第五百四十八話
戦闘よりも後始末が大変だった。
デブリの回収である。
デブリ回収用の自動運転のドローンで回収していく。
戦闘が撤収まで含めて約半日。
デブリ回収に二週間かかる予定だ。
付近の宙域が使えないわけではないが、それでも割に合わない。
失業者が多いクロノス大公国領マゼランの住民を作業員として募集する。
マゼラン人は銀河帝国人と比べてこういった作業には不向き。常にテキトーなのである。
なのでクロノス人の怖い現場監督を置いて作業させる。
まー、いいんだけどさー。
オーゼンが完全沈黙したせいでオーゼンとの貿易業とその関連企業に失業者がかなり出た。
その分の失業者の受け入れ事業である。
そりゃホワイトカラーの会社員にデブり回収やれっていうのは無理がある。
でも人間がやる作業のほとんどが事務と営業だよね~って話。
デブリ回収後の運搬は輸送タンカーの会社なんかに仕事を回せばいい。
オーゼンの戦艦の残骸が大量にある。
荷物が変わっただけさ~。
回収作業は二週間だけど、今回は国家間の正規戦だから海賊とは違ってお宝の山である。
船をバラしてパーツをリサイクルするのは年内いっぱいかかる。
その間にラターニアやクロノスとの貿易の仕事を見つけてもらえばいいっってことである。
クロノスに米を大量に運ぶことになるし。
最近思うのだが、一軍人では考える必要のなかったことまでが俺の仕事になってる。
これまで以上に盤面が大きくなってる気がする。
さーて、我々は作戦後、次の日からマゼラン奪還作戦に移行した。
このまま防衛に専念してもいいけど、どさくさ紛れにマゼラン取っちゃった方が安全だよねって話である。
正直いらないけどね。
こういうのは大義名分が必要だ。
我々はマゼラン人の保護を訴えることにした。
まずは偵察。
ケビンは医師のシフトで忙しい。
今回は偵察班に任せる。
偵察したところ予想通りの状態だった。
一般人は片っ端から収容所に入れられ、倫理的によろしくない改造手術を受けていた。
麻酔なしでね。
四十歳以上は産業的に殺されていた。
細かいことは言わないが中古パーツって扱いだ。
とにかくいま生きてる一部を除いてマゼラン人は男性も女性も子どもも皆殺しだった。
ゾークやプローンに負けたルートの俺らがこれだったわけよ。
俺たちは兵士を派遣。
さすがに保護を訴えてるからには救出する。
すでにオーゼン本隊が撤退してるため救出だけですんだ。
警備用ドローンとの小規模な戦闘くらいだろうか。
それもEMPグレネードで安全に終了する。
警備用ドローンは外部から来た正規兵と戦うものではない。
中のマゼラン人を逃がさないようにするものだった。
救出できた少数をのぞき、生存者はいなかった。
兵士に詰め寄るものや泣き叫ぶものは少なかった。
ただ彼らは絶望を前に動けずにいた。
自分たちが不当にも人生を奪われたことはわかっていた。
だが復讐するでもなく、ただじっとしていた。
これに鬼神国人は激怒した。
鬼神国人にとって復讐は最高の道徳的行為だ。
マゼラン人全員がオーゼンへの復讐をすべき。
それは鬼神国人にとって義務だった。
だからサリアと話し合い。
サリアは鬼神国人の道徳が他の国の人間に適用されないことは理解してる。
だから二人で頭を悩ませた。
中途半端な結末はよくない。
プローンを滅ぼしたのはラターニアだが、とりあえず溜飲は下げた。
ゾークは俺たちが滅ぼした。
屍食鬼はまだどこかで生存してるが、いつもの四カ国にバトルドームまで加えて駆除作戦続行中だ。
復讐の先頭に立つのは二代目聖女タチアナだ。
まさに復讐の真っ最中である。
だが今回の件はマゼラン人の心が折れてしまった。
鬼神国人の望む結果は難しいかもしれない。
「なにかいい方法があればいいんですけどね」
実は案はある。
マゼランという厄介な土地を治めるいい方法だ。
「いやさー、旧マゼラン領を旧家に治めさせちゃおうかなと」
かつてのマゼラン貴族の末裔が見つかったのだ。
三十代の男性だ。
彼をクロノス貴族にしてマゼランを押しつけてしまえばいい。
復讐も何もかもまかせればいい。
将来は独立してもいい。
別にマゼランなんかいらんのだ。
ただ米だけは供給してね!
そういう関係でいい。
問題は報復する機があるかだよね~。
クロノス単体でもいいんだけどさ。
やっぱりマゼランくんにも元気出してもらいたいわけじゃない。
復讐ってのは自尊心と誇りを取り戻すための儀式でもあるのだ。
俺たち銀河帝国人がここまで精神的余裕があるのはゾークに勝利したからだ。
心が折れて腐ったままの国民なんか抱えたくない。
勝利と報復でしか癒やせない心の傷ってのはあると思う。
体育会系そのものの考え方だが、しかたないじゃん!
俺は「お前らは未来永劫下向いて惨めに生きろ」なんて言うほど傲慢じゃない。
敗北からしか得られない成長があるなんてのは、さんざん勝利してから言うものだと思う。
というわけでマゼラン人の兵士を募集。
オーゼン滅ぼしたい人この指と止まれ!
そして数日後、デブリ地帯を迂回して我々の艦隊はオーゼンに進軍した。
さーてここで残念なお知らせである。
ギャグが足りない……。
ジェスターが生きていけない息苦しい空間ができあがっている。
鬼神国人は復讐に身を燃やすマゼラン人の兵士を見てニコニコしてるが、当のマゼラン人はまるで幽鬼のようで……息苦しい。
タチアナは風邪をひき、事前に接触してしまったアリッサもダウン。たぶん感染した。
俺もなんか全身が痛い。
わかってる……俺も発病した。
薬を飲んで療養。
ケビンは内科の経験値が低いので、俺はオンライン診療を受けて薬を飲んだ。
嫁たちは面会謝絶。
そう……ゾーク戦争でも起こらなかった現象だ。
おそらく場の空気が絶望へ大きく傾いたのだろう。
それほどまでにマゼラン人は絶望していたのだ。
俺が寝込んでると座敷童ちゃんが枕元に立つ。
「あ、これ、アレクサンダー大王が死んだときの……」
不謹慎ギャグがポロッと口からこぼれた。
「あきらめないで」
そう言って座敷童ちゃんが俺の頭に手を当てた。
「あきらめないって。俺を待ってる人がいるからね」
「私もルーも待ってる」
「おう……」
親指を立てる。
そこでまた寝たわけよ……。
でさ、起きた俺を待ってたのは惨状よ。
いや笑える程度なんだけど……ジェスターを考え直さないといけない事態に陥っていたのだ。




