第五百三十七話
クロノス大公の朝は速い。
夜も明けぬうちに起きて雑木林に隠した芋が逃げないか見回りを……。
ガッデム!
本当に撤去しやがった!
上が枯れてきたからそろそろ収穫だったのに!
たしかに土嚢袋は破れてたが……。ひどい!
「ふああああああぁ、おはよーなのじゃ」
ゴシゴシと目をこする嫁が通信してきた。
「うん? どうしたん?」
「芋は倉庫じゃー……言うの忘れてた。寝る」
「おやすみー」
芋は倉庫らしい。
いもー♪ いもいもー♪
踊りながら倉庫へ。
お、あった。もう収穫されてるけど、俺の非常食。
「朝食は芋でありますか?」
ワンオーワンがどこからともなく現われた。
芋を狙ってる。
「いや朝食は宮殿の料理人が……」
「自分は陛下の手作りが好きであります!」
目をキラキラさせる。
「あ、うん……わかったから!」
というわけで一品は作る。
クロノスの芋。じゃがいもっぽい。
軽く茹でて蒸して塩とバターでじゃがバターと。
クロノスの料理人、高級ホテルの料理長クラスの人なんだけど……もうあきらめてるので文句は言わない。
スンマセン……限りなく庶民に近い貴族出身なもので……。はい。
朝ご飯だしね~。
朝ご飯はクロノス料理。厨房は朝早くからフル稼動だ。
だって大公以下、銀河帝国から出向した国務大臣や俺の部下たちがここでご飯食べてるしね。
俺は隅っこで「スンマセン」と謝りながらじゃがバターを作る。
料理人たちもプライドがある。
素人がウロウロしてたらキレてもしかたない。
でも我慢してくれてる。感謝しかない。
完成したら「あとはやっておきます」と若い衆に言われた。
「出てけ」という意味である。
あ、はい。
窓の外を見ると完全に夜が明けていた。
歩いてると格技場で稽古するメリッサがいた。
「おはよ。やる?」
悲しいことに色っぽい話ではない。
スパーリングのお誘いだ。
「へーい」
防具を着けて竹刀を握る。
カトリ先生とのスパーリングで使ってる超兵器の木刀じゃなくて普通の竹刀ね。
普通のスパーリング開始。
メリッサは強い。
古武術の家系だしね。
生まれたときからやってるのだろう。
剣をさばいていく。
あー、こりゃヤバい。
カトリ先生クラスの速さだ。
はっきり言うけど、俺の技術はいまだに達人の域には達してない。
パワーと反射神経で補ってるだけだ。
メリッサは俺と比べて繊細な攻撃だ。
達人の領域に手をかけたのかもしれない。
エディとかメリッサは同じ条件で勝てる気がしない。
俺とリコちは技術的には粗い。
それを扱える武器の広さやパワーで補ってる。
逆に言えば銃も剣も達人の入り口に立ってるエディの化け物っぷりはおかしいレベルだろう。
レンは射撃専門だし、エッジは超能力型。
クレアは……本来射撃型なんだけど……。どうしてこうなった?
あ、俺もか。剣の専門家なんて思われてるけど、専門家の手にかかると……。
「はい、一本」
パコーンっと頭に一撃を食らった。
ですよねー。
「やっぱり勝てませんよねー」
「でもさー、隊長は例の木刀もってきたら無敵だよ。こんな竹刀へし折られちゃう」
竹刀での戦いに日本刀持ってくるみたいな話である。
つまり条件が最初からおかしい。
「俺が例の木刀もってきたらメリッサは真剣出すでしょ。そしたら俺逃げるし」
「……それもそうか」
俺は真剣相手だったら本気で逃げる。
だって勝てる勝てない以前に怪我して危ないもん。
怖い思いしてメリッサを倒すメリットないし。
リコちとの関係と同じだ。
俺ら男子どもはリコちのウルミを攻略できてない。
でも素手や剣で戦ったら俺らの方が強い。
だからと言ってリコちより俺たちが強いわけじゃない。
リコちから見ても俺たちより強いなんて思ってないだろう。
異種格闘技戦、それも武器部門なんてそんなものだ。
条件一つ変わるだけで勝てなくなる。
そんなんで何本かスパーリングしたが勝てず。
そしたらエディも来て朝の稽古をする。
俺はメリッサに館花流を学ぶ。
エディは「俺は他流やるほど器用じゃない」と拒否された。
ま、普通はそうか。
俺は器用なタイプなので館花流を学ぶ。
カトリ先生との戦いで使おうっと。
シャワー浴びて、ここでようやく朝食。
朝はクロノスの朝食。
さすがに物資不足が収束した現在は餃子じゃない。
うどんみたいなのとパンというかそば粉のクレープだ。
俺が蒸した芋も盛られてる。
クレープにはイワシっぽい魚のオイル漬けとチーズを載せる。
漬物もついてる。
今日はカミシログループが買ったマゼランの漬物である。
キムチみたいな辛いやつ。美味しいなこれ。
うどんっぽいのは鳥出汁みたい。
そこにパクチーみたいな香りの葉っぱが乗ってる。
稽古した体に染みる。
すると男子がつぶやく。
「納豆と白いご飯食べたい……」
「……やめろ」
他の男子がたしなめた。
白いお米様はマゼランで作ってる。
ちょうど植え時の惑星があったのだ。
いま向こうは夏の終わりだ。
あと1ヶ月で収穫かな。
そうマゼランは政治的にはお荷物なのだが……俺たちが個人的に必要という微妙な立場である。
うーん……困ったものだ。
クロノスはいま冬。
そういや外に大根干してたわ。
そろそろタクワン作ろうか。
大公ってなんだっけみたいな思考をしてるとヨロヨロとケビンがやって来た。
「手術終わった~」
「あ、うん。がんばれ」
「がんばる~」
帝国の医師もケビンの能力を認めてる。
生かさず殺さず全力で技術を叩き込んでる。
しかも、指導医自身が各人種の体の違いなどの勉強も死ぬほどしてるというから驚きである。
検体があれば解剖しまくるし、並行して論文も書きまくってるんだって!
……医師たちの体力が化け物すぎる。
ケビンは現在はまだ銀河帝国人の治療だ。
すでに軍人だけでも恐ろしい数がいる。
それだけいると手術が必要な病人やケガ人も毎日出るのだ。
その結果がこれ。
ケビンの経験値がすごいことになってる。
ゾークの能力でもついていくのがやっとだそうだ。
その過酷さは看護師資格を取得したワンオーワンが「自分は医師にはならないであります!」というレベルである。
タチアナも看護師資格を取ったが「無理ッス」と言ってる。
たぶんタチアナは回復能力を持つ聖女として医学を強制的に学ばされると思う。
俺……王様でよかった。
するとケビンがつぶやいた。
「白いご飯食べたい……」
ですよねー!
ホント、そうですよねー!
みんなもうなずいた。
そう、白いお米様……。大事。
そこから話は始まる。




