第五十三話
嫁が来てくれた!
だがこの列車だとは気づかないかもしれない。
落とされるかよ!
砲台のビームで撃ち落としていく。
死なねえぞ!!!
おめえらなんて怖くねえぞ!!!(怖い)
だけど圧倒的に多勢に無勢。
撃ち漏らしが飛来してきた。
空から一直線に俺がいる砲台にぶち当たる。
バキッと音がして砲台の装甲がへこんだ。
飛行型は体液をまき散らし下に落ちる。
「ふう……死なずにすんだ」
息を吐いて砲台を回転させ……【ガガガガガ!】……うそ!!!
ギアがズレたのかハズれたのか。
とにかく砲台が回転しない。
嘘だろ!
嘘だろ!
嘘だろ!
狙いがつけられない!
その間にもガツンガツンと飛行型が体当たりを仕掛けてくる。
……うん? 待てよ。体当たり?
威力が弱くないか?
列車の装甲は壊せるだろうけど。
そのとき俺の頭が急激に冷静になった。
体当たりを仕掛けてくる飛行型ゾークの中に黄色い個体を見つけた。
「そういうことか!!!」
俺は慌てて砲台から逃げ出す。
ドカンと音がした。
耳がキーンとする。
ああ、クソ!
野郎ども自爆するのか!!!
しかも体当たりだと思って油断させといて、その中に自爆型を仕込んでやがった!!!
ああ、クソ!
ぶっ殺してやる!!!
天井が破れて空が見えた。
兵が倒れていた。
背中に天井の破片が突き刺さってる。
すぐ脇に実弾のアサルトライフルが落ちていた。
俺はそれを取る。
飛行型が降ってきた。
俺はそれを撃つ。
飛行型は柔らかい。一発で貫通した。
まだ耳はおかしいままだった。
ヨロヨロと隣の車両に移動する。
健康に悪いな……この生活。
「クッソ、ぶっ殺す」
先ほどからボキャブラリーが貧困の極みに陥っている。
ぶっ殺すしか会話テーブルがなくなっている。
耳がおかしいせいか体がよろける。
隣の車両につく。
そこは地獄だった。
列車の壁はすでに破られていて兵士が飛行型に蹂躙されてた。
兵士の戦闘経験が足りない!
「ぶっ殺す!」
ぐあんぐあんする脳味噌でぶっ殺すという言葉を絞り出すと車内の飛行型を撃ち抜く。
一匹、二匹、三匹……四匹!!!
次々撃っていく。
すると食われそうになっていた兵士が俺に気づいて声を上げた。
「れ、レオだ! レオ・カミシロが来たぞ!!! おい! ゾーク殺しの英雄が来たぞ!!!」
右耳からどろりと暖かいものが流れた。
あれ? これ鼓膜やったか?
讃えられるたび耳がキンキンする。
「次来るぞ!!!」
俺は外から飛来したゾークを撃つ。
兵士たちは慌てて戦闘を継続する。
さらに数匹を撃つ。
軽い。アサルトライフルの弾が少なくなった。
その辺にあった弾薬箱から弾を取ってリロード。
飛行型をぶち殺しながらさらに後部車両に進む。
背中に称賛の声がかかった。
「レオ! レオ! レオ! レオ! レオ!」
すまん。
マジで耳が痛いので……その手加減というか……。
奥の車両は貨物コンテナだった。
だけど荷物は物資ではなく人間だ。
壁がぶ厚い。
それに攻撃されてない。
危険性がないと思われたか狙われてないようだ。
中には一般人がいた。
「レオくん!」
お胸を揺らしながらケビンがやって来た。
「ちょっと! その血! 耳から血が出てる!」
やっぱり鼓膜やられたか。
「ナノマシンで治療するからそこ座ってて!!!」
床に座らされる。
よく見るとあちこちで兵士が治療を受けていた。
というか目もおかしいぞ。
「ギャー!!! 血が目に入ってるって!!!」
なんかしみるなと思ったら血か。
水で洗われる。
「注射するよ!」
注射器を首に刺された。
ナノマシンでの治療である。
「ナノマシンが安定するまで休憩してて!」
少し呆ける。
耳は今度はドクドクいってる。
嫁はどうしただろうか?
「ケビン、嫁はどうしてる?」
「今中継やってる! いい子で見てて!」
幼児扱いである。
ケビンくんさあ、キミ看護師とか衛生兵に向いてるんじゃない?
そんなことを思いつつ端末から中継を見る。
近衛隊の戦艦が宮殿から飛び立ち巨大なゾークと対峙する。
戦艦型ゾーク。
嫁の船の数倍の大きさがある。
それが狙いを定めずに無差別攻撃を繰り返している。
ヴェロニカの戦艦がビーム砲を発射した。
ビーム兵器が効果のある相手のようだ。
だが大きさが違いすぎる。
表面を切り裂くだけにとどまった。
戦艦型ゾークは嫁を一切相手にせず破壊を楽しんでいる。
たぶん……嫁キレてると思う。
しばらく近寄るのやめよ……。
バーニアつけて突撃させられそうだし。
「婿殿! いまどこじゃ!?」
はい休憩終わり。
「はーい。嫁ちゃん、いま俺は列車の中にいるよ~」
「さっさと宮殿に来るのじゃ!!! バーニアつけて突撃して中から破壊するぞ!!!」
「言うと思った~ッ!!!」
「ふ、ふははははははははは! 人間をなめるなー!!!」
キレてらっしゃる。
ケビンもあきれる。
「殿下……相変わらず無茶振りするね……」
「ケビン……俺と逃げてくれるか?」
なお女性としてのケビンは求めてない。
ノーセンキューだ。
ただ単に寂しいからだ。
「やだ、レオと一緒にいたらいつ死ぬかわからないし」
「ですよねー!!!」
「それはいいとしてどうするの?」
「そりゃ、行くに決まってんだろ! 嫁ちゃんのためならやってやるさー」
そこで出血が止まり、平衡感覚も元に戻ってることに気づいた。
アサルトライフルを背負って狩りに戻る。
元の車両に戻ると兵士たちは……勇敢になっていた。
「こっちには皆殺しのレオがいるんだ! てめえらなんか怖くねえぞ!!!」
「ヒャッハー!!! 異星人は皆殺しだー!!!」
「ギャハハハハ!!!」
テンションがおかしい。
だが恐怖が死んだせいか戦況は恐ろしく有利になっていた。
これジェスターの能力か?
こんなんでいいのか?
「オラオラオラ! 殺してみろよ!!!」
次々と飛行型を撃ち落としていく。
俺いらなくね?
ゾークの弱点はなんとなくわかっている。
中心に急所があってそこをうまく撃ち抜くと一発で殺せる。
実弾兵器が一番尊い。
戦っていると宮殿が見えてきた。
どうやら俺たちは生き残ったようだ。




