第五十七話
カニちゃんの群れがやって来た。
慣れない実弾兵器にモタモタする一般兵とは違い男子どもは素早かった。
一部は機関銃を両脇に抱え敵を一網打尽にしていく。
盾と機関銃を装備した者は一般兵を守りながら手堅く戦う。
俺とメリッサ、それに近衛隊はいつものように突撃する。
「グハハハハ!!! かかって来い!!!」
一匹二匹三匹と真っ二つにしていく。
すると無線から一般兵のつぶやきが聞こえてくる。
「あいつら……人間じゃねえ……」
「頭のねじが飛んでやがる……」
「恐怖とかないのかよ」
「うるせえ!!! お前らも働け!!!」
俺の一言で一般兵の機体も動き出す。
一般兵の戦術は非常にわかりやすい。
アサルトライフルを手にダンジョンを進み敵を発見しだい即射殺。
基本的にツーマンセルで動き一匹に複数で対処する。
絶対に自分たちが不利な状態では戦わない。
あとは高火力の武器で一気に殲滅する。
相手より数が多けりゃ絶対に勝てる戦術だ。
問題はゾークの数が多すぎることである。
「無理だ! 戦線を維持できない!!!」
「後退しろ!!!」
一般兵はジリジリ後退していく。
そうなるよねー。
でも逃げる所なんてないわけで。
それがわかってる俺たちは突き進む。
「ぐはははは! 楽しいのう! 婿殿!!!」
ピゲットのおっさんが楽しそうに言った。
楽しくない!!!
ピゲットもそうなんだろうけど。
ただの空元気だ。
ゾークが襲ってくる。
ピゲットが盾で攻撃を受け止める。
その隙に俺が一刀両断にする。
相変わらずメリッサは器用に最小の力で無力化していく。
男子どもは勇敢だった。
「俺に彼女がいねえのはてめえらのせいだー!!!」
涙声で世迷い言を叫びながら機関銃を乱射する。
「そうだこのド畜生が!!! なぜレオばかりモテるんだ!!!」
お前ら……。
お前らに彼女いないのはブス決定戦とかやったせいである。
ノミネートされてたメリッサやレンは女子の人気が高い。
レンは庇護の対象だし、メリッサは裏表がなくみんなの友だちだ。
「ほんと男子ってバカ!!!」
クレアが呆れた声を出した。
「うんバカだよな」
「そうだよ! ブス決定戦とかやったから女子全員で無視してたのに!」
女子全員で結託してたのか。
そりゃモテねえわ。
「レオ! 絶対バカどもみたいなことしないでね!!!」
大丈夫だ。
次やるとしても俺は誘われないから。
あのアホども、俺をハーレムキングとか言って勝手に嫉妬してる。
明確にフラグ立ってるのは嫁とメリッサだけである。
しかしイベントが進む気配はない。
ハーレムキングちゃうぞ!
だが男子どもは泣いていた。
みっともないくらい泣いていた。
「俺、ここで手柄を立てて女子にチヤホヤしてもらうんだ……」
自己に都合がよすぎる妄想である。
もう終わったんだよ……。試合は終了したんだ。
「俺は英雄になるぞ!!!」
泣きながら言うな。
「うおおおおおおおおおおお! モテるために! 英雄になるぞレオおおおおおおッ!!!」
人間をやめて手に入るのがモテか……。
割に合わんな。
だが男子どもは人間やめた動きでゾークを殲滅していく。
壁を垂直に登り、天井に張り付き、上から襲いかかる。
ほとんどエ●リアンの動きである。
これが覚醒した童貞だというのか!
10代のモテたいという本能がなせる動きだった。
さてこいつらが必死なのは理由がある。
士官学校の生徒の半分が貴族だ。
貴族だったら婚約者の一人や二人いると思うかもしれない。
だが現実は厳しい。
国から給料の出る士官学校なんかに通わせるのは末っ子と相場が決まってるのだ。
婚約者などおらぬ!
だから自分で嫁をゲットせねばならない。
だが軍に女性は少ない。
正確には事務職や特別職に多いのだが接点はない。
男と徹底的に接触を持たないようになっている。
接触があるのは特別職の弁護士やエンジニアくらいだ。
なんだろうかこの地獄。
かといって一般の婚活市場で軍人の人気はない。
戦闘が起こった場合のPTSD罹患率が嫌なのだろう。
そりゃ戦場から帰ってきたら無職アル中酒クズにクラスチェンジしてたとか嫌すぎるもんな。
特に理由はないが避けられている。
給料悪くないんだけどなあ……。
だから学生時代に嫁を見つけねば結婚の難易度が高くなる。
ゆえに必死なのである。
だったらブス決定戦とかやらなきゃよかったのに……。
ハイティーンの男子の頭の悪さがすべて悪いんや。
ま、俺はすでに既婚者なのだが。(マウント)
既婚者でよかった!!!
みっともない真似しなくてよかった!!!
横を見るとピゲットが呆れていた。
「情けない……我らは……やつらの教育を間違ったのだろうか……」
教師でもないのに無理だと思うのよ。
というか殴っても変わらないんだからああいう生き物なのよ。
「少佐。あいつらはとりあえず殴っておけばいいんじゃないかな?」
「婿殿……」
嫁と結婚してなければ俺もあの中に入っていたかもしれない。
それは中々ホラーである。
男子生徒たちの猛攻はゾークを怯えさせていた。
俺たちはゾークを倒しながらどんどん先に進んでいく。
そして俺たちはある部屋にたどり着いた。
中には俺と同型の機体がいた。
同型!?
「気をつけろ!」
絶対偽物だ!
俺が叫ぶと男子は素早く物陰に隠れ、近衛隊は盾で身を守った。
素早くてよろしい!!!
俺は近づく。
俺しかこんなことしない。
押しつけられた。
やるなよ! やるなよ! 絶対やるなよ!
じゃあやらないもん!!!
俺は手で合図する。
すると男子が一斉に発砲した。
偽物は盾で銃を防いだ。
「愚かなヤツだ」とでも言いたいのだろう。
悠然と立ち上がる。
そのまま俺の方へ歩いてくる。
少し近くに来たらちゃんと見えた。
専用機に見えたそれは生き物だった。
強固な殻と手に持ったチェーンソー。
チェーンソーが音を立てる。
「ギシャアアアアアアアアアアアッ!!!」
偽物が吠えた。
対ジェスター用の新型がそこにいた。




