第五百三十話
「実験はまずはコピーちゃんで行います」
俺が原稿を読むと本人に訂正される。
「セレネーです」
「うん?」
「私の名前はセレネーです。自分でつけました。えっへん!」
「ういー了解。コピーちゃん改めセレネーちゃんの体を作る実験です。えーっと嫁ちゃん、アマダの野郎にはなんて?」
セレネーちゃんはアマダの個人秘書みたいなものである。
「皇族との縁談が舞い込むかもしれぬと言ってある」
たしか妖精さんは皇籍が回復した。
妖精さんの姉妹って枠なのだろう。
「なあに一人二人増えたところで誰にもわからん」
「なるほど」
ということでアマダの野郎は呼んでない。
びっくりさせるとかではない。
反対するだろうからだ。
俺らからすれば本人の意思が一番だよね~って話だ。
魂の有無はわからない。
科学的に測定する方法がないからね。
だからリスクはある。
そもそも初めての実験だしね。
「はい、じゃあやりますね!」
妖精さんが帝国のサーバーに戻る。
そもそも妖精さんはどこにでもいて、どこにもいない存在である。
うーん、物理攻撃はできないとしても反則級の力だ。
ここからは中継だ。
セレネーちゃんの体は用意してある。
ただゾークの繭に入ってる。
女性型のゾークはこうやって体を作り替えるそうだ。
だから外見はわからない。
「おりゃああああああああああああああああ!」
妖精さんが気合を入れる。
装置が稼働する。
眩い光、なぜかゲーミングに輝いていた。
妖精さんは光通信で人格を転送とかテキトー極まることを言ってたが、本当のところはよくわからない。
とにかく妖精さんの能力で人格を転送する。
人格の転送での失敗は少ない確率だと考えられている。
妖精さんは自分で何度も成功してると言ってる。
女性型ゾークも似たようなプロセスらしい。
つまり既存の技術の組み合わせである。
ワンオーワンが目を輝かせた。
「新しい仲間の誕生であります!」
あー。やはり扱いはゾークなのか。
ゾークの女王がそう言うのならそうなのだろう。
ドンと音がした。
画面がガタガタ揺れる。
実験体ちゃんも見守っていた。
タチアナは珍しく黙っていた。
タチアナは賢い。理解できないものに余計なコメントはしない。
繭を破って少女が出てくる。
だけどバランスを取れず下にべちゃっと落ちた。
控えていた看護師たちがあわてて駆け寄る。
うーん、かなり柔らかい衝撃吸収マット敷いててよかった。
「か、体が動かせません……」
セレネーが小さくつぶやいた。
声帯もまだうまく動かせないようだ。
羽化したばかりの蝶みたいなものか。
「お、起き上がれない……た、助け……」
もがいてる。
看護師数人がかりでストレッチャーに載せた。
成功したんだと思う。
ここからが俺たちが心配してる部分だ。
免疫である。
女性型ゾークなので病気には非常に強い。
だが、そもそも女性型ゾーク自体が『たくさん作って生き残ればいいや』方式なので油断できない。
羽化失敗や羽化した後の病気で死ぬものも結構いるようだ。
ここからは免疫が安定するまで毎日血液検査をしながらリハビリの毎日である。
筋力に関しては数日で人間を凌駕するらしい。
だから日常生活でのコントロールを学ぶ。
「はーいセレネー。なにかお姉ちゃんに言い残すことはありますか~?」
「ゾークになったら自動的に巨乳になると思ってた。貧乳にしたやつを許さない」
哀れ……。
「あ、あのね。ボクも女の子になった当初は胸大きくなかったよ。半年くらいかけて大きくなったよ」
ケビンがフォローした。
そうだったらアマダも喜ぶネ……。
そもそもセレネーの体は10代半ばにしてある。
若い方が神経の回復が早いだろうというという思いやりである。
「成功しちゃった。歴史が変わるね……」
今回の記録は編集して友好国に送る予定だ。
詳しいメカニズムは俺たちにもわからない。
それに妖精さんがいなければ再現できない。
タチアナの聖女結界、妖精さんの魂と情報を相互移転する能力、それに俺が長老からもらった回復の力もメカニズムはわかってない。
そもそもタチアナ&ワンオーワンのワープに俺の鬱フラグ回避能力あたりになると測定すらできない。
なんもわからんのだ。
他の国に情報が漏れても再現なんてできるはずもない。
「永遠の命はお断りする」って言ってあるしね。
そもそも俺も嫁ちゃんも妖精さんすらも永遠の命を望んでない。
大国にガタガタ言われる筋合いはない。
なんであれ最初の段階は成功した。
これで妖精さんや実験体ちゃんの体が作れる。
女性型ゾークになったおっさんたちも救えるかもしれない。
なんか大半が望んでないっぽいけど。
若返ったしね……。
そして1ヶ月後。
セレネーちゃんは事情を隠してアマダをお見合いした。
俺たちはケビンのカメラで観戦。
違う! 興味本位じゃない!
これも科学的な観察であって……嘘です。興味本位です。
セレネーちゃんは和服におめかしして登場。
アマダの野郎も精一杯のおめかしして現われた。
まずはご挨拶。
侍従が説明する。
「第129皇女殿下にございます」
するとアマダは首をかしげる。
「お前……いや貴女様……もしかしてレネ子?」
「なぜバレた!?」
レネ子ことセレネーちゃんがびっくりした。
なんで会話する前にわかるの?
アマダの超能力だろうか?
いや、だが、検査では陰性だったはずだ。
「いやだって……その仕草……レネ子だし」
「もーしかたないですねー。アマダくんは私のこと好きすぎですねー♪」
「い、いや、その前に、人間だったの!?」
「ふふふ、帝国の科学力なのですよ~。それでアマダくん。なにか言うことは?」
「和服似合ってる。すげえかわいい」
「ふふふふ。我ながら、お顔がいいですからねー。で、どうします?」
「どうするって?」
「気に入りました?」
「友だちからよろしくお願いします……」
アマダ陥落のお知らせ。
女子たちはジュースを持ち寄り「かんぱーい!」とパーティーを始めた。
俺もやるか。
「たこ焼きでいい?」
「うん! 頼んだ!」
嫁ちゃんも喜んでる。
こうして俺はおやつを作るのであった。
「手伝うよ」
ケビンもね。
ケビンは今回のデータを医師チームとまとめてる。
共同執筆者の一人になるようだ。
そんな状況で忙しいはずなのに手伝ってくれる。
ニーナさんも手伝ってくれる。
「イソノ、ベビーカステラ焼いて」
「へーい、行くぞ中島」
こうしてアマダは捕まり、俺と同じく既婚者になるのだった。
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