第五百四十話
それは未明に起こった。
俺たちが発光する座敷童ちゃんの問い合わせに追われる中で起こった。
ほとんど収穫し終わった田んぼに火がつけられた。
可燃性物質、おそらくガソリンかバイオエタノールか、それともゴミから精製した油か。
もしかするとナパームかもしれない。
とにかく揮発性の可燃物がまかれ、火がつけられた。
残った稲は調査用のものだ。
それらは灰になった。
また隣に作った畑にも延焼。
これは俺のじゃなくて商社が実験してた畑だ。
蕎麦の実や雑穀、それに大豆を試験栽培してた畑も燃えてしまった。
収穫前の蕎麦の実が燃えてしまった。大豆も灰に。
特に大豆は大豆として収穫する予定だったので乾燥した状態で一気に燃えたとのことである。
両方とももうすぐ収穫だったのに……。
枝豆として確保しておけばこんなことには……。
ワサビはちょっと離れたところでやってたので無事。
商社の農業試験場は大打撃を受けた。
カミシログループでやっておけばよかったな……。
そしたら俺の私兵を使えた……って、冷静に考えたら予測不能だから同じ結果か……。
犯人は雄々しく名乗り出た。
「クロノス教の元神官だってさ。なんでも異国の神の神殿を作ったのが気に入らないってさ」
メリッサがそう言った。
座敷童ちゃんの神社のことである。
ビキビキと青筋立ててる。
普段パン派でも米を食べたいときもある。
そりゃキレるわ。
特に銀河帝国の米が来るまで二ヶ月、マゼランの米ができるのが来月、そして俺の田んぼのお米様はあと少しって状況ならね。
皆、静かにキレてた。
座敷童ちゃんのことみんな好きだしね。
俺は定年退職したおっさんみたいに蕎麦を打つ。
蕎麦粉はまだあるのだよ。
帝国の誇る技術により、そば切りは専用パスタマシーンでなんとかなる。
生地は適当。
正確に言うと毎回出来の幅が大きい。
だめなときは本当にダメ。
だから蕎麦屋にはなれないなと本気で思う。
蕎麦粉はクロノス産。
一部地域で食べられてるようだ。
汁はニーナさんが鶏で出汁を取ったもの。
昨日はちゃんと寝たようで肌がツヤツヤになったケビンが川海老の天ぷらを揚げる。
ただ二人とも態度に出さないだけでキレてた。
養殖してたわけじゃないけど増えまくった川海老はほぼ全滅……。
在庫もこれが最後だ。
生地が完成してというか、放火されてから一晩中ずっと打ってた生地を作り終わった。
蕎麦用パスタマシンで切ってキレ散らかすニーナさんに蕎麦を渡す。
茹でてくれるそうである。
手打ち蕎麦……作れるけどあまりやりたくない。
絶対これ、次ラーメン作れって流れでしょ!
というわけで、海苔なんかを乗せてお蕎麦完成。
肉蕎麦で少し太麺。
これはうまい!
すると嫁ちゃんが絞り出すように言った。
「許せんな……」
お米様……それは我ら銀河帝国人の魂。
「でもさー、クロノス教と対立するわけにいかないじゃん」
俺がそう言うと疲れた顔のクレアが言った。
「クロノス教はそんなことより神籬ちゃんのことが重要みたい。レオは神に選ばれた英雄だって」
「元神官は?」
「殺してもいいって」
創世神話を再現しまくりのせいか。
「クロノス教は俺に敵対は?」
「する気ないって」
「俺のところを攻撃する理由はないわけね。つまりさー、誰かに空気入れられたってことだね」
そう考えると海賊で俺たちの荷物を狙った連中も同じだろう。
クロノス内でのテロを誘発してる。
しかたないよね。
政治は全員を救うことは不可能だし。
全員が全員少しずつ不満を持ってる状態が最良くらいだもんね。
政治家ができるのは福祉政策の塩梅の調節と失業率の改善くらいだろう。
それが難しいんだけどね!
で、どうやったって漏れる人間がいる。
その人たちをテロリストにすると。
もしくは子どもを洗脳するとか。
やだわー。そういう楽しくないの嫌いだわー。
こう、ゼン神族ってどうして嫌われるようなことばかりするかな?
それにしても……どこに殴り込もう?
振り上げた拳の落とし所がない。
ズルズル蕎麦を食べる。
パスタマシンの設定を太麺にしてよかった。
「そもそもさー、米をなんで焼いたのよ。俺たち怒らせるだけだろ!」
イソノが叫んだ。
「犯人がさー、不老不死は神の意思に反するって」
俺が答えるとイソノがキレる。
「俺たちもしねえって言ってただろが!」
「だよねー。マンガもアニメも不老不死って悲惨な末路だしね」
俺たちは不老不死へのあこがれはない。
やだよ世界が滅んでも生きるのなんて!
「そもそもさー。神社だって嫌われてないじゃん。クロノス教を信仰してても来てもいいよって施設だしさ!」
そうなのである。
そもそも神社とクロノス教は敵対してない。
クロノス教は神社を神籬ちゃんの管理者として厚遇してる。
俺たちだってクロノス教に介入しない。
神社も特に勧誘もしてない。
クロノス教へは信者の財産巻き上げるとか、信者に性的搾取をするとか、そういうのを禁止して法律を守らせてるだけだ。
クロノス教からしても、そういう膿を出してもらえた方がありがたいと言われてる。
俺ちゃんと話し合いしたもんね!
だからクロノス教からも嫌われてない。
敵対する意見も一般的じゃない。
クロノスの報道も俺たちに同情的だ。
ただの栽培実験場なのは事実だし。
なんてお昼は終わり。夜はパスタでも作るか。
尻尾をつかませてくれないんじゃ……なにもできないよね?
なんて思ってたんだけど、バカの方が尻尾を出しやがった。
次の日のことである。
「オーゼン連合はクロノスへ宗教弾圧の停止と不老不死実験の停止を求める非難声明を出しました」
外務省に言われて俺は口を開けてアホ面してた。
お、おう。
実験もクソもなにもしてねえぞ。
おめえら……どんだけ不老不死に憧れてるんだよ。
「あー……うん、ムカついた。今までルーちゃんの幸せを一番に考えてたけど、もう我慢ならねえ。情報出すぞ! ルーちゃんに許可取りに行ってくる」
そういう小細工さ。
残念ながら俺も得意なのよ。
はっはっは、認知戦挑むのね!
そういう態度なのね!
俺、もう許さねえよ。
食い物の恨みは恐ろしいのだ。




