第五十九話
顔面の塗装と床を犠牲にして偽ジェスターに勝利した。
俺は踏み台としてギャラクシーな英雄譚的活躍を果たしたのであった。
偽ジェスターをチェーンソーでツンツン。
動かない。
正確には少しピクピクしてる。
だけど発泡樹脂をはがす力ももはやない。
死者に鞭打つ気はないので蹴っ飛ばしたりしない。
「婿殿、ドローンにサンプルの回収を頼んだ。これでまた研究が進むだろう。ドローンが撃墜されなければだがな」
「へーい」
違う生き物は解剖とか実験でしかわかり合えないということだろう。
たしかにゾーク側の人間への理解も雑だもんね。
ゾークも捕獲した人間さんをバンバン解剖してるだろうからお互い様だよね。
少し大人になった気分で奥に進む。
奥にはSFの伝統工芸。
脳味噌&収納カプセルが鎮座していた。
匠の技である。
「人間……ってことはないな」
脳味噌の大きさは規格外だった。
100キロくらいありそうな肉の塊。
どこかのヒロインが脳味噌だけ生かされてるわけではない。
……正直安心した。
「妖精さん、これなんだかわかる?」
「くんくん、敵のにおいがします。ペロ。この味は基幹ノード!!!」
おめーは嗅覚も味覚もないAIだろが!
「いいから! レオくん、さっさとぶっ殺してください」
「えー……無抵抗なのに?」
「ムキー!!! ゾークは人類の敵ですからね!!!」
「ですよねー……」
なんか引っかかるなあ。
妖精さんは俺に500年前のお薬を無断で注射しやがった。
そのせいかどうにも信用できないのだ。
なにかいいアイデアはないか……。
うん!
「ねえねえ妖精さん。ハッキングできない? 機械に繋がってるから思考とか符号化されてるんじゃないかな?」
「……どうしてレオくんはこのタイミングで面白そうなこと言うの!? もー、しかたないなあ。この私なら読めますからねー」
妖精さんがわざとらしいピコピコ音を出しながら解析に入った。
すぐに結果が出る。
「はい私はできる妖精ですからねー。すぐに解析できましたよー!!!」
「できる子じゃーん。偉い偉い」
「へへーん! ではなるべく広範囲のチャンネルに一斉ブロードキャストっと」
「おいやめろ!」
軍事機密扱いだったらどうすんのよ!
だが俺の制止を聞かずに妖精さんはおっぱじめてしまった。
【みなさーん! ゾークちゃんは人類にビビリ散らかしてまーす! 我がマスター、レオ・カミシロの異常な強さに怯え、逃げ回ってるそうでーす!!! ギャハー!!! さらにレオ・カミシロの率いるヴェロニカ親衛隊を死神部隊呼ばわりして怖がってます! プークスクス!】
性格の悪さを前面に出したメスガキあおりである。
お前……メスガキだったのか……。
それにしても俺とクレアどころかメリッサや男子どもまで恐れられてたのか……。
「婿殿!!! なんじゃこの放送は!!!」
嫁からだ。
「うん? 妖精さんがネットに情報流してるみたいだけど」
「ネットだけじゃないのじゃ! 銀河の放送すべてをジャックしておる!」
「妖精さん! 何してくれてんの!?」
「今すぐ放送をとめ……いやそのままでいい」
「どうしたん?」
「皇帝陛下がお慶びになったそうだ。婿殿に伝言じゃ。【メスガキとはなんと雅な。ほめてつかわす】」
死なねえかな。皇帝。
「とにかく放送を止められなくなった。最後まで演説させるのじゃ」
【我々は今立ち上がる! 勇者たちよ! レオ・カミシロの元に集え!!!】
……知らない間に演説が上手になってる。
妖精さん……実はできる子?
【帝国に栄光を!!!】
終わった。
男子から通信が入る。
「レオ……お前……メスガキ属性まであったんだな!」
「ぶち殺すぞ!!!」
「ふふ、メスガキの奴隷なんて……拙者、想像しただけで」
「誰かこいつ死刑にしろ!」
茶番終わり。
すると妖精さんが話しかけてくる。
「ねえねえレオくん。あのね、ゾークが【もう終わりだ自爆する】だって」
「ぎゃあああああああああああああッ!」
俺たちは一斉に逃げ出した。
「妖精さん! 脱出できそうななにかある?」
「そこにゾークの強襲艇があるけど」
ゾークの強襲艇はエイのような生き物だった。
「生き物やん!!!」
クレアがケーブルを接続した。
「うん大丈夫。旧型のシステム。これなら操縦できるよ。レオ乗って」
俺が乗ると近衛隊や男子生徒、それに一般兵もエイの背中に乗った。
最初に運転不能になった連中も合流する。
「独自OSだけど帝国のシステムと互換性があるみたい。行くよ!」
そう言うとハッチが開きエイが解き放たれた。
エイは空を飛ぶ。
「なぜに互換!?」
「たぶん帝国のシステムを参考にして作ったんだと思う。それしか知らないからコピー品みたいになってるんだと思う」
つまりいつもの雑ムーブだ。
エイは安定した飛行で宮殿目指して飛んでいく。
これいいな。
いつもより安定性がある。
「この子は帝国の研究所に持っていくよ。そうすれば帝国も新しい兵器を作れるかも」
エイはいい子である。
これなら欲しい。
毎回死にかけるバーニアなどいらぬのだ!
ゾークの方が安全性に配慮してるのウケるー。
みんなが避難してしばらくたったころ、戦艦型ゾークが爆発した。
その爆発は周囲の都市を飲み込んでいった。
「敵ながら天晴れ。我々レオくんと愉快な仲間たちは最強なのだー!!!」
妖精さん……お前何様なんだよ。
恐ろしく高いところからのマウントを見た。
「あ、データは取りましたよ。研究所に送信っと」
「クレア、妖精さんを止めて」
「妖精さん。め!」
「はーい」
みんな妖精に甘過ぎだろ。
こいつ邪悪の塊だぞ!
「嫁ちゃん、俺やったよ!」
嫁に連絡。
「でかした! それでこそ我が夫よ!」
「回収はどうなった?」
偽ジェスターに脳味噌に。
たくさん回収せねばならないものができた。
脳味噌は無理だろうけど。
「偽ジェスターと脳味噌のサンプルは回収できた。これで人類は勝利に近づいたのだ!!!」
嫁は喜んでる。
でも俺は嫌な予感しかしてなかった。
帝都の被害は甚大だ。
こりゃこれから皇位継承争いも揉めそうな気がする。




