第五百四十三話
ケビンのドローンで撃墜されたマゼラン艦の破片を回収。
クロノス艦の傷も検証する。
モノポール使うときの高出力反応は検出したんだけど、なにをぶつけられてるかまではわからなかった。
マゼランの犠牲には敬意を示しつつ、自分たちのゾーク加工された外壁を分析する。
結果はそのうち判明するだろう。
ただゾーク加工が焦げてた。かなりの高出力だ。
連射はできなそうなのが弱点かな?
というところまで推測できる。
これも戦略ってわけよ。
はっきり言ってここで死人が出たとしても将来の犠牲を防げるのだ。
だからマゼランの暫定政府を通して弔慰金を出す。
俺らは守る相手の線引きはしてるが、犠牲者に敬意を示すことは忘れない。
こういうのってさ、ヤンキー界隈では「マゼランが貧乏くじ引いたぜギャハー!」で終わらせる傾向がある。
でもさ、うまくやったつもりが一番恐い。
そういうのは何代にもわたる恨みを買うのである。
だから俺たちは事前に線引きをオープンにしてる。
「自国民は守るけど暫定政府の兵は知らないよ」とちゃんと言ってある。
犠牲者になった兵には弔慰金を払った。
ここでケチケチする必要はない。
たいした額ではない。むしろ信用を買ったと考えた方がいい。
たとえここまでやってマゼランに裏切られてもかまわない。
マゼランはここまでやっても裏切るという情報を得られる。
何十年もつき合って同じ事繰り返してたらアホなんだけど、いまはまだ許される。
暫定政府が弔慰金ネコババしたらもう知らね。
俺らは暫定政府を認めない。マゼランはそこで滅亡である。
新しい政府ができても知らん。見捨てる。
マゼラン暫定政府はいまだ交戦中。
でも俺たちは例のオーゼンに恭順した惑星が足止めになるかと思ってた。
だって自国民を保護しないわけないでしょ~。
これで時間を稼げる……と思ってた。
でもそれはクッソ甘かった。
オーゼンは例の高出力兵器で住民に攻撃を開始。
惑星を蹂躙しはじめた。
やつら自国民の保護なんてする気がなかったのだ。
さすがに「何考えるてるの!?」って話になって俺らも駆けつける。
でもそのころには人型戦闘機が住民の虐殺を開始した。
は?
あまりにも支離滅裂な行動に俺たちはあきれ果てた。
イナゴによるテロまでは理解できた。
俺たちを倒したいって意図はわかる。
だが今回のは理解できない。
建前をかなぐり捨てるにしてもやりすぎだ。
マゼラン暫定政府、要するに首都を中心としてクロノスの領土にはならないことを決定した惑星である。
彼らは即座に艦隊を配置。
マゼラン艦を配置しにらみ合いしてる。
俺らも後方で待機。クロノス領になった惑星を防衛する。
オーゼンが攻撃してる惑星はもうオーゼンの領土だ。
マゼラン暫定政府は認めてないが俺らに関係ない。
抗議声明は出すが軍事作戦をするほどじゃない。
ただ自国領は守ることになる。
あーめんどくさ。
さて、ここまではクズの話。
楽しい話をしよう。
ケビンと姉妹みたいな見た目になったルーちゃんのことである。
ルーちゃんは数日間は生命維持装置の水槽にいた。
拒否反応もないことが判明して病棟に入院することになった。
ここからリハビリをして体の使い方を学ぶ。
それを考慮してセレネーちゃんとは違い小さな子どもの体にした。
軽い体重からはじめて成長するに従って普通に動けるようにとの配慮だ。
まずは起きる練習から。
「お兄ちゃん!」
甲高い声が響く。
実験から数日、病室に行くとルーちゃんがニコッとうれしそうな顔をした。
もうベッドから自分で起きることができるようになった。
毎日お見舞いに行ってる。
病室にはクレアと意外なことに例の女性アナウンサーさんがいた。
「あ、ども」
頭を下げる。
なぜかほほ笑まれた。
営業スマイルじゃなさそうだ。
いや、バリバリにマスコミ業界で働く大人の女性の微笑みを見分けられるほど人生の経験値があるわけじゃないけどさ!
「取材?」
クレアにそっと聞く。失礼にならないように気を使いながらね。
「ううん。あのねレオ、あとで正式に話が行くと思うけど……彼女はスーさん。クロノス国営放送のアナウンサー部の部長さん」
大ベテランであった。
するとスーさんがひざをついた。
「大公陛下。お願いがあって参上つかまつりました」
「あの普通に座ってください。それでお願いって」
床は固くない。
部屋はルーちゃんの事故防止のため壁まで衝撃吸収材で覆われてる。
それでも女性をひざまずかせるのは少々見た目がよろしくない。
「ルーちゃんを正式に養子にしたく存じます」
「お、おおおおおおお……」
実はそれが問題だった。
どこの誰かわからない問題である。
わりと高確率でありそうな話としては、奴隷だったラターニア人の子どもで実験した場合である。
ラターニアが目の色変えて取り戻しにくるかもしれない。
それはラターニア側とも話し合ってて、とにかく俺の嫁たちは不可。
銀河帝国貴族もだめだって。
カミシロ家に頼ろうと思ってたのに。
身柄がもめた場合、銀河帝国に拉致することも可能だからだ。
「クロノス大公のことは信用してるが、それでも実験動物扱いされるのではという世論に配慮する必要がある」というのだ。
なのでラターニア人かクロノス人にしろと言われてる。
あ、「鬼神国人にしたら戦争だぞテメエ」とも言われてる。あ、はい。それはないッス。
それなりに筋は通ってる。
それで誰がいいかなって話になったのだ。
いやほら、露骨に軍のお偉いさんにしたら怒られる。
だからどこかの社長かなと考えていた。
でも完全に太鼓判押せる人物って難しいのよ。
そしたらちょうどいい人物の登場である。渡りに船である。
「えーっと……ルーちゃんはどうしたい?」
「よくわからない」
「ですよねー」
そりゃいままで家族いないもんね。わかるはずないよね。
俺が悪かった。
クレアを見る。
「私はこのお話受けた方がいいと思う」
「えっと……旦那さんは……?」
スーさんに聞く。
「イナゴテロで行方不明になりました」
口を滑らせた。さすがにそこまでは調べてないよ~。
「スンマセン……」
「いえ、陛下はがんばっておられると思います」
うむ、人柄は悪くない。
なんかキッチリした人だなという印象だ。
成人してもなおキッチリしてない自分の手をそっと見る。
「えーっと私だけでは決められません。役所の調査が入ると思います。大丈夫でしょうか?」
仁義を通さねばならない機関が山ほどある。
軍でしょ、児童擁護局でしょ。少年保護センターでしょ……。
あ、外務省もか。
スーさんもとてつもなく大変な決断をしたものだ。
思いつきじゃなさそうだ。
その証拠にスーさんはほほ笑んだ。
「ええどうぞ。ルーちゃんの幸せのためにもきっちり調べてください」
「えーっとルーちゃん。スーさんがママになってくれるって」
「ママ?」
ですよねー。俺もわかんない。
うちの母親、背中で語るタイプだし。
クレアがふふっと笑う。
「家族って意味だよ。ルーちゃんはスーさんの家族になるの」
ルーちゃんはよくわかってないようだった。
ルーちゃんを祝福してか神籬ちゃんから街に光が降り注いだ。
それを見てクロノス人は神が喜んでるとうわさした。




