第五十五話
バーニアが俺の愛機に装着される。
問題は飛んで行ったはいいが、夏のGみたいにしがみつけというのだろうか?
いや穴から入れってのはわかるが、そんな器用に飛べるのか?
バーニアって宇宙空間なら飛べるけど地上だと落下傘代わりだぞ。
そもそも本来飛ぶなら航空機でいいのだ。
本来こんな運用は考えられてない。
今回は相手が頭おかしい生物なのが問題なだけで。
……考えてもしかたない。
やってみるしかない。
「レオ、照準のキャリブレーション終了しました」
今回はクレアも搭乗している。
責任重大すぎる!
二人で壁にぶつかって死亡とか嫌である。
俺は操縦席で飛行ルートを確認する。
今回の作戦は乗り捨て上等の覚悟で軽空母で接近。
あとは気合である。
こんなの作戦じゃねえ!!! ぶち殺すぞ!!!
作戦考えたアホだけは許さない。
この雑さ加減、嫁の案じゃ絶対ない。
なんかムカついたので嫁と通信。
「ねえねえ嫁ちゃん。この作戦考えたの誰よ?」
「皇帝陛下じゃ」
うむ。クソ皇帝……なぜ要所要所で俺に立ち塞がるんだろうか?
あいつを殺さないと俺の幸せはやって来ないような気がする。
なんというか俺たちへの敬意がまったくないところが皇帝らしい。死ね!
「陛下のご命令じゃしかたないな」
俺は棒読みで言った。
列車の中ならまだしも、嫁の近くは監視されてるかもしれない。
「ふ、わかっておるな。失敗は許されん。というか失敗したら全滅じゃ! カーッカッカッカ!!!」
ブラックジョークすぎる!!!
空気が悪くなったのと同時に宮殿の館内放送が流れてくる。
【作戦開始三分前になりました。配置について待機してください】
「おっと作戦前か。では頼んだぞ!」
「へーい。まったねー♪」
ふう、大丈夫。大丈夫。
今回の戦いさえ終わればエッジにバトンタッチできる。
メリッサの機体が近づいてきた。
「うっす。隊長、お先に~」
メリッサはベルトコンベアに乗って運ばれて行く。
俺もベルトコンベアに乗る。
完全リモート運転の軽空母。
経済効率性や責任の所在などの面から通常リモート運用なんてしない超高級品が離陸した。
乗員の代わりに爆弾を限界まで搭載した船は自爆特攻という片道切符、死出の旅路に出る。
一応帰りの船があるとは聞いているがどうなるかわからない。
でも俺たちはやたら明るかった。
俺がいるからどうにかなりそうな気がするって!
責任重大だな!!!
しばらくするとアナウンスがあった。
「超重量兵器【プラネットバスター】発射します。これによって第12地区から第7区までが消滅することが予想されます。乗員は決して安全帯を外さないでください」
超重量兵器【プラネットバスター】。
使われなくなった帝国隣接コロニーを落としてミサイル代わりにする。
要するにコロニー落としだ。
これが効果なかったら次弾は小惑星である。
なお帝都惑星に直撃するコースではないが、五つの地区、それぞれがだいたい地上の一国規模の大きさが消滅する。
戦艦型ゾークがでかすぎて進路予想ができるからこその力技である。
帝都がどうなってもいいから差し違えるという、たいへん頭のおかしい作戦である。
俺はこの攻撃には反対の立場だが、俺が反対したところで皇帝陛下の決定に影響なんかない。
というか、首脳陣以外はみんな反対してる。
アホか!!!
兵士全員の端末に嫁の通信が届く。
「帝国に栄光を!!! プラネットバスター発射ぁあああああああああああッ!!!」
どおおおおおおおおおんっという衝撃が胸を突いた。
体の内側から振動していく。
中継が表示される。
灼熱の槍と化したコロニーが戦艦型に迫っていく。
「ぐあああああああああッ」
戦艦型ゾークが吠えた。
ゾークは灼熱の槍を受け止め天へ押し戻していく。
どっちが悪役かわからん絵面だな。
「よしかかったな!!! 爆破じゃッ!!!」
ドンッ!
【エアバッグ起動します】
風船が衝撃を吸収した。
それほどの揺れに襲われた。
鼻がつまりやがったので触ったら血だった。
クソ! 鼻の血管が切れやがった。
ほんと健康に悪いな!!!
「レオ! 生きてる!?」
クレアが通信してきた。
「鼻血止まらねえ」
「私も! 今止血剤使った! ダッシュボードに入ってるから使って!」
鼻をかんでから点鼻式の止血剤を使う。
これ……しみるんだよな。
ぷしゅっとな。
いってえええええええええ!
「【軽空母そが】大破! 不時着します!!!」
ですよねー!!!
今のおかしいくらい威力ありましたよねー!!!
空が真っ赤に染まっていた。
位置が悪けりゃ一発で沈むわ!!!
俺たちは使い捨ての極みである。
うん、皇帝ぶち殺そう。
今回のは許せん。
戦艦型の頭がなくなっていた。
そこに大きな穴が見えた。
「射出開始します!!!」
間髪入れず俺たちが発射される。
まずは俺。
「ぶっ殺してやるうううううううううッ!!!」
皇帝への恨み全開で俺はカタパルトで放たれた。
バーニアをふかし頭の大きな穴に向かう。
「あははははは!!! 隊長楽しいねえ!!!」
メリッサは喜んでいた。
俺全然楽しくない!!!
「クレア、絶対生き残るぞ」
俺はクレアに言った。
「うん生きて帰ろ」
俺は死なねえぞ!!!
絶対生きて帰ってくるんだからね!!!
超高速で空を飛ぶ。
飛行型がやってくる。
飛びながら撃つなんて無理だ……おらああああああああッ!!!
泣き言を言いながらやってみたら意外にいけた。
護身用のビームライフルで飛行型を攻撃する。
黄色は自爆するから優先的に処理。
衛星軌道からの進入経験がある俺たちは器用に避けていく。
避けられなければ盾で防ぐ。
公爵のところよりはマシだ。
だけど他の連中には難しかった。
次々と落下していく。
近衛隊クラスの操縦スキルが必要だったのだ。
……つまり俺たちって将来の近衛騎士候補なのか。
現場で鍛えられた成果が出たようだ。
なお俺だけ盾がない。
「なぜだ!!! なぜ盾が支給されない!!!」
「見てから避けられるからじゃない!?」
「クレア! お前も大概だからな! それを見て判別できる目だからな!!!」
クレアも砲台で撃ち落としていく。
その正確さは列車での俺なんか足元にも及ばない。
飛行型三匹が突っ込んでくる。
俺は最初につっこんきたヤツの頭をつかんでムリヤリ足場にしてジャンプ。
次に来たヤツをチェーンソーで一刀両断。
最後のヤツはクレアが撃ち抜く。
そして最後に来た黄色をさらに前からやって来た群れの方へ蹴飛ばす。
黄色が爆発して群れは一網打尽に。
俺は穴へ滑り込んだ。
「死ぬ! 命がいくらあっても足りねえ!!!」
「でも到着したから」
ここからが本番だ。
行くぞ! 未来のために!!!




