第五百七十一話
パーシオンは沈黙。
軍事作戦の気配もなし。
ただパーシオン自体の権威は失墜した。
そりゃさー、クロノスは大国だ。
でもクロノス大公というどこの馬の骨かもわからない輩とその師匠によって軍艦まで墜とされたわけである。
「だって相手が強かったんだもん!」
ではすまないのである。
しかも俺たちデスブラスター使ってないしね。
パーシオンちゃんも使ってる通常兵器でボコボコにした。
メディアはこの話題で持ちきり。
人々は情けないパーシオンを全力でバカにした。
鬼神国からバトルドームの小国、ラターニアや太極国まで「ざーこざーこ♪」祭りである。
ありとあらゆる場所にメスガキイラストで「パーシオンお兄ちゃんのざーこざーこ♪」と書き込みされ、メスガキちゃんグッズが飛ぶように売れる。
パーシオン国内ですら消すと増える状態だった。
やるからには絶対負けてはいけなかったのだ。
「売れましたね。私が描いたマンガ……」
妖精さんがつぶやいた。
おまわりさんこいつです!
とはいえ、妖精さんだけがメスガキだったわけじゃない。
銀河帝国中の紳士がパーシオンちゃんイラストを投稿した。
帝国も「ざーこざーこ」祭り状態。
あまりにも惨めだったので、パーシオンの他参加者に「亡命してもいいよ」って言っておく。
いやだって、知らないところで処刑されたらかわいそうだし。
それでも選手たちは「家族がいますので……」と帰って行った。
かわいそう……。
なお数名が罵倒される喜びに開眼……誰だこんなどうでもいい報告書紛れ込ませたやつ!
いらねえよこんな報告!
ただ話として面白いのはわかる。
競技中に暗殺しようとして選手にフルボッコ。
こんな笑える展開はそうそうないだろう。
とはいえ、こちらが攻め込むメリットはゼロ。
何度計算しても人的資源が足りない。
もう無理よ。無理!
こうやって無駄に戦線拡大してもいいことないよね~。
まー、いいや。しばらくチクチク嫌がらせしながら様子見ようっと。
さて、結局……俺たちは二徹した。
二徹と言っても食堂に寝袋持ちこんで交代で仮眠は取ったけどね。
こういうときは軍の二段ベッドが便利だ。
さすがにタチアナ、ワンオーワン、シーユンには睡眠を取らせた。
ただし、クロノス教のタチアナ親衛隊隊長、シーユンのお兄ちゃん、元絶望の執事さんは徹夜組である。
三人とも俺たちより年上だ。つらい。
さらに徹夜麻雀してたイソノ、中島と男子二人が二日目に壊れた。
なにやってんのお前ら?
「寝ても起こされるんだよ!」
おう、悪かったな。
俺は仕事を終わらせて、クレアたちと遊んでた。
ゲームで対戦したり、積んでた映画やアニメ見たりね。
パーシオンから反応がないまま二日経過。
寝ろと言われて食堂キャンプ解散。自分の部屋に。
嫁ちゃんと寝る。すぴー。
で、寝てたじゃん。そう寝てたのよ!
なのに! それなのに!
「レオくん起きて!」
妖精さんに起こされる。
「ななななな、なにがあった?」
「パーシオンとレプシトールの戦争が始まった」
もう意味がわからない。
この二国は大国だ。
全体主義で民を抑圧してるのがパーシオン。
民主主義というか経済独裁で企業に惑星を統治させてるのがレプシトールだ。
どちらとも肌感覚でおつき合いしたくない。
クロノスとの貿易相手ではあるんだけどね。
頭がはっきりしたので隣で寝てる嫁ちゃんを起こす。
「んー、なんじゃ、おはようのチューで起こせとあれほど……ん? なにかあったのか!?」
「落ち着いて聞いて。パーシオンとレプシトールが戦争おっぱじめた」
「はぁッ? ……なにもわからん! とりあえず執務室に行くぞ!」
俺は寝間着の芋ジャージにサンダルで先に行く。
嫁ちゃんは女官さんが衣装を整えてから。
嫁ちゃんはバッチリメークするが、俺は寝癖すら直さずに行く。
その途中、妖精さんに報道をストリーミングで流してもらった。
まだ第一報の状態だ。
映像もない。
レプシトールが攻撃したようだ。
「ラターニア国営放送の分析だとレオくんへの暗殺失敗でパーシオンが弱体化したと判断したようです」
「また俺たちが原因かよ!」
「そりゃたった二機にバチボコにされましたし」
そりゃ、まともな判断能力してれば俺たちが強すぎたんじゃなくて、パーシオンが弱体化したと分析するだろう。
明らかにおかしいもん!
でもさー、行動起こすまでが速すぎるでしょ!
食堂に到着するとこれまた芋ジャージに寝癖軍団がお出迎え。
「レオ~、戦争ってお前なにやったんだよ~」
坊主頭のせいで寝癖が目立たないイソノが言った。
「俺悪くないじゃん!」
「そうだよイソノ。レオが引っかき回したらこうなっただけで」
「結果的にそうなんだけどさー!」
士官学校勢はほぼ全員がクロノスの役職に就いてる。
だから女官さんと侍従さんたちが大挙してやって来て外見を整えてた。
俺は回ってきた寝癖取り……というかヘアトニック的なものを頭に噴射。
「なあこれ寝癖じゃなくて育毛って書いてあるけど」
「あ! 俺のだ!」
イソノの私物らしい。
「お前まだハゲてねえじゃん!」
ふさふさである。坊主頭だけど。
「親父がハゲてるんだよ! いまから対策しねえと不安なんだよ!」
「お、おう……たいへんだな」
「言っとくが寝癖取るのにも使えるから問題ねえぞ」
とのことである。
シトラス系の香りだからこのままでいいか。
別に害にならんだろう。
ブラシで寝癖を軽く取って侍従さんに整えてもらう。
ついでに眉毛を整えてもらう、連日の寝不足でできたクマをファンデーションで……。
すげえな化粧の力。
「そういやなんで髪整えてるんだ?」
「記者会見するんだよ」
「俺なにも状況把握してねえけど」
「把握してないことを報告するんだとよ」
男子どもが軍の正装をし、女子も別の部屋で正装した。
クレアがやってくる。
「レオ、大国どうしの戦争だって?」
「みたいね。経済はどう?」
「まだなにも。ラターニア銀行が現地駐在員の安否確認してくれるって」
「了解」
それで記者会見。
俺は挨拶すると後ろで控える。
前で質疑応答するのは外務省の文官である。
そりゃ俺たちより状況把握してるんだから彼でいい。
イタコ芸なんて意味ない。
俺はそんなのやらないね!
最後に一言と頼まれ正直にコメントする。
「私とカトリ師範で暗殺犯を倒してしまったのが引き金とのことで大変残念に思います。とはいえ黙って殺されるのも嫌ですので抵抗したことは後悔しておりません」
大公反対派の記者にウザ絡みされるかなって思ったけどなにも言われなかった。
さすがにパーシオンちゃんを弁護するのは不可能みたい。
こうして頭がボケまくってる最中に新たな火種が燃え上がったのである。




