第六百十一話
銀河帝国皇帝親衛隊の活躍は皇帝陛下最愛の婿殿ことレオ・カミシロとセットで語られる。
私も親衛隊の一人として表向き英雄扱いされている。
そりゃ同級生だしね~。
士官学校の校庭じゃレオくんたちと一緒に戦ったし。
でも私は親衛隊としては補欠ナンバー。
シミュレーターではソロクリアはギリギリ、歩兵としてもまあそこそこ。
死人が出るとレオくんが弱体化するから戦場には出ないでバックエンド担当だ。
バックエンドってなにやってんの?
ずばり文官である。
私もヴェロニカちゃんの戦艦の主計局勤務。
会計担当の一人である。
今日はそんなあたし、ユリ・森下の優雅な生活の話である。
森下公爵家は名家である。本家ならね。
うちは本家ではなく分家の森下子爵家である。
子爵と言っても領地はなし。
公爵家の金魚の糞である。
ただ森下家は運が良かった。
皇帝陛下に対しても公爵会に対しても日和見を決めこんだ中立派だったのだ。
しかも私は皇帝であるヴェロニカちゃん直属の部下にして友だち。
さらに侍従長のせいで文官不足が深刻化。
ヴェロニカちゃんの「やるべき仕事をしたなら処罰せぬ」という方針によって首の皮一枚で実家も本家も許されてしまったのだ。
結局、帝国の危機にもかかわらず仕事を放棄した公爵会と侍従長の派閥だけが処分対象になったのである。
他の政権なら粛清対象だったと思う。
本家は賞罰なし。
分家である実家は独立、伯爵家になって領地を与えられた。
私もそのうち公爵家当主になるらしい。
そこで困ったのは結婚相手である。
名ばかり子爵家令嬢の私は本家筋の嫁となる予定だった。
だけど実家が独立。
伯爵家になったおかげで婿捜しは暗礁に乗り上げた。
だって伝手がないもの。
なので帝国士官学校保護者会に連絡。
保護者会の誰か……すでにみんな探してる?
皇帝派優先?
というか、めぼしい男子の実家はゾークとの開戦後すぐに皇帝派に鞍替えした?
中立派のマッチングは無理。あ、はい。
中立派の各家はレンちゃんの実家ミストラル公爵家に頼ったが、当主はまだ年若く派閥の長にするのは無理であった。
そう……中立派には若い公爵家当主を操って覇権を狙うほどの気概も才覚はなかったのである。
たしかにそこまで優秀なら皇帝派か公爵会に属してるわ。
そして二年もの歳月が無駄に流れ、結婚という概念を完全に忘却したころ突如として婚約の話がやって来た。
「近衛騎士団の西条はどうじゃ?」
ヴェロニカちゃんに呼び出されて、突然聞かれた。
西条くんは同級生だ。
同じクラスだけど年齢は一個下。
たしか同じ中立派で西条伯爵家の次男だ。
成績優秀者で飛び級して士官学校に入った。
士官学校同窓生は進路においていくつかの選択肢がある。
レオくんの部下になって銀河帝国貴族兼クロノス貴族になるコース。
夢はあるけどハイリスク。いつ全滅するかわからない親御さん泣かせの道だ。
それとヴェロニカちゃんの部下になって近衛騎士団入りをするコース。
こっちは地味で訓練は過酷、さらに規律も厳しいけど地道で親も安心だ。
西条くんは親衛隊を卒業して銀河帝国近衛騎士団の見習いをしてる。
そんな西条くんはかわいい男子だった。
ケビンくんみたいなのじゃなくて小さくてかわいいタイプ
入学直後の西条くんは女子からすると弟扱い。
背も小さかったのでみんなでお菓子あげたり、パシリにしたり、女装させたり、あかーん!
「あがががががががが……黒歴史が追いかけてくる……」
「女子はみな同じこと言うのう」
リコちすらレオくんとこにお嫁に行くことが決まって焦ってたが、西条くんはだめだ!
西条くんだけはだめだ!
だいたい西条くんだって姉軍団なんて嫌だろ!
「向こうは乗り気じゃぞ」
「はい?」
おかしい。世界がバグった。
「西条はユリを指名したのじゃが?」
「えっと……それは死刑判決……」
「いいから一度会ってやれ!」
「それはそうなんですけどぉ~……」
「……リコは来月籍を入れるぞ」
「なん……ですと……」
絶対結婚できないと言われてたリコちに負ける……だと……。
いやレオくんの嫁になれるくらい有能なんだから納得の結果なんだけど……。
「いいから会ってこい! ほら、クロノスの有名カフェのタダ券じゃ!」
バーンとチケットを渡される。
……これはレオくんがオーナーの超高級カフェのタダ券!
「ありがとうございマッスル!」
うわーいタダ券。タダ券!
レオくんのお店のタダ券だ!
おっと夜の部ならお酒も飲み放題。
ひゃっほー!
主計局での勤務が終わった。
西条くんを待つ。
西条くんはどこにいるんだろう?
「お久しぶりです」
え?
黒髪セーラー服の可憐な女子に話しかけられた。
すごい美少女。
「もしかしなくても……西条きゅん?」
「はい♪」
こんなの脳が破壊されちゃうよおおおおおおおおおおおおッ!
久しぶりに会った同級生は……超ウルトラ美少女になっていた……。
「えっと……自分はお見合いと聞いていたのですが?」
「もちろんお見合いですよ」
「お、おう……なぜに自分なので?」
「私に女装を仕込んだのが誰かお忘れですか?」
「あ、はい」
黒歴史に追いつかれた!
「その改造手術とかは? ゾーク化が昨今流行っているようですが」
「すべて自前です。胸触ります」
ぺたぺた。
たしかに真っ平ら。
あらすごい。発達した大胸筋。
これは完全に騎士だわ。
「ご満足ですか、なかなか服を選ぶの難しいんですよ」
たしかに制服だけど冬服のコートとかはもこもこしてる。
そうやって筋肉を隠してるのか。
と言ってもゴリラ系じゃなくて細マッチョだもんね。
「あ、はい。たいへん真面目に訓練されているようで」
「貴女に追いつくためですよ」
「いえ、自分はパイロットをあきらめ主計局勤めに……」
「あら、鬼の主計官殿として有名ですよ」
「うっ!」
つい給料分の仕事してしまった。
士官学校同期は働かないと落ち着かない人ばかりなのだ。
「では飲みましょう。お姉様」
「ひゃ、ひゃい」
私のせいで美少女に目覚めた同級生と数年後にお見合いする。
これがカルマというものでしょうか?
伏線回収はやすぎるだろ!
「逃がしませんよ。お姉様」
「ふええええええええええええええん!」
こうして私に彼氏ができたのである……。




