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第五百二十八話

 実験体ちゃんと通信できるようにして正解だった。

 数分の膠着状態のあとイナゴコロリの散布がされた。

 今度は液体にしたのも用意しとこ。

 粉の方が軽くて長期保存できるんだけどね。

 俺たちは化学戦仕様の戦闘服……わかるかね?

 こういうことだ!

 俺たちごとイナゴコロリの一斉噴射。

 ドバー!

 人間には害はないと言えども……ひどくね?

 散布を楽にするために噴射剤も添加してるはず。

 前が……前が見えない!

 いきなり触手が現われた。


「ふんが!」


 気合で避ける。

 だけど敵も条件は同じ。

 見えてないもんねー!

 問題は毒の効果が即効性じゃないことだ。

 カビの毒は二段階、一段階目は神経毒。

 ただ、この神経毒がどこまで効くかわからない。

 もう一段階がイナゴの消化液と反応すると毒になる。

 人間には効果がない。いまのところは。

 というか改造されたイナゴにしか効果ない。

 だけど大量に吸い込むと影響があるかもしれない。

 なので化学戦装備が推奨されてる。

 こればかりはな~。

 通常の農薬の承認手順を完全に無視してるからな。

 悲鳴どころか子どもの声のマネすら聞こえない。

 ただ触手を振り回していた。

 これを効果なしとみなすか、それとも絶大な効果があるとみなすか。

 ただ、この程度の攻撃ならここに来たメンバーで食らうようなやつはいない。


「なあみんな!」


 みんなの背中が見えた。

 あれ?


「てったーい! 撤退せよ! 毒の効果が確認されるまで逃げ続けろ!」


 やだ俺より撤退が速い!

 俺もみんなと逃げる。

 部屋の外に出ると俺は叫んだ。


「妖精さん、ドアの開閉の権限奪って閉じ込めて!」


「はーい!」


「全員いるな!?」


「全員確認!」


 エディの声がした。

 次の瞬間、ドアが閉まった。

 ドッと疲れた俺は気合を入れて叫ぶ。


「全隊点呼ぉッ!」


 点呼大事。

 置いてかれたやつはいないな!


「末松さんは!?」


「一番最初に逃げました!」


「ヨシ!」


 偉い!

 今回、危機感が足りなかったのは俺だ。反省。

 点呼のついでに俺は扉に簡単なトラップを仕掛ける。

 足止めくらいにしかならないのはわかってる。

 でも一応ね。

 みんなに襲撃を知らせるためと考えたら作業コストとしては安い。

 ダクトテープでプラズマグレネードを扉の横に貼り付ける。

 グレネードのワイヤーを安全ピンにつける。

 触手で移動する生き物だ。

 避けられることもないだろう。

 ちょっと遊びを持たせる。

 ワイヤーに触れた瞬間に爆発だ。


「流れるようにトラップ仕掛けてる……びっくりするだろ? あれ、うちの大公様なんだぜ」


「いまの誰!?」


 俺が叫ぶとメリッサの腹筋が崩壊した。


「ふ、ふふふふふふ、もうやめてよ! 隊長!」


 なんて笑ってたらドアを叩く音が聞こえる。


「開けてよ~。ここは暗いよ~」


 子どもの声だ。

 意味なんてわかってないだろう。

 でも……この声が神経に触る。

 人間の本能が助けようとしてしまう声だ。

 だが理性は敵の偽装だとわかってる。

 反則だろ。こんなの。

 声が悲鳴、金切り声に変わる。

 知らずにこの声を聞いて助けに来たところを食らうってわけだ。

 だけど問題は化け物の知性があまりなかったことだろう。

 女性や子どもの声で悲鳴を上げながら激しく暴れてる。

 これで効果なしってことはないだろ?

 騎士たちの反応は様々だった。

 耳を塞ぐもの。

 声を聞いても動じないと気を張ってるもの。

 ただ怒りを貯めてるもの。

 俺? いつかこういう敵が来るとは予想してたから『無』。

 妖精さんも同じだ。

 事前のシミュレーションよりはマシな敵に逆に安堵してる。

 だんだんと声が小さくなる。

 これで敵が死んだ……ってのは楽観的すぎるのね。


「ケビン! ドローンは?」


「待機させてあるよ!」


 カメラの動画リンクが送られてきた。

 化け物が倒れてる。


「ケビン、敵に攻撃して」


「了解」


 ボンッと自爆ドローンの爆発音が聞こえた。


「動かないよ! ……ごめん、違った。まだ痙攣してる。毒が効いてきたみたい」


 即死するほどじゃないってわけか。

 この哀れな生き物に楽に死ねないほどの罪があったかはわからない。

 だが、死ねないってのには同情する。


「休憩するか」


 なんてつぶやいたのが悪かったのだろうか。

 最後の力を振り絞って化け物がドアに体当たりした。

 ドアはひしゃげ、敵が中から這い出してきた。

 次の瞬間、俺の仕掛けたトラップが発動した。

 プラズマグレネードが爆発する。

 爆発はこれで終わりじゃなかった。

 中を満たした殺虫剤散布でまき散らされたホコリに、ケビンの自爆ドローンにに、部屋の可燃性の物質。

 トドメになったのは散布用の噴射剤だろうか。

 それらに次々と誘爆していった。


「パーソナルシールド展開!」


 俺が叫ぶ前に全員がシールドを展開した。偉い!

 それでも化学戦装備じゃなかったら死んでただろう。

 だってヘルメット焦げたもの!

 パーソナルシールドがオーバーヒートした。


「い、生きてるか!?」


「生きてます!」


 し、死ぬかと思った。

 爆発コントで死ぬかと思った。

 死ぬほどくだらないオチで死ぬかと思った。

 あ、やべ!


「実験体ちゃんは!?」


「モンダイナイ」


「ドア閉めてたんで大丈夫です!」


「ナイス妖精さん!」


 戸締まり大事。

 ホント大事。


「敵は?」


「粉々だよ!」


 こうして……俺たちは帰るまでが遠足ですを完遂したのである。

 その後のことであるが、生命維持装置を作って実験体ちゃんと外に。

 クロノスの宮殿に連れて行く予定だ。

 実験体ちゃんは空を見ていた。


「今日はいい天気だ。太陽は直接見ちゃダメよ~」


「マブシイ……ダケド……キレイ……」


 実験体ちゃんの入ったケースに小鳥が止まる。

 敵を倒したところ汚染物質の排出が止まった。

 ……正確に言うと部屋ごと爆破したのでどれが原因で止まったか、現状ではわからない。

 汚染物質の排出が止まり、大地の浄化作業が始まると野生動物が少しずつ帰ってきた。

 どこかに逃げ延びてたようだ。


「まーた、隊長、野生動物を子分にする~」


 メリッサがそう言って笑うが、俺はなにもしてない。

 実験体ちゃんを見て小鳥が首をかしげた。


「ワレ……ソト……デレタ……ウレシイ……」


「おう、生命維持装置を小型化したからさ。宮殿の庭で散歩しようぜ」


「ウン」


 いろいろあったが、終わり良ければってことで。

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― 新着の感想 ―
新しい嫁?
実験体ちゃん幼い子だね。 体作ったら座敷童ちゃんと友達に成りそうだw
これ実験体ちゃんが歩ける様に身体用意したら女の子になっちゃったパターンくるか? 
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