第五百七十九話
私、カレンは途方に暮れていた。
武装ヤクザがビルを取り囲んだ。
カミラマッカーシー社の手のものだ。
こちらも兵を出すが分が悪い。
カミラマッカーシー社は軍需産業のトップ企業だ。
この国は企業による統治と表向きは言い張ってるが、要するに国家を持った海賊にすぎない。
軍事力を持つ海賊を表の仕組みに組み込もうと思ったらこうなるのは必然。
クロノスがおかしいだけなのだ。
普通なら離反者は皆殺しだ。
だがクロノス大公は離反した者を許した。
甘すぎる裁定に思えるが、実際は海賊ギルドとつかず離れず手足として使っている。
化け物だろうか?
その秘密は会議で見たときにわかった。
本能的恐怖。いや畏怖だ。
一見するとどこにでもいる若者だ。
だがそのオーラ、雰囲気がただ者ではない。
ゾークやプローンは我々レプシトール人と同じ野生の本能を持つ種族。
あの存在感を恐れ殺そうと焦った結果が滅亡だ。
ゾクゾクする……。
あれは……化け物に違いない。
逆らってはいけない。
友好関係を築くべきだ。
だがその意見は複合企業体議会に却下された。
私は議会議員の職を追われ、いまはこうしてカミラマッカーシーの討伐対象になっている。
愚か者どもが!
なぜわからない!?
レオ・カミシロは化け物なのだ!
あの化け物と友好関係を構築せねば我らは滅びる。
そもそもだ。
銀河帝国皇帝の夫でありながらクロノスの統治者でもあるという異常性を直視すればわかることだ。
時流の読めぬ老人どもめ!
「カレン様! ヤクザに防衛網が突破されました!」
「援軍は!?」
「国軍と交戦中です!」
これは私の運命が先に終わるのか……。
レプシトールはこれから滅亡に向かうのだろう。
それだけが気がかりだ。
「総員退避! 私が残る! 皆は逃げろ!」
「か、カレン様!」
「一族のものと役員どもに伝えよ! 『クロノス大公と敵対するな! クロノスに亡命せよ!』と」
クロノス大公は化け物だが、他人には甘い。
おそらく受け入れてくれるだろう。
これで私の役目は終わった。
最後に兵士どもを道連れにして会長室を爆破すれば終わりだ。
辞世の句を詠む時間くらいはドローンが稼いでくれる。
辞世の句のテンプレートを選んでると通信が入る。
「ちわーっす海賊ギルドです。大首領カワゴンの命でお迎えに上がります。ヘリポートで待っててくだせえ」
「大首領?」
クロノス大公の手のものに違いない。
だがカワゴン?
言われるままにヘリポートに向かう。
するとラターニア最新鋭の輸送機がやって来た。
いやいやいやいや、これで海賊は無理があるだろう。
思いっきり正規軍ではないか!
レプシトール人、おそらく混血の海賊が出迎える。
混血によくある身長の低い男だ。顔のウロコも少ない。
ひどいラターニア語なまりのレプシトール語で彼は言った。
ラターニア育ちなのだろう。
レプシトールでは他種族との混血を嫌う。ひどい差別が存在する。
バカバカしい。唾棄すべき差別だ。
「姐さん乗ってくだせえ!」
「あ、ああ」
輸送機には『アマダ警備サービス』と書かれている。
クロノスに本社を持つ海賊ギルドの企業だ。
パーシオンと太極国、ラターニア間の航路の護衛をしていた。
海賊と交渉して安全を確保してるとの噂がある。やり手の会社だ。
自分たちから離反したグループと交渉できるのだ。
これもクロノス大公の采配だろう。
なんと恐ろしい男だ。
「姐さん、まずはマゼランに逃げヤス。航路は。こんな感じッス」
「そこは危険なのでは?」
かつての屍食鬼の支配領域を突っ切るカタチだ。
まだ屍食鬼の残党がいてもおかしくない。
いくら海賊でも危険なはずだ。
「話はついてヤス。それにうちの艦は強いんで」
輸送機で惑星を離れる。
「家族と役員は!?」
「ご安心くだせえ。アニキたち、えーっと……別の部隊が向かってヤス」
ああ、なんということだ。
クロノス大公は我々の状況をどこかで聞きつけて救援を送ってくれたのだ。
とんでもない借りができてしまった……。
艦が見えてくる。
待って……。
「あれはラターニアの最新の戦艦では?」
「いえデカいですけどね、あれは巡洋艦らしいッス」
見るものが見ればラターニアの最新艦だとわかるはずだ。
つまりラターニアがレプシトールの軍事行動を取った。
少なくともレプシトールはそう思うはずだ。
この意味は大きい。
輸送艦で中に入るとさらに度肝を抜かれた。
女性の兵士だ。だが……。
私は……野生の本能でわかった。
この圧迫感……ゾークだ。
「アマダ警備主任、ケイコ・ドノバン・カノウであります!」
小さいのに大きい。
自分の胸は世界に通用しないと思い知らされた。
話をすると本名はドノバンとのことだ。
女性になってしまったので、銀河帝国で女性に使われる『ケイコ』を名乗ってるとのことだ。
10代の若い女子にしか見えないが、実際は40代後半のおじさんらしい。
話をすると元は銀河帝国の下士官だったらしい。
「前はこんな顔だったんですよ」
そう言って見せてくれた画像はひげ面のダンディーなおじさんだった。
「ま、こうなったからには人生楽しもうってことです」
そう言ってケイコさんは笑った。
その容姿を生かして休日にはアイドル活動もしてるとのことだ。アイドル!?
頭の処理が追いつかない。
私の頭がぐるぐるしていた。
クロノス大公の部下は個性的すぎる。
変な人しかいない。
「ま、この辺は何度も通ってます。安心してください。小惑星帯で後続と合流します。それまで食堂で食事でも取ってください」
「お気遣い感謝いたします」
食堂に行くとツインテールの少女がやって来た。
「アマダ警備艦長のミライ・バイロン・ワタナベです」
かわいいのに渋い……。
またもや頭が混乱した。
彼女もゾークだ。
「カレンです。会社はおそらく倒産処理がされますので、ただのカレンです」
「ふふ。ご心配されなくとも問題ないかと。なぜなら海賊ギルド大首領、宇宙怪獣カワゴンがおられますからな。ガーハッハッハッハ!」
笑い声が似合わない。
とにかく……たぶん、私は助かったようだ。
ただ知恵熱を出すと思う。
情報が多すぎる……。




