第五百四十九話
さーて、俺たちがダウンした世界はどうなったかと言うとだね……。
「ぎゃあああああああああああああッ!
悲鳴がこだました。
俺が休んでる部屋にまで聞こえる。
「レンジが壊れた!」
「データが消えた!」
「端末が暴走した!」
俺たちが風邪をこじらせて寝込んで以来こうなのである。
ジェスターどもが風邪をこじらせたせいか、いままで一度も起きなかった機器トラブルがこれでもかと続いてる。
嫁ちゃんの戦艦も給湯器とエアコンの故障で緊急修理してる。
冷蔵庫もダメみたいで食材の一斉処分、この場合は鍋&バーベキューパーティーが開かれた。
当然俺は食えない。カナシイ。
果物だけは支給されたけどね。
自動販売機も一斉に停止。
在庫はパーティーで振る舞われた。
水耕施設にも異常が出て苗は運び出してクロノスの水耕栽培施設で預かりになった。
俺の戦艦は生命維持に関係のあるところまで異常が出てしまい、全面修理になってしまった。
タチアナが寝込んだことでラターニア教やクロノス教などの宗教施設には大量のお布施が舞い込んだ。
座敷童ちゃんの神社にもね。
タチアナの懐に入らないのに。
でも各惑星の宗教関係者は俺たちの回復を祈る集会を開催した。
座敷童ちゃんの神社でも神職さんによる俺たちの回復への祈祷が行われ、多数のクロノス人でごった返した。
不運なことにバトルドームの関連企業が最悪のタイミングで葬儀事業の広告を出し、多方面から怒られたらしい。
なお宮殿の周りには野生動物が木の実を置いて行くのが見られた。
無理しなくてもいいぞ。キミらで食べなさい。
シイの木のどんぐりは美味しいぞ……。
また公共交通機関では決済システムや運行システムがダウン。
半日運行が止まってしまった。
人的被害は出てないのに、被害は甚大だった。
あちこちでパンツのゴムが切れ、スーツの尻が裂けた。
ストッキングは伝線し、おっさんの靴下の指の部分が破れた。
スニーカーはソールの接着剤が剥がれ、革靴もヒールが外れた。
鍋料理は焦げ、子どもたちは学校の机に腰を強打した。
おっさんは家具に小指をぶつけ、おばさんには高い場所に置いた食材が落ちてきた。
そんなのが三日ほど続き、神籬ちゃんの光が消えるとパニックが起こった。
こりゃまずいぞと、宗教施設は本気で俺たちの回復を祈る。
神社も必死に祈願した。
ただの風邪なのに。
そんな中、顔がツヤツヤしてる集団がいた。
元絶望の執事さんとその部下である。
絶望は我々ジェスターとは違い、絶望が転がってなくても生死に影響がない。
現在の状況ではパワーアップしかしないわけである。
そりゃそうか。
たとえ絶望でパワーアップするとしても個人として幸福追求が終わってたら使い物にならなくなる。
本人が自分の存在を許せる程度に幸福でなければ兵として運用できるはずがないのだ。
例えば、俺が公爵会に負けて嫁ちゃんが嫁ちゃんの兄貴のウォルターに取られたとする。
そしたら俺は即日人類を裏切ってゾーク側に寝返ってたはずだ。
滅ぼすに決まってんじゃん。そんな腐った国。
で、中から崩していって人類の自治権を認めさせてたはずだ。そんで嫁ちゃん取り返すと。
と、このくらい人間というのは個人の幸福が重要な生き物だ。
それを捨てよというのはあまりに無慈悲な話である。
つまりゾークマザーは絶望の設計をコンセプト段階で失敗してたのだ。
でもこのかなりイレギュラーな状態なら最強。
つまり絶望はジェスターが動けないときのリザーブ要員とするのが正しい運用方法なのである。
実際、元絶望のおっさんこと執事さんは有能だった。
俺とタチアナに会えず意気消沈するワンオーワンをなだめて、シーユンと一緒に座敷童ちゃんやメリッサと遊ばせる。
そのすきにクレアと次々起こるトラブルの対処に全力で挑む。
サクサクと解決していき、俺の回復までの余裕を作る。
俺はというと、こじらせたが徐々に回復。
そりゃそうか。
いかにマゼラン人が深く絶望しようが、クロノス人や銀河帝国人の方が数が多い。
俺が倒れたとしても風邪だとわかれば希望が潰えることはない。
将来的には希望の総量の方が大きくなる。
一週間ほど寝込んだが回復。
「イモ食いてえ」
見舞いに来たケビンが呆れ声を出した。
「もー! ダメに決まってんでしょ。はい、おじや」
味のある食い物である。
やっぱうまい。
「ケビンありがと」
「どういたしまして。リンゴ食べる?」
「食べる」
ケビンにリンゴをむいてもらって食べる。
うまい!
悲しいことにケビン以外は面会謝絶なのだ。
ケビンはワンオーワンよりあとの世代、人間がかかる病気への強力な耐性がある。
肉体的に強いのだ。
だから嫁ちゃんたちとは違って面会可能らしい。
ケビンたち女性型ゾークを研究すれば人類は病を克服できそう……それは研究者も同じ考えだ。
女性型ゾークの皆さんは喜んで研究に参加してる。危なくないし給料出るから。
ケビンにお世話されてメシも食うと気力が戻ってきた。
「オーゼンとの戦争はどうなった?」
「こっちの船がトラブル続きで準備すらできない状態。給水システムまで壊れちゃったり、動物が発生したりね」
「動物の発生? なにそれ」
「ネズミだってさ」
「へー……」
「問題はね。……かわいいんだ」
「はい?」
ケビンが端末に写真を送ってくる。
ファイルを開くと……うさぎみたいに耳の長い……ハムスターとかモルモットみたいな愛玩動物が映ってた。
かなりの数がいる。
「なにこれ?」
「クロノスネズミだって」
「こいつらが病気の発生源ってこと」
「いや……そうじゃない。彼らは……人なつっこいんだ」
「はい?」
次に動画が送られてくる。
「きゅーきゅきゅ♪ きゅきゅきゅきゅ♪」
歌を歌ってるように聞こえる。
「こうやって乗組員に餌をねだってるんだ」
「人なつっこくて清潔。トイレトレーニングも完璧。歌まで歌えて、お散歩も自分でできるし帰巣本能もある……その……内緒で飼ってる人が多くて……」
……うん。なにやってんだ。
「カラーバリエーションも多くて……その……溺愛してる兵が増えまくって……」
「それでネズミだらけになったと」
「うん……害虫も退治してくれるみたいだし」
……もうわかってる。
「ケビン……飼ってるだろ?」
「ナ、ナンノコトカナ」
あー……なんとなくわかってきたぞ。
弱った俺が回復した原因。
みんなベイビーちゃんを飼いはじめたな?
く、みんな! そんな面白そうなことを!
「い、いやね、行商の人が来てね……」
「あー、うん、いいけどさワンオーワンとタチアナに気をつけて……」
「あー……そうだね……」
あとで絶対ねだられる!
こうして幸運ネズミのおかげで俺たちジェスターは急速に回復したのである。




