第五百三十三話
我々は雪原仕様の戦闘服に身を包んだ。
雪上迷彩のやつ。
「がるるるるるるるー……」
嫁ちゃんまで野生化してる。
俺たちはそれほど空腹だった。
だって食料品を奪われたのだ。
食糧を買いに行こうと思ったら、スーパーははるか遠く。
地元の商店はイナゴ騒動ですでに廃業。
地元農家も真冬のためか販売可能な食材はなし。
食糧輸送をあてにしてたため、カップラーメンもなし。
あるのは、クロノス民の大半も嫌ってるビール酵母と野菜を発酵させたペーストのみ。
健康食品であって普段食べるものじゃない。
さすがにこれは軍でもお残し厳禁の例外となっている。
発酵したセロリの香りだけは俺も無理だった。
好き嫌いの多い子どもへのオシオキで食べさせられたもの多数。
そして余計に嫌いになったわけである。
なおタチアナだけは「まあまあッスね」と普通に食べられる。
タチアナのまあまあは「マズい」という意味ではないかと最近思うようになった。
ただ問題なのは、このペーストは何かにつけて食べる食品であって主食じゃない。
主食は……ない。
タチアナすらこの極限状態を共有してた。
そんな嫁ちゃんは帝国近衛騎士団の運転する雪上戦車に乗ってる。
俺たちはスノーモービルで移動。
山賊どもの居場所はわかってる。
回収のための位置情報タグがついているのだ。
もう許さん。
エンジンと腹の音が鳴る。
もはや容赦なし。
酒飲み連中も乾き物の枯渇により凶暴化。
あとシメのラーメンとうどん寄こせとキレてる。
ほうとうの在庫はない。
俺たちがすでに食い尽くしたからな!
せめて小麦粉とキャベツがあれば……粉物焼いたというのに!
砂糖と重曹、それと卵があればデザート系が作れたのに!
ええい! 許さん!
正義の怒りを見ろ!
ということでスノーモービルで近くの山まで接近。
「ドローンで偵察するね」
腹ぺこケビンがドローンで偵察。
ゾークは代謝がいいのでつらいだろう。
同じくワンオーワンも「ぐるるるるる」とうなってる。
護衛の元絶望の執事さんたちも悪魔のような顔になってる。
空腹ダメ絶対。
タチアナはその辺の木の実や野草を取ってた。
「お、ノビルあるじゃん」
たくましい。
「ほれワン、フユイチゴ食べるか?」
「食べるであります!」
ミネラルウォーターで洗ってワンオーワンに渡す。
ラズベリーみたいなやつだ。
というか……。
「タチアナ……サバイバル適性高くないか?」
「貧乏なコロニー出身だからよ。野草しか食いもんねえときがあるんだよ」
恐ろしいほどの説得力である。
「キノコにだけは手を出すなよ……難しいから」
「しねえよ」
「もー! イチャイチャしない! 終わったよ!」
タチアナと話してるとケビンの偵察が終わった。
なぜかプリプリ怒ってる。
「それでアジトは?」
「軍事キャンプみたいになってる。民兵がかなりいるよ」
動画が転送されてきた。
へー、たぶん首都星だしクロノス人かな。
マゼラン人じゃなさそう。
鬼神国の戦士どもが期待に満ちた目で俺を見る。
……わかったって。
「はい、鬼神国グループは正面から突撃。俺は裏から侵入。他は各班のリーダーの指示に従ってください」
「酒ーッ!」
あ、鬼神国勢は酒飲みグループだったか。
鬼神国人がアジトに突撃した。
「ヒャッハー! オラァッ! 食いもんはどこだー!」
宇宙海兵隊の戦闘術が身についた鬼神国人は最強。
パーソナルシールド張って銃撃の雨の中を突撃する。
「ぐはははははー! メシーッ! 酒ーッ!」
山賊どもも銃で応戦するがもう遅い。
普通にぶん殴られる。
エディたちはサイドから。
「爆破!」
ボンッと時限爆弾で壁を爆破してなだれ込む。
「米と小麦粉が最優先だ! とにかく主食を確保しろ!」
どちらが山賊がわからない。
エディですらこれだ。
文化的大公である俺はと言うと裏から入って音もなく敵を片づけてた。
後ろに回ってタオルでキュッ。
結束帯で拘束。
なぜか撮影ドローンが俺に随伴してる。
いいの?
今回は派手なアクションないよ。
近衛隊がボコボコにしていく。
この程度の相手なら素手で充分。
俺もサクサクス進んでいく。
山賊と出くわして拳銃を向けられたので雪でビチョビチョのタオルをムチ代わりにして叩き落とす。
このレベルの連中とまともに戦ってられるかよ。
なんかムカついたので顔面もタオルのムチでビンタ。
はい失神。
俺はこんな感じ。
そして女子組。
リコちがロケランで壁を破る。
「ごはんーッ!」
凶暴化した女子たちがなだれ込む。
最速で無力化。
そこに容赦なんてなかった。
本当にボコボコにしていく。
女子たちが歩いた場所にはペンペン草すら生えない。
クレアもレンもメリッサすらも。
略奪者と化していた。
幸い言葉通り道草を食ってたタチアナとワンオーワンだけだろう。
なおシーユンは嫁ちゃんと戦車の中である。
あ、戦車、忘れてた。
「婿殿ー!」
あ、やべ!
「ファイアー!」
まあ雪上仕様だからたいした装備じゃないんだけど……。
主砲をぶちこんだ。
「ぎゃああああああああああああ!」
山賊が泣きながら逃げ回る。
「ここここここ、殺すなー!」
ちゅどーん!
「ひぎいいいいいいいいいいッ!」
ちゅどーん!
「や、やめ!」
ちゅどーん!
情け容赦なしの砲撃がバカどもに浴びせられた。
はっはっはっはっは!
もう笑うしかない。
でだ、俺たちは施設の奥に行く。
そこで近衛隊がとんでもないものを見つけてしまったのである。
「陛下。子どもです」
「はい?」
地下に向かうと檻に入れられた子どもたちがいた。
「あー、えっと、王様ッス。みんな元気?」
いや俺も焦ってたのよ!
この間抜けな挨拶をするくらいに!
俺を見た子どもたちが一斉に泣き始めた。
「本物のおうさまだー!」
「あ、うん、本物だよ。みんなどうしてこんなとこにいるの?」
「知らないおじさんに連れてこられたの……ふえええええん!」
半分ふざけてた俺も真顔よ。
「妖精さん見てた? 警察と児童擁護局、それと海賊ギルドにすぐ連絡。『人身売買は殺すって言ったよな?』ってメッセージ送っておいて」
「あいさー!」
「全軍、人質を救出した! 子どもだ! 保護を優先せよ!」
いままでキレながらもどこか余裕のあった俺たちだが……一気に笑顔が消えたわけである。




