第六百二十話
十日ほど経過すると仕事も軌道に乗り、寝る時間も確保できるようになった。
いつラターニア人が暴走するかわからなかったが……それは杞憂だった。
ここで虐殺でもしようものなら全面的に悪者にされるぞと脅しておいたのが正解だったかもしれない。
他にもレプシトールとパーシオンで広く「ち●ちんナイナイお化け」と認識される太極国のゼネコンを間に入れたのが功を奏したのかも。
太極国への恐怖で惑星住民の暴動も抑制できたわけである。
さらに言うと聖女タチアナの威光もあるだろう。
タチアナはひたすらおすまし。
聖女風清純派メークで優しくほほ笑む。
顔面の筋肉がピクピクしてるのが遠目でもわかった。
普段使わない筋肉を酷使しすぎたのだろう。
だから戦艦に帰ってくると疲れて突っ伏してる。
「つらい……」
タチアナは清純派アイドル扱いなのであるが、本性はロック少女である。
三人部屋にはアニメやゲームのポスターに交じって気合の入ったロックバンドのポスターが貼ってある。
部屋には自分の給料で買ったギターとアンプとヘッドホンが置いてある。
音楽教育を受けてなかったタチアナはアニソンのコピーからがんばってやってるところだ。
すまぬ……俺は……力になれそうにない。
俺は楽器の演奏はヘタクソなのだ……。DJは少しだけできるけど。
なんでもマネしたいワンオーワンは軽音の連中にドラムを習ってる。
シーユンは太極国の琴、銀河帝国だと七弦琴の名手だ。
クレアと嫁ちゃん、それにレンにピアノを習ってハマってる。
キーボードも軽音の女子に習ってるみたい。
ベースはメリッサ。
みんなお嬢さま……あ、そうか。みんな名家のお嬢さまだわ。
あれ……?
俺の嫁たちってウルトラハイスペックお嬢さまたちなのでは……?
待って、男子たち~。
「あー、ガキのころピアノ習ったけどぜんぜんできねえわ。一年で親があきらめた」
イソノきゅん。
ぼくらズッ友だよ……。
「楽器か。バイオリンなら」
エディくんのばかー!
ぜったい楽器できないって思ってたのに!
「うちはフルートかな。母さんが昔やっててさ」
中島てめええええええええええええええええええッ!
「ほら、うちはコロニーだから」
仄暗い顔でケビンがつぶやいた。
はいみんなで土下座。
「ごめんなさいです」
「別にいいよ。気にしてないから。みんな名家出身なんだし」
そういやニーナさんは……。
「オペラ歌おうか?」
ニーナさんが歌ってくれる。
すげえ声量だ。体の芯がビリビリする。しゅごい……。
「リコち……」
一番謎の人に聞く。
「シタールとバンスリーなら。うちの地元さ、伝統の維持に積極的なんだよね。あと尺八も。領民貴族関係なく公民館で習うんだ」
「へ~、ってことはもしかして強制?」
「うん断る自由はないかな。近所の目があるからね。でも賞があるわけじゃないから遊びの延長かな。楽しかったよ」
リコちの地元は謎に包まれてる。
文化継承に積極的な優良領地なんだろうけど。
近所の相互監視は実家でもあるあるなんだけど。
あれは単にご近所ネタの他に話題がないからなんだよね。
うちの領地の場合は新しい住民の方が大多数になってるし、そういう風通しの悪さはだいぶ緩和されただろう。
リコちのところも同じじゃないかな。
俺たち士官学校同期の実家って、ほとんどがゾーク戦争でも領主一族や地元軍が命を賭けて住民を守ったのよね。
だから評判うなぎ登りで人気移住先になってるんだよね。
その分、領主が逃げたとこは住民が逃げて寂れたわけで。
平民勢も自らに与えられた領地の人気は絶大なのだ。
例外は女性型ゾークの惑星領主のケビン、ビースト種の楽園を作ってるレンのミストラル本家。
ワンオーワンのとこもか。ワンオーワンのとこは丸ごと立ち入り禁止の自然公園ってことにしてる。
タチアナはどう考えてもまだ領地経営は無理なので、予約だけしていまは嫁ちゃんの天領だ。
それでも移住者殺到だもんね。
その分、逆賊扱いの公爵会とその子分で罪を免れた連中のとこの過疎化が凄まじいんだけどね。
産業が崩壊してるもの。
うーん、諸行無常。
「タチアナ元気出せ」
クレープ作ってやる。
生クリーム盛り盛りでアイス盛ってチョコソースかけてやる。
チョコスプレーもたくさんかけて……。
ワンオーワン……作ってやるから待って。
シーユンも目をキラキラさせなくても作るから……。
結局その場にいた連中全員の分をケビンとニーナさんと一緒に作る。
クレアも手伝ってくれた。
他の連中は配膳。
いつもの光景である。
パーシオンなんてダラダラ攻めればいい。
電撃戦なんかする必要なかった。
ゼン神族との戦いだってそうだ。
こちらは国力落とさないように無理しないでゆっくり攻める時間がある。
レプシトールが実質クロノスの保護国状態になったいま、パーシオン攻略なんて十年後だっていいわけだ。
知らないうちに盤面整った感はあるが、軍人なんぞそんなものだろう。
「あ、そうだレオ。アマダくんとこ。さっき連絡来たんだけど」
クレアがニコニコしてる。
「なにかあったん?」
「セレネーちゃん妊娠したって」
ちゅどーん!
頭の中で爆発エフェクトが鳴った。
アマダの野郎!
おめでとうじゃ! この野郎!
するとゆらーりと嫁ちゃんが動き出す。
「婿殿……作るぞ」
「愛とか恋とかで語ってくださいぃッ!」
「語るまでもなく愛しとるわ!」
やだ……雄々しい(トゥンク)。
「妾もそろそろ地盤を完全に固めぬとな」
「政治の話はやめてー!」
「それはそうとアマダに褒美をやらんとな。セレネーは妾とっても妹みたいなものじゃ。うーむ、公爵位でも授けるかの」
すると妖精さんも出現する。
「優秀な私のコピーですからね!」
ということでお疲れさん会からアマダくんおめでとうパーティーに変更。
成年組にはお酒も支給。
兵士やラターニア人にも振るまい酒支給と。
祝福、祝福!
俺にとっても甥とか姪みたいなもんか。
生まれたらなんかあげないと。
クロノスの議会に予算もらおうっと。
大臣に「アマダ警備のアマダのお嫁さんに子どもができたのでよろしくッス。アマダの嫁さんはうちの嫁ちゃんの一族です」っとメッセージを送る。
……これが陰惨な方に傾いた銀河になにをもたらすか。
まだ俺はわかってなかった。
疲れすぎてそこまで頭が働かなかったのよ。




