第六百十八話
クロノス軍に駐留はまかせて船に戻る。
国家クラッシャー疑惑は嫁ちゃんの耳にも入りゲラ笑いされた。
ツボに入りまくってるようだ。
「婿殿ぉ! とうとう国家を喰らう怪異になったか!」
嫁ちゃんにデュクシされまくる。
「ひどい~」
と反論するが自分が怪異みたいなものと広く認識されるだけのことはしてる。
反論の余地がない。
「ま、婿殿が国を喰らう怪異でも妾はかまわんがの。妾を大事にしてくれてるしの~」
「嫁ちゃん。ぽくもだいしゅき……」
「レオたいへん!」
嫁ちゃんに抱きつこうとしたらクレアが入ってきた。
嫁ちゃんは再びゲラゲラ笑う。
「これも運命じゃな……。どうしたクレア?」
「えっと……その……お邪魔だった?」
「かまわんかまわん。我らは家族じゃろ?」
「それもそうね……二人とも。知事の証言でわかったことの報告するね」
「お、おう。なにかあったん?」
「虐殺よ。と言ってもかなり昔の話らしいけどね。ラターニア人の集落があったんだって。知事が子どものころにパーシオン国軍によって焼き払われたみたい」
「……嘘だろ」
またラターニア人の地雷踏むのか~。
あ~。気分が重い。
「婿殿、ラターニアとの話し合いは頼んだ」
「やっぱり俺ぇ~……」
「ラターニア人をなだめられるのは婿殿しかおらぬじゃろ」
「え~……」
トボトボとした足どりで会議室に移ってラターニア王を呼び出す。
もー、外交部の人は俺の表情でとんでもないことが起きたのがわかったようだ。
すぐにラターニア王につないでくれた。
おそらく、これが信用や相互理解なのかもしれない。
「その表情。なにかとてつもなく大きなことを起きたようですね」
三十代半ばくらい見える王が言った。
実際は何歳かわからない。
長命種だからね~。
俺は無言でファイルを送信する。
送信完了すると自然とため息がもれる。
もう「これ見て!」っていう、あきらめモードだ。
ラターニア王がファイルを見ると色白の顔がドンドン真っ赤になっていく。
血圧急上昇してるのがわかる。
顔中の血管が浮かんでくる。
ひえっ……。
「調査しても?」
「最大限支援させていただきます。ただ知事が子どもの頃の話ですので……」
ミサイルで住民皆殺しはご勘弁を。
俺は暗にそう言った。
「ええ、クロノスの占領地ですから。そこはわきまえております。ただラターニアには殺人の時効はございませんので」
「それはもう、可能な限り犯人は引き渡しいたします」
いや死んだ人間をクローンにして生き返らせて引き渡せって言われても困るのよ。
同じDNAなだけの他人なわけで。法的に完全にアウトなのである。
ただラターニアのいいところはそういった無茶は要求しないことだろう。
法的に無理ですって話はちゃんと聞いてくれる。交渉も可能だ。
「この資料は概略ですか?」
「まだクロノスも第一報の段階ですので」
「素早い情報提供感謝いたします。我が国民もクロノスへの恩を忘れないでしょう」
怖いよう……。
俺は小さくなる。
いや別に俺もクロノスも悪くないんだけどさ!
資料は要するに「パーシオン国軍がラターニア人の村を焼きました」と「たぶん埋めました」と書かれてるのね。
そのだいたいの位置と地図も添付してある。
そりゃさー、知事の子どもの頃の話だから五十年以上前なわけだ。
そのくらい前だといくら知事であっても記憶はあてにならない。
「公文書などはございますか?」
ラターニア王が静かにたずねた。
だけど俺は奥歯がギリって鳴ったのを見逃さない。
「失礼。のどがかわきました」
ラターニア王が金属製のゴブレットで水を飲む。
飲み終わるのを待って俺は答える。
「軍の命令書その他の公文書は見つかっておりません。パーシオンの中央しか知らぬ話かと」
バキバキバキバキ。
あー……ラターニア王が持っていたゴブレットを握りつぶした。
「クロノス王。我が友よ……。軍を駐留させてもよろしいでしょうか?」
「問題ありません。パーシオンは敵地。調査にも護衛は必要ですから。ただし容疑者はちゃんと裁判にかけるようお願いします」
ラターニア王が笑顔になった。
要するに「虐殺の連鎖は起こすなよ」って話である。
本音で言えばパーシオン滅ぼそうがなんだろうが好きにしろって思うんだけどさ……。
これを許すと後々地獄みたいな時代が来るのがわかってる。
いまのラターニア王は話通じるからいいけどさ、次がそうとは限らない。
行政の長は民主的に選ばれたリーダーなんだけど王の言葉は重い。
王が「ワシラが全宇宙を統一するんじゃ!」とか言いだしたらパワーバランスが一気に地獄に傾く。
将来のために法律の枷はめとこうって話ね。
いいのいいの。クロノスはそういう国家だ。
王様だって法に支配されてる。
というわけでラターニア王ブチ切れ会談終了。
ふう、緊張した。
ラターニア王が我慢強くてよかった。
さー、ここからがたいへんだ。
今日は徹夜だな……。
まずはルーちゃんママに連絡。
「あ、お兄ちゃん♪ ママぁ~レオお兄ちゃんから連絡~」
ルーちゃんが出た。
癒しだわ……。本当に癒しだわ。
「はい、レオ陛下……ああ、なにかありましたか……」
すぐにルーちゃんママが出た。
俺の表情で察してくれた。
さすがバリキャリ……。
「パーシオンで隠された虐殺の痕跡を発見しました。すぐに王宮で緊急会見をする予定です」
「わかりました。各社に通知します」
「お願いします」
こうして銀河にパーシオンの蛮行が報道された。
第一報からニュースは注目を集めた。
また俺が国家を滅ぼすのか的な報道もされたが、断じて俺は悪くない!
たまたま急所をついてしまうだけでな!
でさー、ラターニアの調査団と銀河帝国の調査団とクロノスの調査団が入ったわけ。
複数国家を入れて被害を過大にしてプロパガンダにするの防止ってわけね。
太極国の土木会社も入れていつメン国家で調査する。
もうねラターニア以外は「なにかあったらラターニア止めろよ!」とお互いにアイコンタクトしてる状況だ。
ここで重要なのは聖女タチアナである。
心にもない平和を訴えさせる作戦だ。
「誰とでも仲良くしてラターニアに我慢しろとなんて言わないです。ただ調査は公平に。どちらの側にも正義と公平を望みます」
すっかりおすましが上手になったタチアナが言った。
あ、本音で語りやがった。
要するに「仕切ってんのはワシらクロノスじゃ! 余計なことすんじゃねえぞ!」って言ってるのだ。
この効果は絶大だった。
ラターニアやクロノスでの聖女タチアナ人気は、本人と仲良しの俺たちには理解できないレベルにまで達してる。
あの辺一帯で信仰の対象だからしかたないんだけどさ……。
これで止まってくれればいいなと宇宙怪獣カワゴンは芋片手に星に願うのであった。




