第六百二十一話
内務省から連絡が来た。
あんれー?
首をひねってると「王位継承権に関する考察」というファイルが送られてくる。
はい?
クロノスの学会が王位継承権の会議を開いたらしい。徹夜で。
つまり俺が死んだときのこと考えたのね……。
レンの弟のマルマくんにクロノスの王位継承権があるのはなんとなく理解できる。
アマダ野郎の子どもにもあるのか……。
あー……なるほど。
おーお、サム兄にも王位継承権あるでやんの。
なお親父と長兄は俺と嫁ちゃんの意向で排除。
二人とも隠居の身だからねえ。
懲罰じゃないよ。
三人とも仮ナンバーである。
俺の子どもが誕生すればそっち優先である。
あと書類上カミシロ家の親戚ってことになってるシャーアンバーことサイラス義兄さんは、後の世に銀河帝国との争いが起こさないように排除。
これはサイラス義兄さんとトマス義兄さんの了解を取ってる。
そのトマス義兄さんだが、俺の子どもが生まれるまでは継承権暫定一位である。
これは本人が死ぬほど嫌がったけど納得してもらった。
だって俺が死んだときに国をまかせられるのトマス義兄さんしかいないもん。
トマス義兄さんがいるからテキトーでいいやと思ったら会議するくらいの話になっていた。はっはっは。
ここまでは笑い話。
俺の子どもができればなんの問題もない。
そもそも子どもを作る能力は定期検診で問題ないとお墨付きをもらってる。
俺も嫁たちもね。
種の凍結保存も完璧である。
卵もちゃんと保存してる。
嫁ちゃんだけじゃなくて嫁全員分。
つまり現状俺が死のうとなんとかなるわけ。
でだ、納得して寝て起きたら世界が変わってた。
「銀河帝国ロイヤルファミリーから降嫁したセレネーさんが妊娠。夫はアマダ警備会長アマダさん」
朝のニュース一発目からハイテンションでお祝いムード。
なんで知ってるのよ。
メッセージボックスにはルーちゃんママからお祝いのメッセージが入ってた。
うーん高官がリークしたのかな?
別に隠してないからいいんだけど。
そしたら内務省と外務省がお祝いメッセージを公式に出した。
サインはイソノ。
お前が犯人か……。
食堂に行くとみんなお祝い&浮かれムード。
赤ちゃんの話ばかりしてた。
たしかにみんな生物的な出産適齢期ではあるのよね。
そのムードは世間に波及。
午後にはクロノス全体が子ども欲しいって空気になっていた。
これを機に結婚に踏み出したカップルによる婚姻届が恐ろしい数提出され、行政のサーバーがパンクした。
結婚式場は足りなくなり、緊急措置として宮殿の一部や国立公園まで貸し出した。
クロノスは親戚や近所の人を呼んで夜までパーティーする形式だから外でもいいんだって。
ハーさんの経営する食堂には異常な数の料理の注文が殺到。
ハーさんの本業である児童養護施設の出身者も全力でお手伝い。
さらにそのムードは銀河帝国にまで到達。
妖精さんが疲れるほどの婚姻届の山、山、山。
結局、こういうのって空気感なのね。
本格的なベビーラッシュが予想された。
そしたら住宅が飛ぶように売れるわけ。
様々な企業も銀河各地に進出。
だって子どもが多い地域なら今後数十年は安泰なわけである。
惣菜屋から工場まで。物流倉庫に資源精製所に……。
銀行も金を貸しまくり。だって今後数十年は人口ボーナスで安泰だもの。
子ども関連の業種は株価が異次元に到達。
関係者各位、宇宙猫状態だった。
俺も宇宙猫状態。
だって何百年も解決できなかった人口問題が解決しちゃったもの。
クロノスもすんげえ勢いで開発が進む。
王都の原野やイナゴテロで廃墟になった惑星が住宅地化される。
人口回復もあっと言う間だろう。たぶん。
クロノスはこういうとき有利なんだよね。
年寄りや権力者から先に亡くなったから。
実態は逃げ遅れただけだとしてもね。
俺はそれを全力でプロパガンダに使ったし、国民もそれを望んで受け入れた。
親が子を守ったという神話にしたのだ。
誰もが嘘なのはわかってるけど、そういうことにした。
そりゃ学術レベルじゃ否定する話が多い。
ただ逃げ遅れただけだっていうものだ。
否定はしない。
だけどそれは学術だけのもの。
俺たちは神話を選んだ。
俺たちは死者に敬意を持つことを選んだのだ。
だから軍人は人気職だし、クロノス貴族も敬意を持たれてる。
ということで俺たちはなんとなく希望を持てる盤面を維持してる。
それが今回爆発したわけである。
いやスッゲーな……。
さーて、そんな状況であるがクレアさんがニコニコしてる。
「レオ、赤ちゃん楽しみだね♪」
「お、おう」
鼻歌も歌ってる。
嫁ちゃんもだ。
「婿殿。赤ちゃん楽しみだな」
「お、おう」
こっちも鼻歌。
メリッサはそれを見て腹を抱えて笑ってる。
「二人とも浮かれちゃって♪」
「やはりそろそろ子ども欲しい感じ?」
「ヴェロニカちゃんはそうだと思うよ。クレアはわかんない」
ですよねー。
「メリッサは?」
「わかんない。自分が結婚したのだって想定外だったし」
「ですよね……レンは……」
ちょうどレンがお茶のカートを持ってきた。
「ねえレン。レンは子ども欲しい?」
ストレートに聞いてみた。
「そうですね。マルマがあと3年で元服ですのでそのころには」
ちょうど15歳か。
元服すれば領地も安泰だろうな。
「それと発情期の抑制薬飲まなくてよくなるのがありがたいかと」
ビースト種だもんね……。
「なんかスマンす」
「いえー眠くなって鬱陶しいなって程度ですので」
「ほんと不出来な夫ですまねえッス」
「あら、旦那様はとても良い夫ですよ。ビースト種は雑に扱われることも多いですし。なにせ頑丈なので」
そう言ってレンは笑う。
マルマくんの治めるミストラル公爵領はビースト種の楽園だ。
ビースト種だけじゃなくてクロレラ処理の改造人間も多い。
領主がビースト種なので差別問題もゆるく風通しもいいそうである。
あと惑星全体が温暖で湿度が高くないのも大きい。
ここも婚姻ラッシュみたい。
そんなわけで鬱展開に突っ込んでいった銀河は幸せに傾いた。
これがなにを示すかって?
そりゃ風邪っぴきに慢性的な疲労状態だったジェスターの復活である。
まずはタチアナが回復した。
元気いっぱい。モリモリ聖女の仕事をしてる。
アリッサは寝込んでたらしい。
ところが元気になってこっちもお仕事しまくってる。
俺はというと元気にお仕事中。
レプシトールの再建計画をバリバリ進めていく。
パーシオン?
無視無視!
知らにゃい!




