがラテン系というか、某猛虎軍団のファンみたいだね。 そのうち、水が死んでいる道○堀のどぶ川にダイブしかねない(笑)
太極国専用の応援ロビーに隔離してもろて
やっちまったなー!! でもこの手の手合いは何に熱狂するかの違いだけでむしろけんぜんかもしれぬ(しろめ) むぁ広めた責任的なもんがあるかどうか位かなー?
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