第五十八話
おいおい……モブキャラにゲーム外の新キャラ用意するなよ……。
完全に運命を変えてしまったが為だろうか。
戦艦型ゾークの早期投入に新キャラにと事態が悪化した感がある。
良くも悪くも本気で俺を殺しに来ている。
……そうか! そもそもケビンをヒットマンにした時点でリアルガチ本気なのか!?
原作のエッジにすらスパイによる暗殺なんてイベントなかったもんな。
その前に普通に治安が崩壊して海賊だらけになったから、中にはヒットマンもいたかもしれないけど。
ここで勝利を手にして嫁が海賊狩りできるようにしなきゃな。
対ジェスター用の新型、偽ジェスターが突撃してきた。
俺は真正面から相手にせず横に避ける。
「妖精さん! ハッキングできる?」
「無理でーす。あれ完全に生物ですよ」
こう、さあ、弱点作るとかさー。
そういう配慮ないわけ!
そういうとこやぞ!!!
猛牛の様にチェーンソーを振り回しながら突撃してくる。
「ロックオンできない! 完全にレオをトレースしてる!」
クレアが悔しそうに言った。
「え? 俺、あんなホラー映画の殺人鬼みたいな動きしてる?」
「もっとひどいよ!」
もっとひどいのかー。そうかー。
「レオは速すぎてロックオンできないし撃っても避ける! 敵からしたら恐怖でしかないよ!」
「えー……」
「敵もマネしてるけどマネできてない! レオのはもっと機体の限界ギリギリの動きだよ!」
ひでえ言われようである。
「私だったらレオに遭遇したら逃げる!」
「……そこまで!?」
クレアも射手として天才を超えて変態の域に足を踏み入れてるのだ。
そのクレアにそこまで言われるほど……俺は……変なのか?
「レオは視界から消える動きを多用するの! というかどこから攻撃してくるかわからない! VRゲームでもそうだったでしょ!」
そうだったかな?
突っ込んできたのを確認してスライディングから足をかけてテイクダウンする。
このまま押さえ込んで殴ろう……と思った瞬間、ゾクッと嫌な予感がした。
俺は転がって退避。
次の瞬間、偽ジェスターの全身から針が突き出した。
密着してたら全身を貫かれてただろう。
「完全に俺対策じゃねえか!!!」
もうやだ!
学習能力がある敵!
ぜんぜん接待プレイしてくれない!!!
だけど所詮はゾークちゃんなんだなあ。
「勝った!!!」
俺はそう宣言する。
勝った!!!
完全に勝った!!!
俺は確信していた。
「クレア! 煙幕弾!」
「え? うん!」
煙幕弾。
暴動鎮圧用の目つぶしだ。
催涙弾もあるけど煙幕の方を持ってきた。
正確には……最初から数発分あったけど意味あるかもしれないから取っておいたのである。
なお新しいものと交換している。
500年前のものは使わない。
「煙幕弾発射!」
煙幕で前が見えなくなる。
ここで俺が……なわけがない。
男子生徒の出番である。
俺たちは煙幕があろうともレーダーで場所を把握できる。
相手も視力以外の感覚器があるだろう。
だけどレーダーほどは使い勝手がよくないはずだ。
はい技術の勝利ぃッ!!!
「変態が活路を開いたぞ!!!」
喧嘩売ってんのかな?
男子どもはカニ相手に経験を積んだ射撃で弾丸を浴びせていく。
見えないけど確実に当たってる音が聞こえる。
「男子ども! 発泡樹脂グレネード!」
「了解! ド変態!」
殴ろうかな?
発泡樹脂グレネードは対暴動用の武器だ。
文字通り空気に触れると発泡して固まる樹脂が入っている。
これを暴徒や人型重機に投げつける。
すると樹脂が発泡したまま固まり動けなくなるという仕組みだ。
取るのは簡単だけど戦闘なら隙を作るには充分な時間が稼げる。
やっぱタイマンなら足止め系の特殊攻撃って強いよね。
たまに窒息して死ぬ人が出るけど、帝国は人権に関してはかなりテキトーだ。
【暴動なんぞ起こす方が悪い!】ですんでしまう。
そんなグレネードを持ってきた理由は簡単だ。
カニちゃんの大群に囲まれたときに使おうと思ってたのだ。
煙幕が霧散し視界が元に戻る。
「やったぞ変態!」
偽ジェスターが動けなくなっていた。
「一斉射撃! あと俺を変態って呼んだヤツ! あとで格技場に来い!」
俺が言うと一斉に射撃する。
俺を変態って呼び始めたヤツはあとでぶん殴る。
「レオって男子にも人気だよねー」
クレアが【もーしかたないなあ男子は】といった様子で言った。
「あれが人気だと!?」
「うん、身分関係なく友だちだと思われてると思う。幼年学校とかで学校にカブトムシ捕まえて持ってくる子みたいな感じ?」
「それは勇者だな。だが俺は悪役貴族だ!!!」
民に圧政を強いる悪徳領主だぞ!
……税金は復興に使われます。
「んー、それは誰も思ってないかな。士官学校で一番身分にこだわらないのレオだし」
「え……?」
そう言われればそうだ。
身分なんか気にしたことはない。
だってルートによっては帝国滅ぶの知ってるし。
身分なんぞ意味はない。
「おい! 変態! イチャイチャすんな!」
「るせー! お前らこそさっさとトドメ刺せ!!!」
「弾丸浴びせても死なねえんだよ!」
さー、どうしようか。
近づくと串刺しだし。
銃は決定打にならないと。
やだなー、カニちゃんと寄生体のいいとこ取りだわ。
「婿殿! 俺に続け!!!」
盾を持ったピゲットが突っ込んだ。
それだけじゃない。
近衛隊も盾で突っ込む。
近衛隊は盾で押さえ込む。
俺はチェーンソーを振り上げる。
「うおおおおおおおおおおお!」
と思った瞬間だった。
俺の機体の頭を誰かが踏んだ。
「俺を踏み台にしたぁ!?」
俺を踏み台にしたメリッサが偽ジェスターに跳んでいった。
ここに銀河で一番みすぼらしいジェットストリー●アタックが炸裂した。
つんのめる俺。ぶべら!
俺が床にキスをする直前、メリッサが偽ジェスターの首を斬った。ズササー。
「おっしゃ!!! 作戦成功!!!」
メリッサは【やってやったぜ】と鼻息を荒くした。
「なぜにメリッサは麻呂を踏み台にしたでおじゃるか?」
なぜか別の次元の貴族になった俺が聞くとメリッサはうれしげに語った。
「針が来る直前、そいつ笑ってたんだよね。だから隊長を串刺しにしようと思ってたってわかっちゃった。だから意識外から攻撃したらこの通り。ほらね、首斬ったからなにもできなかった」
俺は偽ジェスターを見る。
ビクビク動いていたが針は出せなかったようだ。
「なるほど……メリッサグッジョブ!!!」
「うぇーい!」
なおクレアはぶち切れたのか無言で怒っていた。
あとで甘い物でも差し入れようと思う。




